第8話 復讐③
保健室の中。
ベッドの上に全裸の優菜が寝転んでいた。
今の優菜は顔面が潰れたトマトみたいになっており、はっきり言ってブサイクだった。
あんなに可愛かったのに、俺のせいでバケモンになっちゃったよ。
俺は「おーい、優菜? 生きてる?」と彼女に呼びかけてみる。
何度呼びかけても優菜は返事してくれなかった。
そりゃ返事するわけねぇよな。
だってもう優菜は死んでるし。
元カノを殺したのに、俺は落ち着いていた。
この子を殺したら絶対後悔するだろうな、と思ってたけどそんなことなかった。
後悔どころかスッキリしていた。
やぁぁ~、本当にスッキリした。
やっぱり暴力は素晴らしいな。
なんでも解決してくれる。
これからも嫌なことあったら暴力で解決しよう!
「ゆ、優菜……? お、おい? 優菜……? 返事してくれよっ、なぁ優菜」
高峰は今も優菜に声をかけていた。
そんな彼を見て、俺は小首を傾げる。
コイツ、なんで死体に声かけてるんだ?
頭おかしいのか?
あっ、分かった。
コイツまだ優菜が死んたことに気づいてないんだ。
「おい、高峰。優菜はもう死んだぞ」
「っ……」
俺がそう言うと、高峰の顔は絶望に染まる。
ボロボロと涙を流し、床にこぼれ落ちていく。
そんな彼を見て、俺は「はぁ……」とため息をつく。
コイツはいつまで泣いてるんだ。
カッコ悪いなぁ~。
「う、嘘だ……そんなの絶対嘘だっ。優菜は死んでないっ、まだ生きてるはずだ」
「は? 何言ってんだお前? 顔面を金属バットで20回以上は叩きつけたんだぞ? 絶対死んでるに決まってるだろ。バカか、お前は」
俺の冷たい言葉に高峰は悔しそうに唇を噛みしめる。
「なんでだっ!! なんでこんな酷いことするんだっ!! 優菜は女の子だぞ!! なんで女の子にこんな酷いことすんだよ!?」
「優菜が女の子? はははっ、お前はさっきから何言ってんだ! 優菜みたいなクソビッチは女なんかじゃねぇよ。アイツはただの雌豚だ!!」
「め、雌豚だと……?」
「そうだ! 浮気する奴は女なんかじゃね。セックスのことしか考えられない雌豚なんだよっ!! 実際、優菜はお前のちんぽこが好きすぎて浮気したんだろ? ただの雌豚じゃねぇか!」
「っ……き、貴様ぁぁぁっ!! 殺すっ!! お前だけは絶対に殺すっ!!」
「殺す? そんなの無理に決まってるだろ。今のお前は動くことすらできねぇじゃねぇか」
今の高峰は手足を骨折している。
無理に体を動かしたら強烈な激痛に襲われるはずだ。
つまり、今の高峰は体を動かすことすらできないってことだ。
俺を殺すことなんてできやしない。
はははっ、残念だったな、高峰~。
「さてっとお前と喋るの飽きたし、そろそろ終わらせるか」
俺は床に転がっている金属バットを拾い上げる。
金属バットを装備した俺を見て、高峰はガタガタと歯を震わせる。
「お、お前……俺のことまで殺す気か?」
「当たり前だろ」
「っ……そ、そんなことしても意味ないぞっ!? 絶対後悔するぞ!?」
「後悔なんかするわけねぇだろ。絶対スッキリするはずだ。実際、優菜を殺したときはめっちゃスッキリした。本当に気持ちよかった。大嫌いな奴をボコボコにするのがここまで気持ちいいとは思わなかったよ。どれぐらい気持ちいいか教えてほしいか? うーん、そうだな……射精と同じぐらい? いや、それ以上だ。復讐は射精以上に気持ちいいっ。これはマジだっ」
「……」
「俺さ、中学校の頃友達と一緒にパチンコ打ったことがあるんだ。あのときは5万円勝ったよ。ラッシュが続いてめっちゃ出玉が出るんだ。あの派手な演出を見るたびに脳汁がドバドバ出たよ。あのとき俺は「パチンコ以上に気持ちいいもんは存在しねぇ」と思ったけど、そんなことなかったわ。復讐の方が何倍も気持ちいいよっ。優菜を殺したとき、パチンコ以上にドバドバと脳汁が出たんだっ。まじで気持ちよかったぁ!! アレだっ!! 俺はあれを求めてた!!」
「……」
「あぁぁ~、またあの快感を味わいたいよっ。もっと脳汁を出したいんだっ。きっとお前を殺したらドバドバと脳汁が出るんだろうなぁ。心がスッキリするだろうなぁぁ~。あぁぁぁぁぁ~……もう我慢できないっ、早くお前を殺したいよっ!!」
「っ……く、狂ってるっ。貴様狂ってるぞっ」
「俺が狂ってる? はは、確かにそうだな……。だが俺がソシオパスみたいになったのはお前と優菜のせいだぞ? お前らが俺を狂わせたんだっ。お前が優菜を寝取らなければこんなことにはならなかったんだよっ。全部、お前と優菜が悪いんだっ。俺は何も悪くないっ、俺はただの被害者だ」
「確かにっ……俺がしたことは最低だ。けどお前がやってることは……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
突如、高峰が悲鳴を上げた。
喋ってる高峰がうざかったから金属バットで殴ったんだ。
再度金属バットで高峰の顔面にダメージを与えていく。
高峰の顔面は形を変え、どんどん化け物に進化する。
これ本当に人間か?と思わず疑問を抱いてしまうほど高峰の顔面はぐちゃぐちゃになっていた。
歯も砕けてるし……。
すげぇぇぇっ……本物のバケモンだ。
気持ちわりぃ。
「おーい? 高峰くん? 元気ですか~?」
あれ? 高峰くん返事しないな?
もしかしてもう死んじゃったのか?
「高峰くん? 大丈夫ですか~? まだ生きてます?」
何度も高峰に呼びかけてみたけど返事がない。
たぶん、高峰は異世界転生しちゃったんだろうな。
そっか、コイツも死んじゃったのか。
いやぁぁ~、まじでスッキリした。
復讐する前は心が沈んでたけど、今は実に気分がいい。
鼻歌でも歌いたい気分だ。
俺は復讐なんか意味ないと思ってた。
だって復讐しても浮気された過去は変わらないし、何も生まれないし……。
時間とエネルギーの無駄だと思ってたけど全然そんなことなかった。
復讐は成功すると気持ちいいし、心がスッキリする。
最高だっ。
「うわぁぁ……凄いことなってるな」
保健室の中を見て、俺はドン引きした。
白い壁と床が高峰と優菜の血で染まっていた。
ベッドには優菜の死体があるし、床には高峰の死体が散らばってるし。
こりゃ掃除が大変だな。
言っておくが、俺は掃除しないぞ。
面倒くさいし……。
つか、よく考えたら今の俺は犯罪者だな。
やばいな。警察に捕まっちゃうよ。
それは困るな。
いや、もういいや。
なんか疲れたし……俺も死ぬか。
どうせ俺の人生なんてこの先真っ暗だし。生きてても楽しくないだろう。
自殺した方がマシだな……。
自殺する前に、涼花ちゃんに電話するか。
俺はスマホを操作して涼花ちゃんに電話した。
電話はすぐに繋がった。
「あっ、もしもし、涼花ちゃん」
「ん? なに、どうしたの?」
「ちょっと君の声が聞きたくて」
「っ……そ、そっか。アタシも和樹くんの声聞きたかったよ」
「ははっ、そっか」
「う、うん……」
相変わらず涼花ちゃんは可愛いな。
でも……この子とお別れしないとダメなのか。ちょっと辛いな。
「涼花ちゃん……俺さ、自殺するよ」
俺がそう言うと、涼花ちゃんは「え……?」と声を漏らす。
驚いている様子だった。
そりゃ驚くよな。
だって急に好きな人が『自殺する』とか言い出すんだぜ? 驚くに決まってる。
「じ、自殺って冗談でしょ?」
「いや、俺は本気だよ」
「ちょ、ちょっと待ってよっ……なんで? なんで自殺するの?」
「……」
「ねぇ答えてよっ!! 和樹くんっ!!」
「……」
今さっき優菜と高峰を殺したこと。
もうすぐ警察に捕まってしまうこと。
それは嫌だから自殺すること。
全て涼花ちゃんに話した。
「お、お姉ちゃん殺したの?」
「ああ、殺したよ……」
「そ、そんなっ……」
「……」
自分の姉を殺されて、涼花ちゃんはショックを受けていた。
たぶん、俺のこと嫌いになっただろうな……。
「俺のこと嫌いになったか?」
「……ううん、嫌いにはなってないよ」
「は? おいおい、冗談か?」
「冗談じゃないっ、和樹くんのことは今も好きだよっ」
「いや、待て待て。俺は君のお姉ちゃんを殺したんだぞ? 言っておくけど嘘じゃないからな? まじで殺したんだぞ?」
「そんなの分かってるっ……それでもあなたのことが好きなのっ」
涼花ちゃんの言葉に驚きを隠せなかった。
大切な家族を殺したのに、涼花ちゃんはまだ俺のことが好きなのか。
「はは……」と笑みがこぼれた。
「君狂ってるよ」
「うん、知ってる。でも和樹くんも狂ってるじゃん」
「ああ、そうだな……」
「ふふ、アタシたちお似合いだね」
「うん」
涼花ちゃんは俺みたいなカス野郎をまだ好きでいてくれるのか。
本当にいい子だな……。
ちょっと狂ってるけど。いや、そういうところも彼女の魅力だ。
ほんと、俺は幸せものだな。
「ねぇ……本当に自殺するの?」
「ああ、自殺するよ……」
「……考え直してよっ。アタシ、和樹くんがいないと生きていけないよっ」
「はは、大袈裟だな」
「大袈裟じゃないっ。アタシ、本当にあなたのことが好きなのっ。ねぇ自殺はやめよ? お願いだから生きてっ」
「俺、もう生きるのがしんどいんだ……これ以上生きてても辛いだけなんだよ。だから自殺するよ。ごめんね、涼花ちゃん。君のこと愛してるよ」
「ちょ、ちょっと待って! 和樹くんっ!! アタシね! 今お腹の中にあなたの……」
涼花ちゃんの言葉を無視して電話を終了した。
スマホのスピーカーから涼花ちゃんの声が聞こえなくなる。
じゃあね、涼花ちゃん。
俺、今は君のことが世界で一番好きだよ。
愛してる。
Episode① 完結
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