第6話 復讐①

 保健室の中。

 ギシギシとベッドの軋む音が聞こえてきた。

 「あっあっ……」と女性の甘い声も聞こえてくる。


 カーテンが保健室のベッドを取り囲んでおり、中で何をしているかわからない。

 気になった俺はチラッとカーテンをめくって中を覗いてみた。

 すると、ベッドの上で肌を重ね合っている全裸の優菜と高峰が視界に入った。


 2人はプレイに集中しすぎてまだ俺の存在に気づいてない。

 コイツら保健室で何してんだっ……。

 ここはラブホじゃねぇぞ。

 

「んっんっ……」

「優菜、俺の気持ちいいだろ?」

「うん……すっごく気持ちいいよ……やっぱり晴人のじゃないと満足できないっ」

「ははっ、そうかそうか」

「んっんっ……」


 高峰が身体を動かす度に優菜はソフトクリームのような甘い声を漏らす。

 幸せそうだった。


 優菜の顔を見てると気分が悪くなる。また吐きそうだ……。


 くそっ。

 なんで被害者の俺がこんなに苦しんで、加害者のコイツらは楽しそうなんだよ。

 こんなのおかしいだろ。

 そうだっ、やっぱりこんなのおかしい。


 コイツらも地獄に落としてやる。

 この俺がお前らの人生を無茶苦茶にしてやるよ。

 覚悟しろ、お前ら。


 俺は思いっきりベッドを囲っているカーテンを開けた。

 すると、優菜と高峰はプレイを中断して俺に目を向ける。

 2人は驚いた顔を浮かべていた。

 けどすぐに鋭い目で睨んでくる。

 プレイを邪魔されてイライラしてるんだろう。


「なんだよお前!? 俺と優菜の邪魔すんなよ!! 今いいところだったのに!?」

「……」


 高峰のやつ、めっちゃ怒ってるんだけど。

 そんなにセックスを邪魔されたことが嫌だったのか?

 

 怒り狂っている高峰と優菜を無視して、俺は自分の考えを口にした。


「俺さ、復讐は意味ないと思ってるんだ。だって復讐しても何も生まないし、過去も変わらないし。スッキリはするのかもしれないけどはっきり言って時間とエネルギーの無駄だ。俺はどんなに辛いことがあっても絶対復讐なんかしないと心に決めてたんだ。俺、無駄なこと嫌いだし。実際、初めは優菜と高峰に復讐するつもりなんかなかったんだ。お前たちのことは忘れて前を向く予定だったんだけどな……」

「……」

「優菜に浮気されたのがトラウマで……最近全然寝れないんだ。目瞑ると優菜に浮気されたこと思い出して、気分が悪くなるんだよ。酷いときは優菜の顔想像しただけで食べたもの全部吐いちゃうんだ。昨日も食べたもの全部吐いちゃったよ……。あと、優菜に浮気される前は毎日7時間以上寝れてたんだ。結構寝てるだろ? 俺寝るの好きだからさ。けど今は毎日2時間ぐらいしか寝れねぇよ。あんなに寝るのが好きだったのに、お前たちのせいで今は寝るのが怖いよ……大袈裟だ、と思うかもしんねぇけどマジで寝るのが怖いんだ……。お前たちのせいでまともな生活すら送れねぇよ。なのに、なんでお前らは幸せそうなんだ? 俺はこんなに苦しんでるのに、なんで加害者のお前らは幸せそうなんだよ!! おかしいだろ!! 普通逆だろ!! 悪いのはお前らなのに!! 許せねぇ!! お前らだけは絶対に許せねぇ!! 復讐は無意味? 過去は変わらない? 何も生まれないし時間とエネルギーの無駄? だから何なんだよ!! そんなのどうでもいいんだよ!! お前らが不幸な目に遭うだけで復讐する価値があんだよ!! 殺してやる!! お前らをここで殺してやる!!」


 話し終えると同時に俺は金属バットを優菜と高峰に見せた。

 さっき野球部の部室から借用してきた金属バットだ。 

 凶器を手にしている俺を見て、高峰と優菜は驚いた表情を浮かべた。


「お、お前!? それで何するつもりだ!!」

「何ってお前らを殺すに決まってるだろ?」

「こ、殺す……? 冗談だよな?」

「冗談? 何言ってんだお前。俺は本気だぞ。まさか俺が人を殺すことすらできないヘタレ野郎だと思ってるのか? 心外だな。俺はやると決めたらとことんやる男だぞ」


 おそらくコイツらは俺の話を信じてない。

 どうせ殺すことなんかできない、と楽観的に捉えているはずだ。


 言っておくが俺は本気だ。

 この金属バットでコイツらを殺す。

 ははっ、楽しみだぜっ。


「ま、まじで俺らのこと殺すつもりかよ……?」

「ああ、殺すよ」

「ま、待てって……。そんなことしても意味ないだろっ。確かに俺らを殺したらスッキリはするかもしれねぇけど、お前もその家族も不幸になるぞ? わかってるのか?」

「ああ、お前に言われなくてもそんなことわかってるよ。全て分かった上でお前らを殺すんだ」

「……や、やめろっ。そんなことすんなっ。土下座するから許してくれっ。なぁ頼むよ」

「土下座? 俺がそんなので許すと思ってんのか?」

「許してくれないのか?」

「許すわけねぇだろ!! 俺の怒りは土下座なんかで鎮まるほどシンプルじゃねぇんだよ!! 馬鹿かお前はぁぁ!!!」


 高峰と会話してるとイライラするな……。

 もういい。

 コイツらと話すのはやめて、復讐を始めるか。


 俺は深呼吸をして頭に酸素を送る。

 よし、落ち着いてきた。


 焦るな、焦ったら復讐は失敗する。

 冷静に対応するんだ。

 よしっ、じゃあ始めるぞ。


 覚悟を決めた俺は金属バッドを思いっきりスイングした。

 高峰の腹部に金属バットが直撃する。

 

「がはっ……」


 高峰は腹部を両手で押さえながら床に崩れ落ちる。

 やべぇぇ……高峰のこと金属バットで殴っちゃったよ。

 なにこれ、めっちゃ気持ちいいんだけど。


 嫌いな奴をボコボコにするのってこんなに楽しいんだな。

 知らなかったよ。


 今も高峰はお腹を押さえながら倒れ込んでいた。

 実に滑稽だな。


 俺は金属バッドを頭上に持ち上げる。

 そして、勢いよく金属バットを高峰の右腕に振り下ろした。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 金属バットが高峰の右腕に直撃した。

 それと同時に高峰は叫び声をあげる。

 異常な痛みに涙まで流していた。


 それだっ、それだよ高峰っ。

 もっとその絶望に染まった声を聞かせてくれっ。

 その声だけが俺の癒やしなんだ。


 再度俺は金属バットを頭上に振り上げる。

 今度は高峰の左腕に金属バットを振り下ろした。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 保健室に高峰の悲鳴が鳴り響く。

 彼の左腕から赤い血が流れ、曲がってはいけない方向に腕が曲がっていた。

 うわぁぁ……すげぇ曲がり方してるな。

 もうこの腕は使い物にならねぇだろうな。


「お、お願いだ!! も、もうやめてくれ!! 頼むからやめてくれぇぇぇ!!」

「は? やめるわけねぇだろ。今度は足を痛みつけてやるよ」

「お、俺が悪かった!! な、なんでもするから許してくれ!! お願いだから殺さないでくれ!! 俺はまだまだした……あぁぁぁぁぁぁ!?」


 ベラベラと喋ってる高峰の左足に金属バットを振り下ろした。

 おいおい、なんか凄い音鳴ったぞ。

 もしかして骨折れたんじゃないか?


 よし、なら次は右足も折ってやるよ。

 金属バットで高峰の右足を痛めつける。

 頭上に金属バットを持ち上げ、高峰の腕や足に振り下ろす。

 ひたすらその作業を繰り返す。

 なんか餅つきをしてる気分だ。

 

「や、やめてくれっ!? もうやめてくれぇぇぇぇ!? あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 あまりの激痛に泣き叫ぶ高峰。

 鼻水まで出ていた。


 高峰の泣き顔クソブサイクだな。

 ブサイクすぎて笑いそうだ。


 ふと優菜に目を向ける。

 彼女は恐怖でガタガタと歯を震わせていた。

 怖いんだろうな。


 そりゃ怖いよな。

 保健室で恋人とセックスしてたら、急に金属バット持った元カレが復讐しにきたんだぞ。

 なにそれ、怖すぎるだろ……。


 俺もお前らの立場なら絶対泣いてる。

 お前らの気持ちは痛いほどわかるけど、容赦はしないからな? 

 確実に殺してやる。

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