第3話 裏切り

 結局昨日は一睡もできなかった。

 本当は7時間ぐらい寝たかったけど、目瞑ると俺以外の男とエッチしてる優菜を想像してしまい、気分が悪くなるんだ……。


 ちっ、優菜のせいで寝不足だ。

 眠すぎて思考がままらない。

 今日学校休もうかな……?

 

「母さん、今日学校休んでいいか?」

「なに? 熱でもあるの?」

「いや、熱はないけど……」

「なら学校行きなさい、分かった?」

「ちっ……わかったよ」


 俺は制服に着替え、自宅を後にする。

 自転車をこいで学校に向かう。

 10分後、学校に到着した。

 駐輪所に自転車を止めて、教室に移動する。


 教室の中に入ると、真っ先に優菜の姿が視界に入った。

 優菜も俺の存在に気づいたらしく、明るい顔を向けてくる。


「和樹っ、おはよう」

「……」

「ん? おーい、和樹? 聞いてる?」

「え? ああ……おはよう」

「うんっ、おはようっ」


 優菜が俺に笑顔を向けてくる。

 俺は優菜の笑顔が大好きだ。

 この子の笑顔を見てるだけで元気になる。


 だが今日は優菜の笑顔が気持ち悪かった。

 気持ち悪すぎて吐きそうになった。

 だ、ダメだっ。

 コイツの顔見ると吐きそうになる……。

 

「和樹……なんかしんどそうだね。具合でも悪いの?」

「あぁ……ちょっと気分悪いからトイレ行くよ」

「う、うん……」


 俺は教室を立ち去り、慌ててトイレに駆け込む。

 大便器に向かって昨日食べた物を吐き出した。

 

「うえぇぇぇぇ……」


 優菜の顔見たら吐いてしまった。

 何やってんだ俺は……。

 いや、けど仕方ないだろ。

 だってアイツ、浮気してるのにいつもと同じ態度なんだぞ? 

 アイツはああやってずっと俺のこと騙していたんだ。

 キモすぎるだろ……。


 や、ヤバい。優菜の顔思い出したらまた吐きそうだ。

 く、クソっ、もう我慢できない。


「うえぇぇぇぇぇ……」


 再度大便器に昨日食べた物を吐き出した。

 食べた物全て吐き出して、少しだけスッキリした。

 心はスッキリしてないけど……。




 ◇◇◇

 

 

 学校全体にチャイム音が鳴る。

 全ての授業が終わり、気づいたら放課後になっていた。

 え? もう放課後かよ……。

 やべぇな。眠すぎて今日の授業全て寝てたよ。

 学校に来た意味なかったな。


 俺は立ち上がり、優菜の席に向かう。


「優菜。一緒に帰ろうぜ」

「え? あっ、ごめん。今日は用事あるんだ」

「用事? なんだよそれ?」

「それはその……内緒」

「……」


 怪しいな……。

 もしかしてまた男と会うつもりなのか?

 

 なんか意識すると優菜の行動全て怪しいな。

 浮気しているようにしか見えない。

 

 こんな怪しい動きをしてるのに、どうして今までの俺は何一つ疑問に思わなかったんだ?

 たぶん、恋人フィルターのせいで頭が馬鹿になってたんだろう。

 そのせいで優菜の怪しい行動も見逃してたんだ。


 早く浮気の件について問い詰めたいけど、今日はやめとくか。

 なんか疲れたし……。


 優菜に「じゃあな」と別れを告げてから帰路につく。

 自宅に到着した俺はベッドに寝転んだ。


 さてと、ソシャゲでもするか……。

 俺はポケットの中からスマホを取り出す……はずだった。


 あれ? スマホないんだけど? 

 カバンの中か?

 カバンの中を探してみたけどスマホはなかった。

 なんでないんだ?

 

 あっ、そうだ……。

 学校の机に置きっぱなしだ。

 完全に忘れてた。


 めんどくせぇけど、取りに行くか。

 

 俺は自宅を出て、再度学校に向かう。

 学校に到着した俺は靴箱で外靴から上履きに履き替え、自分の教室に移動する。


 突如、教室の中から男女の声が聞こえてきた。

 どちらも聞き覚えのある声だった。


「二人きりだね」

「ああ、そうだな」


 あれは優菜と……高峰か?

 高峰たかみね晴人はると

 クラスメイトだ。


 まさかあの男が優菜の浮気相手か?

 いや、それは絶対ないはずだ。

 だって優菜はアイツのこと嫌いだし。

 高峰も優菜を嫌ってるし。


 アイツと浮気してるとは思えないけど。

 じゃあ浮気相手は別の男か? 


 誰だ? 

 一体誰が優菜の浮気相手なんだ?

 見つけたら……殴ってやる。

 いや、殺してやるっ。


 高峰が優菜に話しかけた。


「優菜、キスしようぜ」

「え? けどここ教室よ?」

「いいじゃんキスぐらい。それに今は俺達しかいないぞ?」

「そ、そうだけどさ……」

「ちっ、なんだよ。優菜は俺とキスしたくないのか?」

「そんなことないっ! アタシだって晴人とキスしたいよ……」

「ならいいじゃん、しようぜ」

「う、うん……わかったよ」


 優菜は瞼を閉じて高峰に唇を向ける。

 高峰は彼女の肩を優しく掴み、そっと唇を奪った。


 アイツら、キスし始めたぞっ……。

 え? どういうことだ? 

 優菜の浮気相手は高峰晴人なのか? 

 あの男が俺の女を奪ったのか?


 二人は唇を離して見つめ合う。

 二人の間にピンク色の雰囲気が漂っていた。


 今の二人は恋人のように見える。

 

「もうチューやめないでよっ……。ねぇもっとしよっ」

「ああ……俺もしたいっ」


 再度二人は唇を重ねる。

 体を密着させ、舌を絡め合う。

 唾液の交換までしていた。

 なんて下品なキスなんだ。


 ただ好きな人が他の男とキスしてるだけなのに、胸がチクチクと痛む。

 俺はこんなにも苦しんでいるのに、優菜は幸せそうだった。

 あんな幸せそうな顔見たことない。

 アイツと付き合って二年が経つのに、一度も見たことなかった。

 アイツ、あんな顔できるんだ……。


 高峰は優菜とキスしながらスカートの中に手を突っ込む。

 

「も、もうちょっと……どこ触ってるの?」

「なんだよ、嫌なのか?」

「ううん、嫌じゃないよ……けどここ教室だよ? 流石にまずいよ」

「大丈夫、大丈夫。どうせ誰も来ないよ」

「そ、そうかな?」

「ああ、そうだよ。だから続きしようぜ?」

「う、うん……」


 また二人はキスする。

 チュッチュッと不快なBGMが聞こえてくる。

 高峰は優菜にチュッチュッとキスしながらお尻を揉んでいた。

 NTRモノのAVを見てる気分だ。


 AV見るとすぐ興奮しちゃうけど、二人のプレイは一切興奮できなかった。

 気分が悪くなるだけだった。

 呼吸が荒くなり、キーンと耳鳴りが鳴る。

 目眩がして危うく倒れそうになった。


 やべぇ……気分悪くなってきた。

 また吐いちゃいそう……。

 

「優菜のお尻まじでデカイよな」

「っ……も、もうそれ言わないでよっ。気にしてるんだからっ」

「なに怒ってんだよ。言っておくけど褒めてるんだからな?」

「え? そうなの?」

「ああ、そうだよ。優菜のデカ尻は本当に魅力的だ。めっちゃムラムラする」

「ふ、ふーん、そうなんだ……って、ちょっと触り方エッチすぎっ。んっんっ……あっ♡」

「おい、変な声出すなよ」

「だ、だってアンタの触り方気持ちいいんだもん。声出ちゃうっ……んっんっ」


 高峰にお尻を触られて優菜は甘美な声を上げる。

 完全にメスの顔を浮かべていた。

 アイツら、ここでヤるつもりなんだっ。

 くそっ、くそっ、くそっ。


 チラッと優菜のスカートから下着が見えた。

 大きなお尻が丸見えの黒いTバックを穿いていた。

 なんて下品な下着なんだ。


 おそらく高峰を喜ばせるために、あの下着を選んだんだろう。

 なんで高峰のためにそんなエロい下着着けてるんだよ。

 優菜は俺のものなのにっ。

 彼女の体を好きにしていいのは俺だけなのに。


 頭に血が上り、どんどん思考力が低下していく。

 くそっ、めっちゃイライラするっ。

 ダメだっ、もう我慢できねぇっ。

 邪魔してやるっ。


 我慢できなくなった俺は教室の引き戸を勢いよく開ける。

 すると、お楽しみだった二人が視線をこちらに向けた。


 俺の顔を見て、二人とも驚いていた。

 俺は優菜に目を向けて、口火を切った。


「おいっ、どういうことだよ! 優菜!!」

「……」

「なんでそんな奴とキスしてるんだよ!! なんで拒絶しないんだよっ!!」

「……」


 俺の問いに優菜は黙り込む。


「おい! 答えろよっ優菜!! なんでそんな奴とイチャイチャしてたんだよ!! お前の彼氏は俺だろ!! お前は俺のものだろ!?」

 

 そうだっ、コイツは俺のものだ。

 優菜を好きにしていいのは俺だけなんだ。

 高峰みたいなカス野郎には絶対あげないぞっ。

 優菜もまだ俺のこと好きなはずだ。

 説得すれば奪い返せるはず。


 優菜は俺の言葉に返事した。


「違うわ……」

「え……? ち、違う? おいおい何言ってんだよ? お前は俺のものだろ?」

「違うって言ってるでしょ。もうアンタのモノじゃないわ」

「は……? 優菜さっきから何言ってんだよ? 俺達は恋人だろ?」

「違うわ……アンタのこともう好きじゃないっ」


 俺のこと好きじゃないだと……?

 え? どういうこと? 

 俺達恋人じゃん。

 俺達両思いだったじゃん。

 なのにどうして……。


 ダメだ、意味わかんねぇ。

 優菜の考えてることがわかんねぇよ。


『和樹、大好きだよ』


 あの言葉は嘘だったのか?

 ずっと俺を騙していたのか?


 嘘だろ? なぁ嘘だろ? 

 本当はまだ俺のこと好きなんだろ?

 なぁそうなんだろ……?


 顔を上げると優菜と目が合った。

 彼女は冷めた目で俺を見ていた。

 なんだよその目は……。


 や、やめろ、そんな目で俺を見るな……。


「アタシ、和樹と別れて晴人と付き合うことにしたの。悪いけどアタシのことは忘れて」

「ソイツと付き合うだと……? あはは……冗談だよな?」

「冗談じゃないわ。もうアンタじゃダメなの。晴人じゃないと満足できないの……」

「満足できない……? ま、まさかお前らもうエッチしたのか?」

「ええ、昨日たくさんしたわよ。ねぇ晴人?」

「ああ、たくさんしたな、優菜」


 たくさんしただと……?

 なんだよそれっ。何だよそれはっ!!!

 

「ふざけんなよっ!! なんで俺以外の男とエッチしてんだよっ! お前の体は俺のもんだろっ!!」


 そうだっ、この女は俺のものだっ。

 俺だけが優菜の体を好きにできるんだっ!!


「え!? あっ、ちょっと!? う、嘘……!? アンタ何してんの!?」


 怒り狂った俺は優菜に接近し、絶対逃さないよう抱きしめる。

 そして、強引に優菜の唇を奪った。

 優菜は俺とのキスを嫌がっていた。


 なんで嫌がってるんだよ……。

 お前は俺の物だろ。


 優菜は俺とのキスを阻止するために抵抗してくる。

 彼女の抵抗を無力化し、俺の唇を彼女の唇に押し付ける。


 大人のキスをしながら彼女の胸に手を伸ばす。

 手に力を入れると優菜の胸は歪む。


 俺のもんだっ。

 優菜は俺のモノだ!!


 この唇も、胸も、お尻も、太ももも、大事なところも全て俺のものだっ!! 

 誰にも渡さねぇっ!


「てめぇぇぇ!!! 何してんだよ!!!! 優菜から離れろっ!!」


 優菜の唇を楽しんでいると、顔面に強烈な痛みが走った。

 い、痛いっ! 

 なんだこの尋常じゃない痛みは……。

 そして気づいたら床に倒れていた。

 

 高峰が俺の顔面を殴り、その反動で床に倒れてしまったのだ。

 

「このカス野郎がぁぁぁ!! お前はもう過去の男なんだよっ!! 優菜は俺のもんだっ!!」


 高峰は倒れ込んでいる俺の腹部を蹴ってくる。

 何度も、何度も不規則なリズムで腹部を蹴ってくる。

 

「ぐはっ……」


 尋常じゃない痛みに視界が濁ってくる。

 油断したら気を失ってしまいそうだ。


 やべぇ……まじで痛いっ。このままじゃ死ぬかもっ。

 誰か助けてくれっ。頼むから助けてくれっ。

 ゆ、優菜、お願いだっ、俺のこと助けてくれっ。

 まじで痛いんだよっ。

 痛すぎて涙まで出てきたっ。


 ふと優菜に目を向けると、彼女は俺の心配なんかしてなかった。

 心配どころか、高峰とキスをしていた。


 優菜のヤツっ、俺の心配せずにあの男とキスしてやがるっ。

 キスしている二人を見て俺は悟った。


 俺は高峰に負けた。

 負けてしまったんだ。


 もう優菜の心と体は高峰のモノなんだろう。

 アイツだけが優菜を好きにできるんだ。

 今、俺が優菜の体を触ったらレイプになるんだろう。

 くそっ、くそっ、くそっ。

 

 悔しくて涙が出てきた。

 赤ん坊のように泣いていると、二人の会話が聞こえてくる。

 

「優菜、今日もエッチしような?」

「うん、いっぱいしようね」

「もちろん生でいいよな?」

「晴人ならいいよ」

「ははっ、サンキュー」

 

 二人の会話に俺は絶句する。


「な、生だと……優菜、ソイツと生でしたことあるのか?」

「ええ、昨日たくさんしたわよ」

「っ……な、なんでだよ? なんでそんな奴と生でしたんだよ? 俺には一回も生でさせてくれなかったのに……」


 俺は優菜と数え切れないほどエッチしたことがある。

 お口でしてもらったことあるし、あの大きな胸で挟んでもらったこともある。


 だが、生でしたことは一度もない。

 「生でやらせてくれ」と頼んでも、それだけは許してくれなかった。

 だが、あの男には許したらしい。


 高峰には許したのか……。


 たぶん、中出しも許したんだろうな。

 高峰の赤ちゃんを生みたいと本能的に思ったんだろう。


 ははっ、はははっ……。

 俺、ただの負け組じゃん。

 なにこれ、めっちゃカッコ悪いんだけど。

 

 あぁ……だせぇ。ほんと俺だせぇわ。

 もういいや。優菜なんかどうでもいいや。


 このクソビッチは忘れよう。

 こんなヤツに恋した俺が馬鹿だった。

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大好きな彼女に裏切られ、俺の心は壊れしまった 理亜 @ria012345

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