元魔王、リーダーと対面する



安全地帯の中心に案内されると、凛真の目の前には簡素だが丈夫そうなバリケードに囲まれたテントがあった。その前には、数人の武装した警護が立っている。そして、そのテントの中から一人の女性が姿を現した。年の頃は二十代半ばと見え、精悍な目つきに鋭い雰囲気を纏った彼女は、この安全地帯のリーダーであるらしい。


「彼が、あの三つ首の魔獣を倒したっていう人?」


凛真の姿を一瞥した彼女の目に、驚きと警戒が混じる。彼はその視線を受けても動じることなく、穏やかな微笑みを浮かべていた。


「その通りだ。九条凛真だ。ここに来たばかりの旅人で、少しこの世界のことを知りたいと思っている」


「九条さんね…。私は橘奈々美(たちばな ななみ)、この安全地帯の指揮を任されている」


奈々美は一瞬ためらった後、凛真に向かってしっかりと手を差し出した。その態度に、彼女のリーダーとしての覚悟が感じられる。凛真は彼女の手を握り、互いの存在を確かめ合うように握手を交わした。


「あなたが来てくれたこと、正直驚いているわ。今、この街は絶えずモンスターの襲撃にさらされていて、私たちも限界寸前だったの」


奈々美の言葉には隠しきれない疲労と、それでも守り続けなければならないという強い意志が込められていた。凛真は彼女の話を黙って聞きながら、この世界の状況を少しずつ理解していく。


「この安全地帯は、私たちが最後の拠点として守っている場所よ。政府も秩序も崩壊し、まともな生活ができる場所は数えるほどしか残っていない。かつての日本は、もうどこにもないわ」


「なるほど、どうやらかなりの荒廃ぶりだな」


凛真は軽く頷くと、改めて周囲を見渡した。この場所に集まる人々の表情からは、絶望や不安がにじみ出ている。それは、彼がかつて魔王として君臨していた異世界で、弱者が強者に怯えていた状況と重なるものがあった。


「ならば、この世界で生き延びるためにはどうすればいいか、教えてもらえるか?」


奈々美は少し驚いた顔をしてから、深く息を吐いた。


「…そうね。あなたがあの魔獣を一瞬で倒したことは確かに信じられないけれど、もし本当に協力してくれるなら、私たちはあなたの力を頼らざるを得ないわ」


彼女の口調からは、凛真への期待と不安が入り混じっているのが感じられた。奈々美は、リーダーとしての立場を背負いながらも、周囲の人々を守るためにできることを探し続けてきたのだろう。


「もちろん、俺には少しこの世界のことを知る必要がある。だが、そのついでにお前たちの守りを手伝ってやるのも悪くない」


凛真の言葉に、奈々美は静かに頷いた。そして彼女は、傍に控えていた部下に指示を出し、すぐに周囲の様子を見張るように命じた。


「では、早速だけど、今この安全地帯の周囲に出没しているモンスターの巣がいくつかある。そこの掃討を手伝ってもらえるかしら?その様子を見れば、あなたの力が本物かどうかも確かめられるわ」


「わかった。俺がやってみせよう」


凛真は軽く頷くと、奈々美に続いて巣のある方向へと歩き出した。彼の歩みには迷いがなく、その背中にはかつて異世界で魔王と称され、戦いの頂点に立った者の風格が漂っていた。

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