安全地帯へ
若者たちは、九条凛真に半ば呆然とした様子で安全地帯までの道を案内し始めた。彼らにとって、モンスターを一撃で仕留める姿は信じがたい光景だったのだろう。歩みを進める凛真の後ろで、彼らはひそひそと何かを話し合っているが、耳のいい凛真には全てが聞こえていた。
「…あの人、何者なんだ…?あんな怪物を一瞬で…」 「しかも見た目は普通の人間だし…もしかして新しい"覚醒者"か…?」
「覚醒者」と呼ばれる言葉に、凛真は興味を覚えた。異世界で魔王とまで称された自分にとって、現代のこの地での力関係がどのようになっているのかはまだ不明だ。しかし、ひょっとすると、この「覚醒者」と呼ばれる存在が現代での力を象徴するのかもしれない。
しばらくすると、凛真の目の前にバリケードで囲まれたエリアが見えてきた。そこは、荒廃した街の中で異質なほどに整備され、人々が行き交う小さなコミュニティだった。守衛らしき男たちが武器を構えて立っており、若者たちが凛真を伴っているのを見て警戒しながらも道を開けた。
「ここが…安全地帯です。僕たちは少し前からここに避難しています」
若者の一人が説明し、凛真を案内してくれた。安全地帯の中では、多くの人々が暮らしており、各所に簡易なテントや小さな露店が並んでいる。凛真が歩くと、周囲の人々が彼をじろじろと見ているのを感じた。
「なんだ、どうやら目立つ存在になってしまったらしいな…」
そんな凛真の独り言を耳にしたのか、若者の一人が小さく苦笑した。
「ええ、まぁ…このエリアでこんなに落ち着いた表情をしている人なんて、ほとんどいないですから」
彼は凛真の顔を見上げると、どこか頼りない様子で続けた。
「…この安全地帯も、最近はモンスターの襲撃が増えていて、いつ崩壊してもおかしくないんです」
凛真はふと足を止め、彼の言葉に耳を傾けた。かつて異世界でも、人々が自分の力を頼っていた日々がよみがえり、何とも言えない感慨が胸に浮かんだ。
「そうか。なら、俺が手を貸してやってもいいぞ」
「えっ…!?本当ですか?」
凛真の言葉に、若者の目が驚きと喜びで見開かれた。だが、凛真は淡々と肩をすくめて続けた。
「俺には少し、この世界のことを知る必要がある。お前たちが困っているなら、そのついでに助けてやるだけだ」
そう言って微笑む凛真の姿に、若者たちは感謝の表情を浮かべた。この地の人々は誰もが不安と恐怖に怯えながら生活している。だが、彼のように圧倒的な力を持つ者が現れることで、わずかでも希望を感じられるのかもしれない。
「ありがとうございます…!では、僕たちのリーダーに紹介します!」
そうして、凛真は若者たちに案内され、安全地帯の中心へと向かって歩き出した。その先には、今の時代を生き抜くために集った人々のリーダーが待っている。彼が現代に蘇った理由を知るには、まずこの世界のことを把握しなければならないと、凛真は心の中で思っていた
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