荒廃した現代



九条凛真が目を覚ました場所は、かつて「日本」と呼ばれていた土地だった。だが、彼が知る日本の面影はそこにはない。建物は崩れ、廃墟と化した街の至るところで草が生い茂り、道には巨大なクレーターやモンスターの足跡が無数に刻まれている。


彼が立っている場所は、昔であれば大都市の一角だったようだが、今はただの無人の荒野と化していた。気配を研ぎ澄ませると、遠くからかすかに人間の声が聞こえてきた。


「…ふむ、まだ人類は絶滅していないようだな」


封印から解かれ、半ば本能的にこの現代世界に適応しつつある凛真にとっては、かつての力の全てを発揮できるかはまだ未知数だった。しかし、異世界で魔王の座まで登り詰めた彼にとっては、たとえ不安定な力でも、この世界で生き延びるのに十分だった。


声の方向に歩みを進めると、次第に人影が視界に入ってきた。数人の若者たちが、廃墟と化した街の中で何かに追われているようだった。凛真が近づくにつれ、その背後には巨大なモンスター――三つ首を持つ狼のような魔獣が、牙をむき出して追い詰めていた。


「くっ、逃げ切れない…!誰か、助けて…!」


一人の青年が倒れ、必死に周囲を見渡して助けを求めている。その叫びに応じる者は誰もおらず、他の仲間も恐怖に駆られ、見捨てて逃げようとしていた。


そんな彼らの前に、ふと凛真が立ちふさがった。彼は静かに三つ首の魔獣を見据え、その恐るべき威圧感に、周囲の空気が張り詰めるのがわかる。魔獣は凛真を新たな獲物と認識し、唸り声をあげて襲いかかってきた。


「随分と雑魚が増えたものだな。だが、俺を相手にするには百年早い」


凛真は冷たく呟くと、わずかに手を振り上げた。その瞬間、彼の指先から放たれた一撃が魔獣を直撃し、三つの首が一瞬で消し飛んだ。かつて魔王として戦った経験が染みついた彼の技は、衰えるどころか鋭さを増しているかのようだった。


その光景を目の当たりにした若者たちは、呆然と立ち尽くしている。


「お、お前は…いったい…」


凛真は微笑を浮かべながら、彼らに向けて口を開いた。


「ただの旅人さ。お前たち、ここら辺にまだ人が住んでいる場所があるか?」


突然の質問に、若者たちは戸惑いながらも、凛真の問いに応じて口を開いた。


「え、ええ…安全地帯がこの先に…。そこには、数少ない人々が集まっているんです…」


「ほう、なるほど。なら案内してもらおうか」


彼は悠然とした態度で若者たちに歩み寄り、その表情には、ただの「旅人」にしては不敵な自信が見て取れた。かつて人間だった男が異世界で魔王となり、そして現代に舞い戻る。果たして彼が目指す先には何が待っているのか――九条凛真の新たな物語が、静かに動き始めたのだった。

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