その暗殺者は蜜の味

第9話 お店巡り

　「いらっしやいませー！″呉服・エスエステロニー″へようこそ！好きなだけご覧下さい！」

　そんなこんなで私は皆と服屋に来た。中は洋風で服屋にしてはとても広い。

「蜜奈ちゃんっていつも独特な服着てるからさ、最近の最先端ファッションを私が教えてあげようじゃないか！」

　え、和服って独特だったの…！？

「蜜奈ちゃんは可愛いですから、きっとどんな服も似合うと思いますの！ねえ律ちゃん！」

「蜜奈、新しい服…いいね」

「蜜奈ちゃんの新しい服、私も楽しみですわ！」

「ってな訳でまずはこれいってみよー！」

「あーあ、女子たちが大暴走してるよ」

　そんなゴタゴタの後ろで、男子たちが固まって何かを話していた。

「僕たちは僕たちで新しい服を買うか？」

「おれは蜜奈のファッションショーを楽しむわ」

「ちょっとキモイな蓮華！いつも以上だ！」

「いやいや、楽しみだろうが！だってアイツ強さは不気味レベルだけど、普通に可愛いし！深矢だってそう思うだろ！？」

「あー、言われてみればたしかにちょっと楽しみかもしれないか？」

「和水も蜜奈ちゃんの新ファッション気になるなー」

「僕は遠慮しときます。自分の服を探したいので」

「お、いいな！俺も将星について行くとする！3人は蜜奈達と服選びをしていてくれ！」

「わかったよー」

　男子グループがそれぞれの回り方を決めている間に私は囁華に着替えさせられていた。正確に言うと囁華が持ってきた服と急かされるように試着室にぶち込まれた。

「それじゃあ、1着目！」

　試着室のドアを開ける。

　若干黄色がかったサイズの大きい白のパーカーと、赤いベレー帽、短いジーパンで、可愛らしい見た目となっていた。

「か、可愛いぃぃぃぃぃい！」

「何これ！？可愛すぎじゃなくて！？」

「蜜奈ちゃんはなんだか普段おっとりとしてるから、萌え袖のパーカーが実に映えますね！」

「最高」

「ちょっ、みんな！褒めすぎ褒めすぎ！」

「照れてる顔も可愛い。最高」

「もー、律ちゃんまで…」

「うーん、これはこれはなかなか…」

「蓮華、キメェ」

　深矢が蓮華にチョップをお見舞いする。

「いってぇ！悪い悪い！鼻の下伸ばしてたの認めるから！そんなにキレんな！」

「いや、キレてねえし」

「これはキレてるねー」

「うっせぇ！」

　そんな男子たちの会話や女子たちの褒めちぎりを喰らいつつ、山科ちゃんが持ってきた服と一緒に、またもや試着室にぶち込まれた。

「それでは、どうぞっ！」

　囁華の合図で試着室のドアを開ける。

　ファッションはサングラスをかけ、黒のカーゴパンツに白でノースリーブのインナー、その上から肩を出すようにと指定されていたので茶色のパーカーを袖に腕を通し、肩にかけないという何ともボーイッシュなコーデだった。

「えーっ！かっこいいー！」

「正直蜜奈ちゃんがここまでカッコよくなるとは思っても見ませんでした…」

「ここまでオシャレだと、私の今日のコーデが霞んで見えますわ…。でも本当にカッコイイ！」

「もー、やめてよみんなー！」

「待って、これ食べて」

　そして咥えさせられたキャンディー。

「キャーッ！これは流石に惚れるわ！」

「破壊力が凄まじいですね…！」

「タバコ風キャンディーという可愛らしさが堪んないねぇ！サングラスで頑張って強がりを見せつつ、更にタバコでかっこつけようとしてるけど、タバコが苦手でやむなくキャンディーにしちゃってるような愛らしさ、良い！良すぎる！！」

「はい、オタク出てるぞ律」

「おっと失礼」

「もー、褒めすぎだって…！」

「うーん、やっぱりカワイイ系も良かったけど、こんな感じのが来ると思ってなかった分、印象強いな」

「お前も冷静に分析すな」

　ｽﾊﾟｧﾝ!!

　またもやチョップが炸裂する。

「いったぁ！！いやいや、今のは率直な感想言っただけじゃん！流石に理不尽だろ！」

「たしかにカッコかわいいけど、お前が言うとなんかその…キモイ」

「ひっでぇなぁおい！」

「おー、男子からも好評だねぇー」

「まあそれだけの魅力が詰まってるもの。これは当然ですわね」

「じゃあ次は私。これ」

　次は律ちゃんが持ってきた服。

「大丈夫か？オタク過ぎる服じゃない？この子の好きな物語、露出多い服ばっかりだから…」

「現実の友達にそれを着させるとかいうほど人として落ちぶれてない。ほらこれ」

　っーー！友達！ともだち…！友達って言ってもらえるって、いいなぁ…。

　そんな事を考えながらまた試着をする。

　そして着替え終わり、ドアを開ける。

「これ、どうかな…？」

「…」

「…」

「？」

「おぉ…」

「神だ…」

「神ですわ…」

「そこまで？」

「まって律ちゃんセンス良すぎ！これやばいよ！」

　私が着たのは白のシャツに黒いパーカー、茶色のスカートとタイツを穿いたというものだった。さっきのキャンディーが食べ終わっていないのでまだ咥えているという所か。

「これは流石に…かわいいかも…」

「おっ、深矢がデレたー」

「うっせえ！」

「蜜奈、それは買おうか。命令ですから」

「え？ああ、うん！せっかく選んでくれたしね！」

　そういった感じでその後もいっぱい服を着せられては、絶対に買えという命令が下った。

「それでは合計が72000セルとなりまーす！」

「72000！？ごめん皆、普通に足りないかもしれないけど、どうしよう！？」

「大丈夫大丈夫、私たちもお金流石に出すから！」

「まあ私たち大体実家が太いので、お金だけならいくらでも出せますから！」

「なんなら、時期王女がここに居るのよ！」

「みんな…！」

「ま、俺もフラペチーノ代以上は返せそうかな」

「それは気に食わないから深矢は払わないで」

「なんでだよ！！」

「カッコつけられなくて、ドンマイだね」

「うるせえ！」

　皆がどっと笑う。私も遠慮なく笑わさせてもらった。人の温もりというものを、心の底から感じた。

「お、皆！会計を終わらせたのか！」

「そうだよー。そっちは？」

「僕たちは結局ピンと来なくて、今日はやめておく事にしたよ」

「俺も同じ感じだな！」

「じゃあ店を出るとしましょうか！」

「そうですわね。次は何処に行くか決めるとしましょう！」

「おっけー！どこ行こっか！」

　そんなこんなで、次の行先を決め、遊び、もう1箇所寄って遊ぶと、そこそこに日が落ちてしまった。

「今日は楽しかったねー」

「結構満足したかな」

「いやー、蜜奈ちゃんへの視点が、360°変わったねぇ！」

「それなんも変わってねえよ」

「はっ！ホントだ！」

「そう言って貰えると嬉しいかも…」

「あら、照れてますの？」

「違う」

「可愛いですねー！」

「違うって！」

「可愛い可愛い！」

「もー！サリアうるさい！」

「あーらすいませんっ」

「よーしじゃ、ここいらで解散にしちゃおっか！」

「ああ、そうするか！」

「おっけー」

「「ばいばーい」」

　そうしてみんな解散していく。勿論私も含めて。

　そして、薄暗い帰路に着く。

　まだ僅かにのこる夕日が差さる。

「いやー、今日は楽しかったなー！」

「それは何よりだな」

「おっと万妖霊寿の事すっかり忘れてたよ」

「酷くね？」

「冗談だってば。…ん？」

　あからさまにおかしな挙動をしている小鳥がいる。うろうろしているというより、周りの何かを探している…？

　ﾊﾞｯ!

　あ、こっち向いた。…なんかこっちをじーっと見つめてくるな。ああ、そうか。

「なんだあの鳥。少々不気味だな」

「ああ、万妖霊寿には言ってなかったね。私は暗殺一族の娘でさ。多分その依頼じゃないかな」

「暗殺一族…！なるほど、蜜奈は蝶乃の血族か。道理でここまで強いわけだ」

「有名なんだ？」

「有名というより、古代の知る人ぞ知る蝶乃様のような感じだったな」

「ふーん」

「反応が思ったより薄いな」

「まあそんなもんだろうなって感じだったし？」

「血族に対しての解釈が軽いな…」

　そんな話をしながら鳥に近づくと、近くの小道に入っていった。

　その小路に入ると、その鳥がこちらを見て構えていた。

「イライヲツタエル。″ラクシ8世″トイウキゾクノアンサツヲイライスル。キゲンハコンヤマデニシュウリョウスルコト」

「はーい」

「ソレデハケントウヲイノル」

　そしてその鳥が何処かへ飛んでいく。多分父さんの元に行くのかな？

「随分と手馴れているな。この依頼は何回目なのだ？」

「何回目というか、これが初めての依頼ではあるね」

「そうか、今世では初めてなのか。蜜奈は転生者と言っていたな？前世の経験が身に染みている感じがする」

「そうかな？まあ万妖霊寿がそういうならそうなのかな…？」

「言い方は悪いが、人を殺すという前提の仕事に緊張を感じていないようだ」

「…」

「…」

「…そっか」

「すまない。少し良くない発言だったか」

「いいのいいの。気にしないで」

　通りに出るともう辺りはかなり暗くなってしまっていた。街灯がほのかに街を照らす。

　そんなこんなで今夜、貴族の暗殺任務を遂行するのだった。