第4話 ひたすらに

 浅条 柘榴、10学年の絶対的エース的な存在…だと思う。あそこまでの貫禄を考えると、この学校の生徒で恐らく1番強いやつなんだろう。なんなら普通の教師をも超えている。

 まあでも私の敵じゃないかな。


「それでは相手と10メートルほど距離を取ってくださーい!」


 この学校は広いから、2学年が10メートル距離を取りつつ戦うとなっても充分の空間がある。


「それではルール説明でーす!魔法でも武術でも剣術でもなんでもいいので、相手を殺さずにボコボコにしてくださーい!9学年は、10学年の動きを学ぶようにしてくださいねー!できたらの話ですけどー!」


 相変わらずの嫌味っぷりだ。けれど相手をボコボコにするんだったら私なら余裕にできる。



「それでは用意…」


 9学年みんなの顔が不安気になる。それとは逆に10学年は余裕気だ。無論柘榴も例外ではなく余裕じみた顔をしている。


「始め!!」


 始まりの合図、他のペアは行動に入った所がほとんどって感じだ。

 一部は相手の様子を伺っている。

 あれでも始めたところは決着がついてそう。もちろん9学年の惨敗って感じ。

 だけどA組のみんなはほぼ残ってるっぽいぞ?様子見で動いてないだけかな?私も含めてだけど。


「来ないのか?」


「そっちこそびびって近づけないんじゃないの?その剣はお飾りかな?早く来てみなよ」


「ふん、上等だっ」


 柘榴が攻撃するため、地面と平行にこちらへ飛んでくる。


 私は右に跳んで進行方向から避ける。


「逃げるのか?いいぞ、すぐに決めてやるさ!」


 確かにフォームは悪くない。筋肉の付け方もしっかり戦闘向きだ。

 柘榴が右足を踏み込み、こちらへ照準を合わせ向かってくる。

 私は立ち止まり、受け止める体制に入る、といっても剣を持って棒立ちってだけなのだけれど。


「なんだ、諦めたのか?つまらないな!まぁ余りで私と組むことになってしまったのだから、仕方がないがな!」


 確かに基礎はできてる。でもね、


「余裕ぶっこいてるところごめんだけど、もう君の実力は読めちゃった!」


「ホラ吹くんじゃない!貴様など1撃で終わりだ!」


 私は黙って彼の少し左に、ポケットに入れていた石を投げる。


「なんだ?それが攻撃か?全くもってしょうもな



 〈紺の術〉其の三 錠越



 これは対象と対象の位置を入れ替える術、錠越。今回は石と私の位置を入れ替えた。

 丁度柘榴の首の真横。




 トンッ


「グハッ!?」





 柘榴が悶絶する。

 いわゆる首トンを炸裂してやった。前世の世界ではあまり効かないとされているけど、この世界は首元に魔力の通り道とかなんか色々あって、結構首トンが効く。


「なっ…!?なん、だ?今のは…?」


「おっと、殺さないようにって手加減しすぎちゃった。まだピンピンしてるよ」


「ほざけ、今のは…俺の瞬きと奇跡的に…被さって貴様の攻撃が…通じたのだ。だがもう…容赦はしない!!」


 彼が怒涛の攻撃を開始する。


「貴様はこの火炎魔法の豪雨を躱すことはできるかな?マグレでできたとしても、私にはもう指1本触れることはできないがな!」


 柘榴は大量の火球を私に向けて放つ。火球は確かに数はある。だけど1つ1つは私にとっては微弱な火の粉にしか見えない。


「豪雨?馬鹿は休み休み言いなよ。こんなの霧雨もいいとこじゃないか!」


 私は片手の剣で魔法を掻き消しながら挑発する。


「うるさい黙れ!ここに私の剣術が入れば、お前はもう消し炭だ!」


 だんだん感情的になってきている。冷静さを欠いたまま、剣をこちらに突きつけながら向かってくる。


「生憎、炎魔法は私も得意なんだよ。こんなのとは比べものにされたくない程度にはね」


「だっ、くそ!うるさいわ!黙れ黙れ!!」


 剣を振ってくるが私はそれを後ろに避ける。2撃目、3撃目と来るがそれも後ろへ避ける。


「ほらほら、まだ単純ったらありゃしないよ?フェイントとかを入れて、私の体制を崩さなきゃ!そのままじゃ、10学年の恥だよ!」


「あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


 あらま、発狂しちゃった。最初は楽しませろなりなんなり言ってたのに。全く、しょうもない男だなぁ。

 ってあれ?


「…」


「どうしたの?もう攻撃は終わりかな?」


「うるさい」


「残念、発狂してる柘榴の方がうるさいよ」


「…もう貴様には全力の魔法をぶつける」



 おっと、火の粉の霧雨が止んだと思ったら柘榴が何かを言い始めた。


「逃げることも、防御することもままならない、超必殺…」


「待ちなさい浅条さん!」


 10学年の先生が遠くから声を掛ける。


「あなた、あなた自身の魔力を全て使い切って爆破魔法を出そうとしていますね?先生は許しま


「うるさい!もうおれは、何をしてでも勝つしかないんだぁぁぁああ!!!」


 柘榴が魔力を貯め始める。

 …なんか違和感だな?

 なぜここまで私に敵対してくるんだ?確かに私は挑発ばかりして柘榴を乱しているし、柘榴もプライドが高い感じだから取り乱すのは当然ではある。

 でもそれにしても殺気が強すぎなんじゃないか?


「ふーっ、ふーっ、さぁ、冥土へのご案内だ」


 ちょっとまて、周りにいっぱい人がいるんだよ?こんな所で爆発なんてしたらみんなは巻き込まれてグシャ、だよ!どうしよう、私と彼を結界で包むのが最善だよね?…うん。そうしよう。



『空間魔法』 封印庵勤ふういんあんごん



 絶対隔離の防御魔法、外からも内からも壊すことはできないし、光すらも通さない。

 さて、彼の様子は…?




     ◇◇◇




「どうなってんだよ…」


 俺、十六夜 深矢は蜜奈の魔法を見ていた。


「これは、常識を逸する魔法です。ここまで純度の高い魔力は10学年にも一切としていません、悔しいですが」


「流石の10学年さんでもそう思っちゃうわな」


 俺は模擬戦が始まってから10学年のやつと様子見をしていた。俺は9学年の中でもかなりの実力者だと思うから、別に瞬殺されるわけじゃなかった。

 様子見をしながら、軽く技を繰りあっていると、近くのやつの火炎魔法が相手の服に着き、少しずつ灰の面積が増えていく服を纏いながら、相手は棄権していった。

 これは戦略的撤退であり、覚悟の棄権だ!とかなんとか言いながら。

 この魔法は一体どこから?そう思い周りを確認してみたら、すぐにわかった。

 あそこだけ異様なほどの魔法の連発を喰らっている場所があった。周りの視線もあそこに釘付けだ。

 あれは浅条 柘榴?お相手さん可哀想にな、などと考えていたが、対戦相手を見た俺は言葉を失った。

 蜜奈!?

 相手は蜜奈だったが、驚きの中心はそこではない。

 蜜奈は浅条を軽く扱っていたのだ。何者なんだ…。しかも衝撃音ではっきりとは聞こえないけど、あからさまに柘榴を煽っている。

 ただものじゃないと思っていた時、急に柘榴が叫び出した。

 何か言っている、なんだ?

 …もう勝つしかない?そこまで追い詰められるようなことあるか?

 そう思っているや否や、謎の黒い壁が生成され、2人を閉じ込めた。

 本当になんなんだよあれ…。



     ◇◇◇



 物体も光も魔力も全てを外から遮断する封印庵勤を発動したが、柘榴はどうなる?


「ん?俺は一体何をして…?」


「あれ、正気に戻ったの?」


「何故だかわからないが、前が見えないし、記憶も曖昧だ?」


「前が見えないのは暗いだけ。ちょっと待ってて、今光魔法を出すね」


 そして私は光魔法で光源を作り出す。


「そして覚えてない?授業で模擬戦をやってたんだけど、」


「覚えている…お前が石を投げた辺りまでは記憶が…、きっ貴様!この俺に何をした!?」


「なんもしてないよ。そっちが勝手に暴走して、勝手に狂ってたんだよ。みんながいるのに爆破魔法なんか使おうとしちゃってさ?」


「そうか、それはすまなかった。にしてもお前は狂った俺を止めたのか。相当な実力者と見たぞ?」


「あはは、そりゃどうも。それより、他に何か覚えている事はない?」


「うーむ…」


 きっと彼には何らかの操りの魔法がかかっていたのだろう。その魔法を解くため、もしくは防ぐために、ちょっとでも情報が欲しい。


「ほんとにちょっとした事でもいいし、授業前でもなんでも良いから!」


「すまないがよくわからないな…。いや、なんだかうっすらと記憶があるぞ?ただひたすらに頭の中にあった言葉が…」


「どんな言葉だった?」


「…これは少々、言うのははばかれるほどに、酷い言い様だった」


「だから、どんな言葉だったって?」


「すまない、俺もうろ覚えではっきりしないんだ。…ただ、1つ確かな事は言える」


「なに?」


「人間とは思えないほどに冷たく、無情な言葉だった。」


「焦らしすぎ。どんな言葉だったか聞いてるの」


「すまない。その言葉とは」







「…」


「やはり傷つけてしまったか?」


「いや、大丈夫。一応慣れっこだよ」


「深くは聞かないぞ」


「助かるっちゃ助かるかな。で、この後の話をさせてもらうね」


「この後?」


「そう。この魔法は物体、魔力、光、といった概念以外の全てを隔離するんだよね。君が正気に戻れたのも多分これのおかげ。でもこの魔法が切れたらどうなるかな?」


「また操られて、狂ってしまう?」


「正解。また操り人形に戻っちゃう。そしたらその後までは何が起こるか予想がつかない」


「…俺を殺すのか?」


「そんな物騒な事はしないよ。ただ私は柘榴に魔法をかける。とはいえ、情報が不足しているからどんな魔法をかければいいかわからないんだよね」


「だから覚えていることをひたすらに聞き出そうとしたのか」


「そう」


「…」


 まあ、心当たりは無しってところかな。


「いいよ、わかった。じゃあ勝てる確率ほぼ100%の賭けをしようか」


「賭け?」


「どんな魔法にも対策できる万能な魔法を柘榴にかける。対策されている可能性も万に一つあるけど、多分大丈夫」


「だからほぼ100%って事か」


「そういうこと。でもまぁ、もちろんやるよね?」


「覚えていない俺が悪いんだ。その程度の賭けなら、受けてたとう」


「いい返事だね。そうこなくっちゃ。じゃあ早速魔法かけちゃうね」



『闇魔法』 魔法不可干渉



 これで魔法はかかった。あとは封印庵勤を解くだけだ。…それにしても怖いな。

 私この世界でそんな怨みを買うような事したかな?

 柘榴の頭に響いていた言葉。




    「ひたすらに殺してやる」

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