中:これがあるから生きていける
いつまでも
しかし――職場一番の古株で“ボス猿”と
夫に、会いたい。叶う筈のない衝動に掻き立てられる。実現不可能と分かりながら、無性に心が欲していた。
いや……その
「お久し振りです。この度はご用命を
仕事が休みの日、指定した時間の五分前に現れた相手は
リビングへ案内しお茶を出したタイミングで、フロウは切り出した。
「本日は“夢の浮橋”をご所望と承りましたが、間違いございませんか?」
フロウの確認に、はっきりとした声で「はい」と答える。すると、フロウは
「こちらの商品は成分が濃くなる
渡されたカタログには、商品の画像と睡眠時間・金額が記載されている。一番安いのは三十分・千円、次は一時間・五千円といった具合で、最も高額とされるのは一日・五百万円だ。
アタシが目を通し終えたタイミングでフロウは問い掛ける。
「先日は
「では、三十分の物をお願いします」
「畏まりました。それから、依頼主様がお休みされている間は体調の異変等が無いか
スッと出された宣誓書にはフロウが述べた事に加え『利用後に違反を発見した場合は名刺と共に警察へ通報・最低一千万円以上の違約金を支払う』と書かれていた。信用が前提の商売だけにしっかりしてると感心し、サインした宣誓書と共に千円札を渡した。
記名の確認と金額を確認したフロウは、宣誓書を返却し丁寧な口調で告げる。
「取引成立になります。それでは、御安らぎ頂ける場所へ移動願います……」
この日を境に、どうしても精神的に辛い時は“夢の浮橋”を利用する生活が始まった。最愛の夫と確実に会えるのは何物にも替え
回数を重ねる
しかし――夫の死から約一年半、ある問題に直面した。最高額で最長時間の“夢の浮橋”を利用し、使い切ってしまったのだ。
心の頼みを失ったアタシは精神的に自立すべく奮闘した。お客様の理不尽な暴言にも耐性が付き、仕事にも慣れ頼られる事も増えてきた。それでも“ボス猿”の嫌がらせは収まるどころか悪化していた。無視・嫌味は日常茶飯事、業務の必要事項を伝えない、休み希望の日に仕事を入れる等……最早イジメである。アタシが酷い目に遭っている事は皆知っていたが、“ボス猿”の機嫌を損ね自らに危害が及ぶのを恐れて誰も助けの手を差し伸べてくれなかった。夫を喪った傷は完全に癒えてない中での精神的
「無理を承知でお訊ねします。“夢の浮橋”を、また利用させてもらえませんか?」
憔悴し切実な声で訴えたアタシに、フロウは明らかに
「……ここだけの話になりますが、現在限界とされる効能を上回る品がございます」
声を潜め明かした内容に、アタシは嬉しさで小躍りしたい気分だった。ただ、フロウの歯切れの悪さは何か理由があるのだろう。「ただ……」と前置きした上で、続ける。
「元々
「買います」
渋るフロウを制するように、ハッキリと宣言する。
「人体実験でも構いません。後遺症を
そう言い、深々と頭を下げる。今のアタシにとって、天から垂らされた一本の
「……畏まりました。但し、今回に限り『全てを承諾した上で依頼主様の御意思で使用した』旨の
念書の提出を求められたアタシは「はい」と即答した。危険性のある取引を持ち掛けたのはアタシで、免責の証左を求められるのは当然だと理解していた。
直筆で一文
「確かに、頂戴しました。では後日、御希望の日時に改めてお伺い致します」
丁寧な口調で述べたフロウは
早くその日が来てほしい。今のアタシを例えるなら無敵状態で、どんなに辛く苦しい事も乗り切れる自信に満ち
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます