第4話 教師が主人公!?
教師が主人公という作品は少なくない。それも昔からある。ヤンキーばっかの高校を主人公の教師が更生させていくと言う作品なんて王道だ。それにこの世界の様なファンタジー作品では、高飛車で傲慢な生徒達を教師が導くと言う展開もある。さては教師が主人公だったのか!これなら媚びを売らずとも自然に繋がりが出来る。さあ来い!教師主人公!!
「あ〜、今日からお前達ゴミ共を預かる事になってしまったアルヴァン・ネルロスだ」
第一印象、取り敢えず心の中で大きくため息を吐いた。何となく、何となくだが、主人公が教師の場合、アラサー位のイケメンのイメージだった。しかし、今教壇に立っているのは4、50の出っ歯おっさん。言いたくないよ、言いたくないけど、主人公ではないよね。
「おい、おっさん。俺がゴミだっつったか?」
「無礼な男ね、私が誰だか分かっていってるのかしら?」
私が頭を悩ませているうちに、ナックルとルメアが立ち上がっていた。どうやら先程のネルロス先生の発言に対してのようだが、ナックルは煽られたから乗っているように見えるし、ルメアは単純に気に入らないと言った様子だ。しかし、教室内を軽く見渡すと、ネルロス先生に対しての反応は嫌悪が6割、興味なしが2割、戸惑いが2割といったところか。正直私は主人公じゃなくてガッカリって感じ。
「座りなよ2人とも」
「あ?」
「…… リミネス・ロマノ・アリシアさん」
ヒリつく教室の中、2人に声をかけたのはまさかのリミネスだった。クラスの皆んなが驚いた様子でリミネスへと視線を向ける。かく言う私も驚きを隠せない。教室で彼女が発言する姿はあまり見た事がない。しかも、こういう状況で誰より先に制止の声をかけるのがリミネスだとは思わなかった。
「その人は、アルヴァロス将軍だよ」
将軍!?この出っ歯のおっさんが!?いや、それは流石に失礼か。でも、こう、漫画の世界とかで見る将軍ってやっぱりイカつい戦士!みたいなのが主流っぽいけどな〜。
「はあ?誰だそいつ?」
「なっ!?アルヴァロス将軍ですって!?」
リミネスの言葉を聞いた2人の反応は真っ二つに割れた。何も理解出来ていないナックルと、驚き後退るルメア。だがクラスの大半はルメアと同じリアクションだった。
「アルヴァロス将軍と言えば、王国の英雄!?」
「王国軍のトップだぞ!?何で騎士学校なんかに!?」
「素性は一切不明、表舞台に出る事はなく、その存在自体最近では疑われ始めてた。しかし、何故?」
教室がどよめきに包まれる中、クラス1の剣客リーガスは視線をリミネスに向けた。その視線から逃げるように、リミネスは俯いたまま喋り始めた。
「昔、父上が話しているのを見た事があるだけ、それ以外関わりはない」
「なるほど。確かにそれなら不思議はないな」
リミネスとリーガスの会話に耳を傾けていたクラスメイト達は自然と静かになった。それを待っていたように、つまらなさそうな目をしたアルヴァロス将軍先生は口を開いた。
「俺がこのクラスを預かる事になった理由は3つ。1つは、お前達が入学してすぐに起きた、前担任ルーファスが殺害された事により空きが出来た為。そして2つ目が、例年稀に見る上流貴族の子息令嬢が多く募った為。そして3つ目、お前達があまりにも、弱すぎる為」
瞬間、鋭い殺気が教壇の方へと放たれた。感じ取れたのは、リーガス、ナックル、リューロン。その他にも何名かの殺気が向けられているのが分かった。
「ふっ、感情を抑えられないとは、やはりゴミだな」
「おいおい将軍さんよお、あんたが強いのは見てわかる。だが、勝手に俺を変な物差しで測んなよ?殴り合って見ねえとゴミかは分かんねえだろ?」
喧嘩屋ナックルはどうにも抑えが効かない。しかし、今この状況、クラスの大半が若干ナックルに同調してしまっている。
「ナックルさん、とりあえず先生のお話を聞きましょう」
透き通った声がナックルへと向けられた。心が安らぎ、誰もが落ち着いてしまう様な神聖なその声は、修道女のカトリーナのものだった。
「嫌なら断れる筈の立場にいるのに、私達の担任を引き受けてくださった。それに、私達が弱すぎるのなら、強くしてくださるのですよね?」
ニッコリとした可愛らしい笑み。しかし妙に圧を感じる。今までつまんなそうにしていた将軍先生も少し口角を上げた。
「ああ、強くなるか、死ぬかは、お前たち次第だが、まあとにかく早速始めよう。着いてこい」
そう言って将軍先生は教室を出ていく。みんな顔を合わせ、不思議そうにしながら後を追う。真っ先に走り出したナックルに呆れながらも廊下に出るリューロン。顔を顰めながらも素直に歩き出したルメアに、表情の読めないラミス。みんな思うところはあるようだが、とにかく将軍先生に続く。
「ん」
「おっと、どしたの?リミネス」
急に腕にしがみついてきたリミネス。特に何も言わず、ただ私の腕に頭を擦り付けてくる。普段のリミネスなら絶対しない行動をとった上に、クラスメイトからあれほど視線を集めたんだ。気疲れしたのだろう。
「中々カッコよかったよ。さっきのリミネス」
「え?」
少し顔を赤くすると、再び私の腕に頭を擦り付け始めた。先程よりも強い力で。あまりにも可愛らしいリミネスに顔がだらしなくなっている事に気づかないまま歩いていると、校庭に出た。
「何だ?これから何が始まるんだ?」
「あれって、荷物?え?誰の?」
みんなの視線の先にあったのは、遠征用の荷物。しかもそれなりの数。それにその荷物の側には、剣や槍、弓など様々な武器が並べられていた。
「……27、28、29、30?お、おい、あれ、俺達の人数分だぞ」
「まさか」
大体察した。みんな一様に顔付きが変わった。この先起こる事態を察して好戦的な笑みを浮かべる者。恐怖に怯える者。無関心な者。そんな私達の様子を見た将軍先生はニヤリと口角を上げた。
「さて、お前達は先程侮辱され、怒りを覚えたな?ならば精々、ゴミのまま死んでくれるなよ?」
ああ、ヤバい。絶対今までで1番死亡確率が高いイベントが始まる。嫌だ。帰りたい。
「それでは行こうか、魔物討伐遠征へ」
こうして、私は初めて死地へと向かう事になった。
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