第3話 課外活動に向けて

 

 

 王国暦296年10月20日

 

 4月に担任の先生が殺害された事件に動きがあった。いや、動きがあったと言うか、犯人が捕まったようだ。どうやら捕えたのはルメアの兄上が率いていた部隊の様で、今日1日ルメアは機嫌良さげに高笑いしていた。まあ、捕まったのならこれ以上不安はない。何せ近々課外活動が行われるのだ。こういうイベント事に犯人が絡んでくるんじゃないかと気が気じゃ無かったが、これで一安心だ。ルメアの兄上、ありがとう。

 

  

 王国暦296年10月21日

 

 課外活動が城下町の夜間警備に決まった。盗賊討伐とかを期待していたナックルは心底落ち込んでいたが、まあ当然だろう。夜間は、日中の警備よりも視界が悪い為、どうしても動きが鈍くなる。そういった環境の中で、怪しい人物の警戒、緊急時の伝達、その他諸々滞りなく行えるようにする活動。実に理にかなっている。実地訓練が出来るものはやった方がいい。実戦訓練なんかは、その日が命日になりかねないから勘弁だが。

 

 

 王国暦296年10月22日

 

 課外活動の組み分けが発表された。5人1組なのだが、これまた色の濃いメンバーになった。

 

 まず、リーガス。

 我がクラス一の剣客。剣術だけでなく、あらゆる面で優秀な為、今回の班ではリーダーに任命されたのだと思う。

 

 次にナックル。

 生粋の喧嘩屋。戦術なんかお構いなしに殴り掛かる為、いつも教員達に押さえ込まれている。今回の夜間警備で誰から構わず殴り掛からないか心配だ。

 

 そして、マリア・アドマン・ロール。

 ロール侯爵家の令嬢。金髪ボブカットの可愛らしい女の子。貴族階級はルメアと同じだが、正義感が人一倍強く。困っている人のために尽くしたいと考えている何とも心優しいお嬢様。しかも、料理やお菓子作りが好きと言う事で、私達によく振る舞ってくれている。家にいた頃は、立場上あまりそういった事が出来ずに悩んでいた様だが、今では楽しそうにしている。特にヴァン君に振る舞っている姿をよく見る。戦闘はあまり得意では無いようだが、珍しい回復魔法を扱える。後方支援タイプのようだ。

 

 最後に、カトリーナ

 彼女は修道院で生活していた孤児であり、騎士学校に入学するまでは修道女だった。今でも朝晩の祈りは欠かさずに行っている。基本的には物腰丁寧な優しい女の子であり、クラス1清楚な常識人。まともである。それだけ聞くとキャラが薄いように感じるが、清楚な修道女と言うだけで非常に個性的だ。我の強い面々に囲まれていても崩されない穏やかな笑み。母のような温もりを持つ彼女には、クラスメイトの皆が身分を忘れて接している。善人なのは間違いないが、少し気になる事がある。孤児から修道女になった彼女がどうやって騎士学校に入学したのか。そして何故騎士を目指すのか。その2つがどうにも気にかかる。入学費や推薦はどうしたのか。修道女である彼女が騎士を目指す理由は。考えても仕方がないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「レインいないとか本当に無理。ヤダ。課外活動サボる」

 

 私の肩に頭をグリグリと擦り付けてくるリミネス。課外活動での彼女のグループにはルメアがいる様で、昨日からずっと機嫌が悪い。ルメアが悪い訳ではないのだが、家柄で計られるのがリミネスは嫌なのだ。まあ誰だって嬉しくはない。

 

 「まあ、こればっかりは仕方ないよ」

 

 「……」

 

 「ほ、ほら、課外活動だって別にずっとじゃないしさ。2週間だけだよ?そんなに気にしなくても」

 

 「……」

 

 ダメだ。完全に落ち込んでる。そんなに嫌なのか。まあ、仲良い友達がいないとテンション下がるのは分かるけど。

 

 「ごめん」

 

 「ん?何が?」

 

 俯いたまま謝ってきたリミネスに問いかけると、私の腕をギュッと掴んだまま少しずつ話始めた。

 

 「めんどくさいよね、私」

 

 「どうかな?私は思わないけど。リミネスはそう思うの?」

 

 「だって、レインにいつも、迷惑ばっかかけて」

 

 「それもリミネスの思い込みかな。私は楽しいから」

 

 「……」

 

 家を出たばかりの女の子が、値踏みされるような目で見られて、周りから下心丸出しのお世辞を浴びせられて、辛くないわけないよな。ようやく心を許せる友人が出来たのに、また離れてしまう。

 

 「わがままになってもいいじゃん。私達まだ子供なんだし」

 

 「……ありがとう。本当に、ありがとね」

 

 「気にしないで、可愛いリミネスの為だから」

 

 あ〜、ダメだ。リミネスの事甘やかしてしまう。私だけに弱々しいとこ見せてくるのがマジでぎゅん!!ってなる。甘えてくる姿も可愛いけど年相応の寂しいと言う感情を出されると何とも言えなくなる。

 

 「お2人は本当に仲良しですね〜」

 

 リミネスの可愛さに溺れていると、甘い香りを漂わせたマリアが声をかけてきた。

 

 「ありゃ、見られちゃってたか」

 

 「ふふ、お気になさらず。私はお2人の様に階級に縛られない交友関係は素敵だと思います」

 

 マリアと言う名の通り、本当に聖母のような人間だなこの子は。包み込まれるような優しさに涙が出そうになる。

 

 「それと、これはお2人で食べてください。新作のクッキーです。後で感想聞かせてくださいね」

 

 「ありがとう。頂くよ」

 

 「はあ、ルメアもマリアみたいな考えで生きていけないのかな?」

 

 常にリミネスを意識しているルメア。しかし権力社会にも争い事にも興味のないリミネスにとっては良い迷惑なんだろう。しかし、高飛車ではあるものの努力家のルメアは、少し変わるだけでリミネスと仲良くなれると思う。それはリミネスも同じ。

 

 「そうですね。ルメアちゃんはただ、リミネスさんに追いつきたいんだと思います。理想的な生き方をする貴女に」

 

 「……そんなこと言われても、勝手に生き方決めつけられるの迷惑だし」

 

 「ええ、そうですね」

 

 マリアはきっと分かっている。2人は本当は相性が良い事に。一歩寄り添うだけで変われる事に。そうすれば、リミネスは今よりもっと笑ってくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 王国暦296年10月24日

 

 新しい担任の先生が赴任する事になった。

 

 

 

 

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