第2話 個性豊かなクラスメイト達

 

 

 「は〜、もう疲れた〜」

 

 訓練が終わると同時に私に身を預けて来るピンク髪の美少女、リミネス。私にはない2つの大きな果実を押し付けてくる事に少しイラッとしながらも一応肩を貸す。

 

 「はいはい、しっかりしてよ。もう直ぐお昼だからさ」

 

 「まだ午前中なの〜?もう無理、立てない、レイン私の分も訓練してよ〜」

 

 「殺す気か」

 

 騎士学校に通う者の多くは、誇り高い貴族やその従者である。もちろん例外もいる。まあ私のクラスにはその例外が山ほどいるが、それはまた後ほど。

 

 私がよく行動を共にするこのリミネス。実は王国でもかなりの地位にいるアリシア公爵家の令嬢。アリシア公爵は国政や軍務についても強い発言力があり、この国の重鎮。私のクラスには他にも国を支える貴族の嫡子やら令嬢やらがいて、既に卒業後の為の腹の探り合いやごますりが始まっている。その中でも特に強い立場にいるのが彼女、リミネス・ロマノ・アリシア。入学当初から、リミネスは多くの貴族連中に絡まれた。安い賛辞や、一々大袈裟なリアクション。そんな周囲の人間に、リミネスも貼り付けた様な笑顔で対応していた。

 

 当然だが、私もリミネスには興味があった。先ずはピンク髪と言うモブにはありえない強属性。さらには偉大な父を持ち、周囲からも家柄で評価を受けるという悩ましい現状。主人公ではないかも知れないが、ヒロインポジかも知れない。そんなこんなで遠くから観察を続けていると、いつからか彼女は私について回るようになった。別に嫌ではなかったが、疑問に思い口にした事があった。すると彼女からの返答は。

 

 「レインは、私自身を見ている気がしたから」

 

 とのこと。そういうのって分かるものなのかな?確かに私は彼女の家に媚を売るつもりはないし、彼女の事を魅力的だと思って見てはいたが、あくまで自己防衛としての観察だった。主人公だと確信したら、ある意味ではあいつらよりも必死に媚び売ってたかもしれないし。

 

 「ねえレイン、そろそろさ」

 

 「リミネス・ロマノ・アリシアさん!!!」

 

 リミネスのフルネームを声高らかに呼ぶ少女。それが聞こえたと同時にリミネスが露骨に嫌そうな顔をする。まあ、私も正直面倒なのに絡まれたなと思わなくもない。

 

 「今宜しいかしら?」

 

 本当に漫画でしか見ない様な金髪縦ロール、常に扇を持ち歩き、昼間は必ず中庭でお茶会をしているザお嬢様。カリーペン侯爵の令嬢。ルメア・フォラアルド・カリーペン。承認欲求が強く、周りからチヤホヤされるのが大好きなお嬢様。王国内では最も広い領地を持っているカリーペン侯爵。しかし、貴族階級で言えばリミネスの父アリシア公爵の方が上。更に王国の重鎮と言う事もあり、リミネスの方が周りからもてはやされている。それがルメアからしてみれば面白くない。故にリミネスを何かとライバル視しては勝負を仕掛けている。

 

 「何?」

 

 「何ではございません。貴女、公爵家の令嬢でありながら、訓練に身が入ってないご様子ですわね」

 

 「関係無くない?」

 

 ダルそうに答えるリミネス。しかしそれで解放してくれる様なルメアではない。

 

 「関係ないわけがないではありませんか。アリシア公爵家は王国貴族の実質頂点。そんな名家の者が訓練もまともに行わぬなど、貴族の恥。もっと言えば王国としての恥」

 

 「何で、私が」

 

 私の服を掴むリミネスの手が強くなる。悲しそうに下を俯き、流石に見ていられなくなった私が、間に入ろうとすると、とんでもない勢いで巨漢がぶっ飛んで来た。

 

 「だっはっはっは!!今のは中々痛かったなあ〜おい。よっしゃもう一発だ」

 

 「いい加減にしろ。君の趣味に付き合う暇は無い」

 

 訓練場の柱にぶち当たり、ボロボロになりながら立ち上がる巨漢。私が入学した際に、1番最初に目を奪われたクラスメイト。バキバキに割れた腹筋、傷だらけでボロボロの腕、好戦的な強い瞳。貴族出身の多いこの学校に置いて例外の平民。強くなりたい&強い奴と戦いたいと言うあまりにもバーサーカーの思考から、地下闘技場で稼いだお金を使い、騎士学校に入学した男、ナックル・ライオット。

 

 「俺はもっと強くなる!!さあやろうぜリューロン!!」

 

 「だから話を聞け。君の趣味には」

 

 「そうか!!今度は俺から仕掛けてこいってか!?良いぜ良いぜ受けてみろ!!!」

 

 「ッ話の通じぬ獣が!!それにさっきも君から殴りかかって来たろ!!」

 

 リューロンと呼ばれた翡翠色の長髪の美少年。少年と呼んだが、未だに性別不詳の為正直なんと言えばいいかわからない。拳を振い続けるナックルに対し、素早い蹴りを繰り出すリューロン。我流格闘術のナックルとは違い、リューロンの蹴り技は前世で言うカンフーに似ている。リューロンもそうだが、あと1人、やけに日本や中国といったアジア系の顔立ちの者がいる。出自は分からないが、噂では王国より遠く離れた国の者だと言われている。まあそう言われても不思議では無いのだが。

 

 「全く、やはり平民や出自不明の者は野蛮ですわね」

 

 2人に対して軽蔑する様な視線を向けるルメア。それを見たリミネスは悲しそうに口を開いた。

 

 「可哀想だね。身分でしか人を見れないなんて」

 

 「え?」

 

 「行こうレイン」

 

 「ちょ!お待ちなさい!!」

 

 ルメアの制止の声を無視して、リミネスは私の腕を掴んで歩く。この世界では出自や身分で人間は測られる。前世でも似た様な事があった。しかし、今世のそれはレベルが違う。場合によっては話しかけようとしただけで殴られることもある。そしてそれが許されるのだ。

 

 「……レイン、ごめ」

 

 渡り廊下の辺りで止まったリミネスは、何か告げようとしたが、私はそれを遮る。

 

 「そう言えば、今日の食堂のメニューは地鶏の照り焼きだってヴァン君が嬉しそうに話してたな」

 

 「え?」

 

 朝食の時、私に声をかけてきた、食べる事が大好きな太っちょ男子ヴァン・オータル。彼は平民ではあるが、父が宮廷お抱えの大工である。父の大工としての腕を国王陛下は心底気に入られた為、彼らはそれなりの生活を保証されている。そう言った経緯もあり、ヴァン君はこの騎士学校にも問題なく入学した。しかし、ヴァン君は騎士に向いているとはお世辞にも言えない。彼は優し過ぎるのだ。勿論優しいというのは悪くない。だが、訓練とは言え相手に攻撃出来ない上に、スピードや瞬発力が無い。それでも彼は諦めずに訓練を続ける事から、根性はあるのだろう。訓練後には美味しそうにご飯を食べる彼を食堂でよく見かける。どこか憎めない様な愛されキャラ。それがヴァン・オータルという少年なのだろう。

 

 「なんかヴァン君っていつも食べる事ばっかり考えてるから、話してるとこっちもお腹減ってくるよね」

 

 「……うん、そうだね」

 

 「ほら、早く行くよ。ヴァン君以外にも、ナックルやリーガスもそろそろ食堂行くだろうしさ」

 

 今度は私がリミネスの手を引いて歩き出す。入学当初、何も知らなかった私に、嫌な顔せず魔法や剣術を教えてくれたのはリミネスだった。主人公がどうこうとか、そんなの関係なく、リミネスは私の友人だ。この子が辛いなら、とにかく側に居てあげたい。

 

 「ありがと、レイン」

 

 仕方ないから、今日はリミネスの分も訓練頑張るとしよう。

 

 

 

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