主人公探してます

エドモンド橋本

第1話 何も知らないこの世界

 

 

 

 木製の剣がぶつかり合い、激しい音が訓練場に響く。目にも止まらぬ速さで剣を振る少女に対し、動じず捌き続ける高身長の少年。何度も何度も繰り返し剣撃を仕掛けているが、スタミナ切れが近付いてきたのか少女が後退しようとした瞬間、少年は素早く斜め上に剣を切り上げた。すると、少女の持っていた剣が弾かれ、遠くに飛ばされた。

 

 「くっ、参りました」

 

 「勝者リーガス!」

 

 教官の言葉に2人の試合を眺めていた生徒達からブワッと声が上がる。

 

 「流石はリーガス。撃ち合っている間、全く死角がなかった」

 

 「ラミスちゃんの連撃でも隙を作れないってマジヤバいね」

 

 そんな周囲からの声を気にする様子もなく、リーガスはラミスに手を差し出す。

 

 「素晴らしい剣技だった。やはり、君の腕は確かなものだ。是非また相手をしてくれ」

 

 「うん、次は必ず勝つ。アタシ、諦め悪いから」

 

 互いに握手を交わすと、その場で反省会を始める。ここが良かった。ここで判断を誤った。そんな言葉を掛け合う2人を見て、私は思考の海に潜る。

 

 リーガス・スパーダ

 

 この騎士学校でトップクラスの剣術成績を誇る少年。スパーダ侯爵家の次男で、剣術は当然、軍事戦略や兵站術にも長けた才覚の持ち主。しかし良いことばかりではなく、スパーダ家の嫡子である兄からはその才に嫉妬され、嫌がらせを受けている様子。本人は気にしていない様に見えるのだが、実際はどうなのだろうか。

 

 ラミス・ルビー

 

 リーガス相手に激しく打ち合える技量と、懐に飛び込める度胸。遊撃隊向きな身体能力とメンタル。確かな優等生ではあるのだが、時折り見せる殺し屋の様な目つきは、何かを隠している様に見える。少し謎に包まれた美少女。

 

 キャラの濃さや、抱えてる謎めいたものはかなり臭うが、2人は恐らく

 

 主人公じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 訓練試合を終えた私は、寮に戻り汗をを流すと、日課となっている日記帳を開いた。そこには、私がこの学校に通う事となった今日までの日々が記録されている。

 

 

 王国暦296年3月25日

 

 神奈川で生まれ育った私は、見知らぬ国の男爵家の次女となった。まだ状況を把握しきれていない為、日記に書き起こす。二十歳の誕生日の前日に、突如胸に激痛が走り、病院に搬送されたところまではかろうじて覚えがある。しかし、それから何があったのかは分からないがこの家のベッドで目を覚ました。ヨーロッパ系の顔立ちの男性、恐らく父親らしき人は、私をレインと呼んだ。

 

 

 王国暦296年3月26日

 

 私の名前はレイン・エレジー。エレジー男爵家の次女。正直礼儀作法がめちゃくちゃの私には堅苦しい生活かと頭を抱えたが、意外にも父や母はそこまで厳しい人ではなかった。どちらかと言うとやけに甘やかしてくる。愛されるのは嬉しいのだが、まだこの世界の事を掴めていないため、手放しに喜べない。

 

 

 王国暦296年3月27日

 

 レイン・エレジー15歳。なんと4月から、王国の騎士学校に通う事が判明した。まずい。非常にまずい。運動神経皆無の私が、こんな殺し合いが当たり前の様な世界の騎士学校で生きていける筈がない。

 

 

 王国暦296年3月28日

 

 兄ちゃんの手が発火した。驚きのあまり井戸で汲んだ水をぶっかけてしまった。後で話を聞いたが、どうやら兄ちゃんの手が発火したのは、魔法らしい。ヤバい。この世界ヤバい。ただのタイムスリップとかじゃない。ここ多分なんかの漫画かアニメの世界やろ。え、私もしかしてチート系転生者?

 

 

 王国暦296年3月29日

 

 違った。私全然チートじゃない。やっぱひ弱な腕では鉄の剣は振り回せない。絵に描いたようなへっぴり腰のせいで、相手をしてくれた父の従者に気を使わせてしまった。せめて騎士学校に入るまでに自分の力がどれほどのものか見ておきたかったのに。

 

 

 王国暦296年3月30日

 

 今日ついに家を出て騎士学校の寮に入った。家を出る際、母は目に涙を浮かべながら抱きしめてくれた。父も優しい顔で頭を撫でてくれたし、水をぶっかけてしまった兄ちゃんや、兄妹達も笑顔で見送ってくれた。正直最初は新しい家族に困惑していたが、ちゃんと愛されていた事実に、少し涙が溢れた。

 

 

 王国暦296年3月31日

 

 学校でけえ。マジで広いし、なんなら生前通ってた大学よりも小綺麗で雰囲気あってめっちゃ物語に出てくる感じの学校だった。まあ、多分なんかの物語の学校なのだろうけど。

 

 

 王国暦296年4月1日

 

 クラスメイトの個性が強すぎる。遂に入学式を迎え、よくわかんない儀式や、学園長の挨拶を終えた後、クラス分けが発表され教室に向かったのだが、そこでこれから一年共に過ごすクラスメイト達との初顔合わせとなった。まず目に入ったのは、素肌の上に直で制服を着ている筋骨隆々の男。それからそんな奴を気にする様子もなく教室で優雅に紅茶を飲んでいるザご令嬢。目元に目張りの様な紅色のメイクをした日本人顔の男。口元をマフラーの様なもので覆った金髪の美少年。あまりにもキャラが濃い。やはり、ここは漫画の世界だ。私こんな世界で生きていけんのかな?でもまあ、気にしてもしょうがない。やるだけやってみよう。騎士として長年戦い続けた頼もしい先生が担任だし、大丈夫でしょう。

 

 

 王国暦296年4月2日

 

 担任の先生が死んだ。深夜に何者かが先生の自室に侵入して殺したと噂されている。正直震えが止まらない。あまりにも簡単に人が死ぬ世界すぎる。この世界がなんの漫画なのか私は知らない。どれくらい頻繁に人が死ぬ世界なのかも知らない。私の様な闘う才能なんてない奴はこんな世界生きていける筈がない。でも、この世界が漫画の世界なら主人公がいるはず。なら、主人公に寄生して生きよう。それが長生き出来る唯一方法だ。私はここに決意する。この世界の主人公を見つけ、必ず長生きする。

 

 

 

 これを書いてからもう半年が過ぎたのか。あれから先生を殺した犯人は捕まっていないし、主人公すら見つかってない。いや、正確には主人公っぽい人はクラスメイトに何人もいる。ただ、絞り込めない。なにより、サブキャラっぽい人たちもちらほらいる。

 

 ただ一つ分かったのは、私はやっぱり主人公ポジでも、チートキャラでもない。その理由は、2つある。

 

 1つは、よくあるパターンなのだが、あまりにも雑魚すぎる奴が、イベントで覚醒して強キャラになるってやつ。私は半年努力した結果、剣をそれなりに振れる様になったし、なんと水魔法が使える様になった。これにより、そこまで雑魚ではないモブ的な立ち位置になった。

 

 そして決定打となったのが、先日行われた神来の儀。神に祈りを捧げ、新たな力や武器を授かる儀式。私はなんと、神から武器を与えられた。これはすごい事なのだが、与えられた武器が、蛇行剣なのだ。

 

 もう一度言う、蛇行剣だ。

 

 そう、あの刀身がうねうねした剣。

 

 私の知る限りでは、蛇行剣を使う強キャラはいない。よって私はモブだ。

 

 

 

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