第21話 町の騒ぎ
偵察に行っていた冒険者が大群を発見して1日が経った。
いつ動くのかはわからないが、聞いた限りの数が攻めてくるとこの町は全滅だろう。
町中の冒険者を集めて、攻めてきたときのために備えているが、持ちこたえられるとは思えない。
かといって、全員が避難するのも無理だ。
すでに町中にこの話は知れ渡っており、避難を始めている人も多いが、避難の途中で襲われれば一発で終わりだ。
町のほとんどの者が恐怖に震える中、一人の男は冷静に町の門に立っていた。
いや、薄らと笑っていることからも、この状況を楽しんでいるように見える。
「アークさん、頼りにしています」
「アークさんがいれば安心ですね」
「おぉ、我らが最強の冒険者様だ」
その者は、この町一番の冒険者と名高い、アーク・シェルドンであった。
彼はまだ15歳にもかかわらず、その実力で町一番の冒険者として名を馳せている。
アークは縋りよる民衆に向かって手を振り、余裕の笑みを見せた。
「私がこの町の危機を救って見せよう。穢れた魔物どもを一掃するのだ」
ウオーー!、と盛り上がる民衆。
このアークは、民衆を操るのに長けているようだった。
しかし、近くにいた冒険者の中に、アークへ期待の目を全く向けない者たちがいた。
「あの数はいくらアークでも無理があるよな」
「あぁ。あの時でさえ死ぬかと思ったのに、それの何倍も攻めてきたら国だって滅ぶかもしれない」
「でも今は死神がいるはずだ」
「助けてくれるかな?」
「俺たちの時は助けてくれたんだからきっと助けてくれるさ」
「ま、助けてくれなかったら全員死ぬだけだし、死神の気分次第か」
「そういえば、昨日はもう一人子供を連れていたよね?」
確かに、昨日たまたま観光地に行ってみたら、俺たちの時のように魔物が真っ二つに斬られていた。
そのとき、その場にいたのがフードを被った2人の子供だったのだ。
普通に考えたら仲間なのだろうが、あの化け物が2人もいると考えると恐ろしい。
「昨日も助けていたんだし、今回もきっと助けてくれるって」
「そうだな」
俺たちが会ったときは、俺たちが死にかけていても動じなかったし、人の枠を超えていた気がする。
強すぎる冒険者の中にはそんな奴もいるが、あれは人の心を持っているのか怪しい。
たまたま助けてくれただけの可能性が高い。
あまり期待してはいけないだろう。
「魔物が動き出した! 全員、配置についてくれ!」
そんな風に悲観していたとき、あの大群が動き出した、と連絡が入った。
偵察部隊の遠視できる者による情報だろう。
「ついに来たか」
「全員、死ぬなよ」
「もちろんだ」
「わかってますとも」
集められた冒険者が外へ出て配置に着く中で1人、先頭に立つ者がいた。
「アークさん、頼みましたぜ」
「あぁ、任せておけ」
近くに配置された冒険者たちにすり寄られる中、アークは魔法の準備をしていた。
魔道具を使い、大規模な魔法を放つつもりなのだ。
魔道具の準備が終わり、発動段階に入ったところで魔物の群れが見えてきた。
「なんて数だ」
「アークさんがいるから大丈夫だろ」
「でも、あれはヤバくないか?」
次々と森から溢れ出してくる魔物をみて、冒険者たちは危機を感じつつも、どこか安心していた。
その源となるアークは、魔物の群れが射程圏内に入ると、一気に魔法を放った。
――ドーン
大きな爆発音がして、魔法が飛んでいった先の地面が穴だらけになる。
そこに巻き込まれた魔物は全て焼け焦げていた。
――ウオーーー!
冒険者たちは雄叫びを上げ、騒ぎ出す。
しかし、魔物は未だに森から溢れ出してきており、戦うしかなくなった。
まずは魔法を使える冒険者たちがアークに続いて魔法を放ち、前線の弱い魔物を蹴散らしていく。
少しずつレベルの高い魔物も出てきだし、魔法のみで倒しきれなくなってくると近接タイプの冒険者が走り出した。
後ろに魔法タイプの冒険者を固め、前に近接タイプを出し、間で連携をとって戦うことで、効率よく魔物を狩ることができていたのだ。
特に、最前線のアークの轟音によって全員の士気が上がり、この状態で持ちこたえられそうに思えた。
しかしながら、すぐにこの均衡は崩れ去ることとなる。
森から強い魔物が大量に出てきたのだ。
前線ではアーク以外が押され始め、どんどん後退していく。
負傷する者が多くなり、魔法も大したダメージを与えられず、アークの近くには誰も行けなくなった。
「くそ、アークさんがヤバいかもしれない」
「大丈夫だ。あの人なら一人でも切り抜けられる」
「それよりも、これ以上下がるのはまずいぞ!」
最前線にいた冒険者たちはアークの心配をしつつも、これ以上下がれば町にまで届いてしまうために、自分の場所を守るので精一杯だった。
「お、おい、あそこにいる魔物. . . . . .」
「あんなの、いくらアークさんでも. . . . . .」
そして、ついに森からある魔物が現れる。
一体だけ歪な魔力を放ちながら森からゆっくりと出てきた。
その魔物は、鬼のような姿をしていた。
冒険者たちの本能が悟る。
あれには勝てない、と。
その鬼はアークの方には見向きもせず、町へ向かって一直線に迫ってきた。
速度もさながら恐ろしい迫力があり、死が迫ってきているのを全員が知覚した。
すでに戦意は喪失し、誰もが迫りくる死になす術もなく佇んでいる。
神が来たのは、その時であった。
――ゾワッ
迫りくる死の恐怖にも勝る殺気を感じ、身動き一つできなくなる。
それは最前線で一人戦っているアークも、大群の王である鬼ですら同じであった。
全員が殺気の源へ目を向けると、鬼の魔物の方に空より舞い降りる2つの人影があった。
それはあまりに異様な存在感を放っており、次元の違う生き物であることが嫌でもわかった。
「. . . . . . 死神」
誰かがそう呟き、その場の全員はその言葉に微塵も違和感を感じなかった。
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