第20話 動く大群

 一度宿に戻り、ルーナを本部に届けて、その間に遺跡の調査をすることになった。

 さすがにルーナを1人で宿にいさせるわけにはいかない。

 かといって、遺跡の調査へ連れて行くことはできない。

 悩んだ末に、俺が調査の間はルーナは本部の仕事をしておくことになったのだ。

 基本的に俺が調査を終えたらルーナを迎えに行くつもりである。


 前と同じように遺跡へ飛んでいると、魔物の大群の気配を掴んだ。

 相変わらず動く気配がなく、何が目的なのかわからない。

 俺はそれを飛び越えて遺跡に舞い降りる。

 遺跡に入り口のようなものは見当たらないが魔力が流れており、流れ的に扉になっているであろう部分が見えた。

 そこに自身の魔力を割り込ませると、きれいに扉の形で壁が崩れた。

 神話の時代の神殿の入り方は大体同じのようだ。

 ここに誰がいるのかはわからないが。


 そのまま遺跡の中に入ると、下へ続く階段のみがあった。

 遺跡の中は、壁や天井に絶えず電気が走っているように見え、眩いほどに明るくなっている。

 下へ続く階段を降りていくと大きな部屋があった。

 その部屋は円形で、床に大きな魔法陣が描かれている。

 あの研究所でされた人体実験のときの模様に似ているな。

 おそらくこれを発動させれば神話の時代の神が出てくるのだろう。

 神話の時代の生き物に興味はないため、復活させたいとは思わない。

 この遺跡にはそれ以上のものは無さそうだったので、階段を上り遺跡を出る。

 特に収穫もなく、すぐにルーナを迎えに行った。


 遺跡の入り口は開いたままになっていた。



 ♢ ♢ ♢



 いつも通りルーナのいる場所へ直接飛んできた。


 「ルーナ」


 「ルフト様! もう調査は終わったのですか?」


 俺を見つけるなり抱き着いてきたルーナの頭を撫でながら答える。

 俺と離れる時間が寂しかったのだろう。


 「あぁ、遺跡の中に入ってみたが何もなかった。円形の部屋に魔法陣が書かれていただけだったよ」


 「その魔法陣は何が起こるのですか?」


 「おそらくそこに眠っている神話の時代の神を復活させるものだろう。俺がされた人体実験の時も似たような魔法陣が床に描かれていたからな」


 「そうでしたか. . . . . . ではあまり触らない方がよさそうですね」


 俺がされた人体実験を思い出して悲しんでくれている。

 本当にルーナは優しいな。


 「あぁ。たとえ出てきても問題はないが、俺はそれに興味がない。とりあえずあの魔物の大群との関係はそこまで無いように思う」


 「しかしそれでは、あの大群が何を目的としているのかよくわからないままですね」


 「あぁ、いつ動くのかわからないな。神伝教の奴も近くにはいなかったし。まぁ、しばらくは様子見だろう. . . . . . ん? この気配は」


 そのとき、あの遺跡のある方角でとてつもないほどの大きな気配を感じた。

 一瞬だけだったが、おそらく神話の時代の生き物レベルだろう。


 「どうかされたのですか?」


 「さっきの遺跡の方にかなり大きな気配を感じた。神話の時代の神レベルだろう」


 「ルフト様が調査された所ですよね。もしかして、そこの神が蘇ったのでしょうか?」


 「その可能性は高いな。俺が離れるときは近くに人の気配も魔力も無かったから、魔物が器か生贄にでもなったのだろう」


 「でしたら、早く向かわないと」


 「向こうに行けば危険かもしれないが」


 「それでも、あの町の人たちが今、大変な目に合っているかもしれません。もしそうなら助けてあげたいです」


 「本当にルーナは優しいね。わかった。今から向かおうか」


 「はい」


 そうして再び遺跡の方へ飛んでいく。

 すると、あれほどいた大群が町がある方角へ進んでいるのがわかった。


 「まずいな。あの大群が町の方へ動き出したみたいだ」


 「! 町まではどのくらいかかりそうですか?」


 「まだ10kmあるから30分ほどかかるだろう。それに、バラバラに動いているようだから、たとえ町に到着しても少しは持ちこたえられると思う。それよりも、いきなり動き出した理由が問題だ」


 「さきほど、ルフト様が感じられた気配のせいでしょうか」


 「あぁ、とりあえず遺跡を見ておきたいんだが、少しだけここで待っててくれないか?」


 「わかりました」


 そうしてルーナを空中に待機させて遺跡に行ってみると、扉は開いたままになっており、しかし天井や壁に電気が走っておらず、真っ暗であった。

 空気を極限まで圧縮させて、小さな太陽のようなエネルギーの塊を作り出す。

 それを明かりとして階段の下へ降りていくと、そこには魔法陣の上に横たわる魔物の死体があった。

 そしてその魔法陣には、発動の残り香のように魔力が漂っていた。

 どうやら、この魔物を生贄として神話の時代の神が復活したのだろう。

 そしてこのタイミングであの大群が動き出したということは、復活した神から逃げ出したというところか。

 そうなると、大群ができたのは神の気配に気づいていたからなのか?

 全く動かなかったのも、いつ来るかわからない怪物から全員で身を守るためだった. . .?

 いや、わからないな。

 少なくともあの大群の数体は神伝教の者に改造されていた。

 もしかしたら、神伝教が大群をつくっていたのかもしれない。

 とりあえず、ルーナに伝えるか。


 遺跡を出てルーナのもとへ戻る。


 「ルフト様、何かわかりましたか?」


 「あぁ、あの遺跡にいた神が復活したのは確実だろう。魔法陣の上に魔物の死体があった。そしておそらく、大群が動き出したのは復活した神から逃げたからだと思う」


 「それでは、あの大群の近くに神がいるのでしょうか?」


 「わからない。気配は全くしないから、遠くへ行ってると思うが」


 復活した神はどこへ行ったのだろうか?

 神となると俺の力ではルーナを守り切れないかもしれない。

 早めに潰しておきたいところだな。

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