第15話 町の教会(2)

 ルーナを寝かしつけて、リアーナたちの様子を確認する。

 順調に子供たちを避難させているようだ。

 俺の作った魔道具もしっかり機能している。


 子供たちの気配がほとんど消えたころ、ようやく教会の上の方が動き出した。

 リアーナたちが地下へ無理やり侵入してから動き出すまでが遅すぎる。

 しかも加勢に来ているほとんどが夕凪の底辺の奴らにすら及ばない。

 リアーナたちの中の1人で十分だろう。

 ただ、教会の上から降りてきているやつは少し厳しそうだ。

 ルーナがいたらいけるだろうが、俺がルーナに戦わせないからな。


 案の定、リアーナたちは苦戦している。

 おや、これは全滅の可能性がでてきた。

 そろそろ加勢に行くとするか。

 寝ているルーナを眺めて頭を撫で、窓から教会へ飛んだ。



 ♢ ♢ ♢



 「やはりリアーナたちでは此奴はきつかったか」


 「?! 誰だお前は?」


 「お前に名乗る義理はない」


 「この状況で余裕ぶっていられるとはな。面白いガキだ。貴様も実験のモルモットにしてやろう」


 背後を取られたことに驚いていた司教だが、すぐに余裕を取り戻して俺の方に向かってくる。

 魔法も放ちながら。


――ギーン


 「なっ?! 馬鹿な!」


 すべての魔法を魔力の斬撃を飛ばして斬り裂き、司教の剣を人差し指と中指で止める。


 「くそ、なぜ動かない?」


 「リアーナ、此奴は殺してもいいか?」


 「できれば情報を聞き出したいです」


 「わかった」


 そうして、奴の手足を切り刻んだ。


 「グアァ~~!」


 悲鳴と共に鮮血が飛び散る。

 子供たちは既に全員避難していたので、これを見ることは無かった。


 「黙れ」


 ちょっと殺気を漏らすと、気を失った。

 手足も失ったし、これでまともに戦えないだろう。


 「リアーナ、後は頼んだ」


 「は、はい。お任せください」


 そうして、また元の部屋へ飛ぶ。

 宿を離れた時間はだいたい30秒ぐらいだろう。

 ルーナを起こさないようにベッドに入り込んだ。



 ♢ ♢ ♢



 全く勝てる見込みがなく、万事休すの場面に現れたのは、我らが夕凪の主、ルフト様だった。

 あれほど苦戦していた司教を虫を潰すかの如く簡単に無力化した。

 おそらく私たちが苦戦しているのを見て、来てくださったのだろう。

 本当に恐ろしく強い御方だ。

 御手を煩わせないつもりだったのに、面倒をお掛けしてしまった。

 せめて後処理だけはしっかりしなければ。

 この司教は神伝教についてかなり知っているはずだ。

 大きな町の教会の司教ともなれば、神伝教の中でも幹部レベルだろう。

 さっき戦っても、かなり実力の差があった。

 私たちだけでは無理だった。

 もっと強くならなければならない。

 次は決して御手を煩わせないために。



 ♢ ♢ ♢



 翌日、俺は目が覚めると隣にはまだ寝ているルーナがいた。

 月を想像させるような滑らかな銀髪に白い肌をしていて、あの地獄の研究所で受けた傷はどこにも見当たらない。

 きっと頑張って手入れをしているのだろう。

 俺にはまともな魔法が使えないので、ルーナの傷を治すことはできない。

 できるのは、もう二度とルーナが傷つかないようにすることだけだ。

 手に入れた力で常にルーナに強固なバリアを張っているため、神話の時代の生き物レベルでも一切傷つかないだろう。

 衝撃すら吸収できるようにしている。

 おそらくこの世界の何物も俺の力を上回ることはできない。

 ただ、それは全て俺が無事な時だけだ。

 故に俺は、常に強くなり続けなければならない。

 誰も追いつけない程に。


 「おはよう、ルーナ」


 そんな風に考えていると、ルーナの目が開いた。


 「ん. . . . . . おはようございます。ルフト様」


 「まだ眠そうだね。もう少し寝ててもいいよ」


 「はい。ありがとうございます. . . . . .」


 そう言って、俺の胸に顔を埋めた。

 まだ寝ぼけているようだ。

 俺としては嬉しいが、この状況は心臓に悪い。

 かといってまたルーナを起こすことはできない。

 ルーナが再び起きるまで、俺はその状態でいたのだった。



 ♢ ♢ ♢



 目が覚めると、私は誰かの腕の中にいた。

 いえ、誰かではない、ルフト様の腕の中だ。

 まだはっきりしない頭のまま顔を上げると、ルフト様の寝顔があった。

 私がしばらくの間見惚れてると、ルフト様が目覚められた。


 「お、おはようございます」


 「あ、あぁ、おはよう、ルーナ」


 心なしかお顔が赤くなっていらっしゃるように見える。

 なぜ赤いのかを考えているうちに、頭が冴えてきた。

 そして、今の状況を理解する。


 「っ! も、申し訳ありません!」


 私は飛び起き、急いでその場から退いた。

 私の顔は今、どうしようもないほどに赤くなっているだろう。


 「? どうして謝るんだ? 何も謝らなくていいよ?」


 「しかし. . . . . .」


 「もしかして、昨日そのまま寝てしまったことか?」


 その言葉に、私の顔は赤から青へと変わった。

 しまった。

 さっきまではこの状況で頭がいっぱいになり、寝る前のことを考えられてなかったが、今のルフト様の発言で明確に思い出す。

 昨日はリアーナたちが来ていたから、教会に乗り込むのを少し遅らせようとしたのだ。


 「そちらも申し訳ありません!」


 「教会のことなら気にしなくていい。もう全部終わってるからね」


 「ですが. . . . . .」


 「もう全部終わったんだから、それ以上謝ってはいけないよ。そもそもルーナは何も悪くないんだから。また謝るのなら、次からはしっかり寝ること。いいね?」


 「はい。申し訳ありません」


 落ち込んでしまった私の頭を優しく撫でてくださるルフト様。

 ルフト様の御心を直すためにも、私がしっかりしなければ。

 絶対に迷惑をかけないように、次からは気を付けよう。

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