第16話 次なる町へ

 教会を潰した後、神伝教の信徒であるほとんどの住民が怒り、犯人捜しを始めた。

 しかし、教会を訪れた者が地下を見ると、そこには戦いの跡と謎の研究員の死体が散らばっており、地下にあった資料を見て背筋を凍らせた。

 教会の地下を訪れた者は全員信徒をやめていったが、犯人捜しを先導する者たちによって教会は直ちに封鎖されてしまったため、教会を訪れなかった住民がほとんどであった。

 故に、犯人捜しは止まらず、ルーナとゆっくりすることができなくなった俺は別の町へ行くことにした。

 あの教会の後処理はリアーナに任せてあり、今朝のことを気にしたのか、ルーナも転移で夕凪の本部へ戻ってしまった。

 かなり落ち込んでいたから、ここは好きにさせてあげるべきだろう。

 ルーナがいない間に次の良さそうな町を見つけなければ。


 空を高速で飛びながらそう考えていると、下に見えた森の中から大量の魔物の気配を感じた。

 魔力がかなり少なくなった5人の気配も。

 魔物の巣窟でもあるのだろうか。

 大量の魔物の気配の中に5人の気配が混じっているところを察するに、魔物退治をしに来て逆に囲まれたような感じだろう。

 実にどうでもいいことだが、ちょうどいい。

 ここにいる奴らを助けて、その代わりに次の町の情報を聞き出すとしよう。


 俺はその5人にバリアを張り、下へ向かって落ちて行った。



 ♢ ♢ ♢



 「くそっ、なんて数だよ!」


 「いったん下がれ! 体勢を立て直す!」


 「いや、だめだ! こっちも回り込まれた!」


 「ここまでかよ. . . . . .」


 「おい、諦めるんじゃねえ!」


 ようやく冒険者として周りに認められ始め、最近魔物の数が増えたから調査を依頼されてここまで来たが、まさかこれほどの規模の大群がいるとは思わなかった。

 町ではかなり強い冒険者になって、どんな魔物にも負けない自負を持ち始めた頃にこれだ。

 まったく力が足りていない。

 今更ではあるが、もう少し力をつけて慎重になるべきだった。

 この数の魔物では、町で一番強いあいつが来ても助からないだろう。

 くそっ、諦めるしかないのか. . . . . .


 「おい、聞きたいことがあるんだが」


 この状況に全くふさわしくない声と共に1人の子供が空から降りてきた。

 一瞬、理解できなかったが、ここは今人が来れば間違いなく魔物の餌食となる。

 フードを被っていて顔が見えないが、子供が来る所ではない。


 「逃げろ! 早く!」


 「だから聞きたいことがあるんだが」


 「魔物が見えないのか?! 早く逃げろ!」


 「あぁ、こいつらか?」


 その時、一薙ぎの風が吹き、魔物は全て上と下で真っ二つになった。


 「「「「「は?」」」」」


 パーティー全員が同じような顔をしている。


 「これで問題はないだろう? それで、聞きたいことがあるんだが」


 三度目にして、ようやくこの少年が何をしたいのか理解する。

 化け物と対話している今の状況も含めて。


 「あ、あぁ。なんでも聞いてくれ」


 それと同時に冷や汗をかく。

 相手はあくまでも少年だ、と思う。

 いくら化け物とはいえ、ここで敬語は使わなかった。


 「滞在するのにいい町を探しているんだが、どこか知らないか?」


 どんな質問が飛んでくるのかと思えば、単なる場所探しの質問だった。


 「それなら、俺たちがいる町を勧めるぞ。そこは近くにきれいな川があって観光スポットになっている」


 「そうか。ならそこまで案内してくれないか?」


 道案内なら簡単ではあるが、この少年は化け物だ。

 さっきのことはどうやったのかは理解できないが、何をしたのかは理解できる。

 あの数の魔物を一瞬で斬ったのだ。

 それも上下真っ二つに。

 剣を持っているようだが、それにしては広範囲過ぎる。

 そもそも、ただの剣であれほどきれいに斬れるとは思えない。

 おそらく俺たちの町で最強の冒険者でもこの少年には勝てないだろう。

 今の力を放ってこの余裕だ。

 そういえば、ここに来る方法もよくわからなかった。

 空から降りてきたようにしか見えなかったのだ。

 落ちているにしてはゆっくりとし過ぎていた気がする。

 こんな化け物の道案内とは危険すぎる。

 一緒にいる分には心強いが、この少年の怒りを買った瞬間に斬られるだろう。

 あの魔物のように。

 しかし、今これを断る選択肢もない。

 この少年を断ってはいけないと、本能が伝えている。

 さっき魔物に囲まれていた時よりも恐ろしくなった。


 「わ、わかった。全員が動けるようになったら案内しよう」


 「いや、今からで問題ない。場所さえ言ってくれれば俺が運ぶ」


 「おい、少年。さっきは助かったがこの辺りは危険だ。早く帰った方がいい」


 「おい、やめろ。さっきのを見てなかったのか? この少年は俺たちよりずっと強い。心配するのもおこがましいだろ」


 パーティーの1人が少年に帰るよう言いだしてしまった。

 さすがに焦った俺はパーティー全員に聞かせるようにそいつを窘める。


 「理解してくれて助かる。それで、方角を示してほしい。その方へ運ぶから」


 「全員を運ぶのか?」


 「そうだ。とりあえず方角を言ってくれ」


 とりあえず、俺は町の方を指さした。


 「わかった。これから運ぶが、あまり大声を出すなよ」


 「どうやって. . . . . .」


 運ぶのか? と言おうとしたとき、周りの景色が低くなりだした。

 いや、違う。俺が地面から高くなったのだ。

 パーティーメンバーも全員、地面から浮いている。

 そして次の瞬間、町の方へ向けて急速に加速した。

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