第13話 町の探検
後ろの奴らに気を付けながら、最初に目に付いた美味しそうなレストランに入る。
ここは大通りに面していて、人もそれなりに多く、なにより美味しそうだった。
大通りを子供だけで歩いていても、フードをしているし、他の人が大勢歩いているのでそこまで不思議がられないが、レストランに入った瞬間に客の目線が飛んできた。
確かにここは、こんな夜中に子供が来る所ではないだろう。
それでもルーナが食べたそうにしているのだからそんなのは関係ない。
「わぁ、どれもおいしそうですね」
「あぁ、どれにしようか迷うな。ルーナは決まりそうか?」
「これとこれで悩んでいるのですが」
「じゃあ、両方頼もうか」
「え? ですが食べきれません」
「俺と半分に分ければいいよ」
「なるほど。ありがとうございます」
「いや、俺も両方食べてみたかったからな」
そうして料理が運ばれてきた。
一応だが、念のためにとある術を使う。
これは風神の知識にあり、風神が常時発動していたもので、俺も最近ようやく使えるようになってきたものだ。
これは、自分にとって害のあるものを見分ける術、害検術だ。
神話の時代では、ほとんどの者がこれを使えていたらしいが、今の時代でこんなものは本でも見たことがない。
ルーナにも練習してもらったが、まだ身につけられていない。
この2人きりの時は俺が常に守ってやらないとな。
♢ ♢ ♢
料理には毒も何も入っておらず、とても美味しく頂いた。
ルーナも満足していたようで、フード越しでもわかる可愛い笑顔を浮かべていた。
俺は宿に帰ってルーナとゆっくりしたかったが、後ろの奴らを消さないといけないので、少し路地裏に入っていく。
ちなみに、ルーナも奴らには気づいている。
ルーナの気配察知能力が高いからというよりも、あいつらが気配を隠すのが下手なのだろう。
こんなの研究所の誰にでもバレバレだ。
もちろんルーナの気配察知能力はとても高いが。
「よし、この辺に入るか。あいつらはどうしたい?」
「そうですね、放置していてもいいと思います。あ、このあたりの情報を聞くのはどうでしょう?」
「それはいいな。さすがルーナだ」
そうしてルーナの頭を撫でると、ルーナも気持ちよさそうに目を細めた。
今俺たちがいるのは、路地裏の少し入り組んだあたりで、さっきの3人組が一気に近づいてきていた。
「よお、坊ちゃんたち。ダメじゃぁないか、こんな場所に来ちゃ。危ない奴らに捕まっちまうぞ?」
「そうそう、この辺は怖ーい人がいっぱいいるからね」
「俺たちみたいになっ!」
我慢ができなかったのか、最後にやってきた奴はいきなり襲い掛かってきた。
もちろん俺はルーナとあいつらの間に立っているし、なんならあいつらの方を見てもいない。
ルーナから目線を外すほどの価値があいつらにはない。
俺はルーナと話すので忙しいのだ。
俺とルーナの時間を邪魔しないでもらいたい。
ちなみに声は聞こえていない。
俺とルーナの周りを分厚い空気で囲って、完全防音にしているからだ。
ただ、視界にちらちら入ってくるし、気配も邪魔だ。
――ギーン
「なっ、弾かれた?! どうなってやがるっ」
もう一度同じように剣を振りかざしてくるが、結果は変わらない。
――ギーン
「おいおい、ガキ相手に何してるんだよ」
「こいつ、剣が効かねぇぞ!」
「何言ってるんだ? 飲み過ぎて頭がおかしくなったのか?」
「仕方ないから俺が代わりにやってやるよ。あばよ、坊ちゃん」
――ギーン
「は? くそっ」
――ギーン
何度も繰り返される金属音。
そしてようやく事の異常性に気づいたのか、攻撃をした2人は後退った。
「おい、こいつはヤバいって」
「いったん逃げるぞ」
「おいおいお前ら、ガキ2人に何してるんだよ」
「お前だって見てただろ! こいつに剣は効かねえんだって」
殺そうとして殺せなかった相手を前に、ずいぶんと呑気なものだ。
俺を斬ろうとしてきたから放置してやってるが、ルーナを狙っていたら即肉塊になっているのに。
「ちっ、ならそこの嬢ちゃん捕まえればいいだろ。殺せなくても売れば. . . . . . ガッ」
「お前、今ルーナを狙おうとしたな?」
あたりの空気が重くなり、息すらできなくなる。
さっきまで余裕ぶっていた男は宙に浮いており、身動き一つできず苦しさに顔を歪めていた。
そこへ手を伸ばしている少年の目には、明確な殺意が灯っていた。
「ルフト様。情報を聞き出さないと」
「あぁ、そうだったな。忘れていたよ」
重かった空気が嘘のように霧散し、殺気を放っていた少年は少女に苦笑いを返した。
「お前たちに聞きたいことがある。拒否権は無い」
「ヒッ」
また殺気を放たれた男は、必死に頷いて許しを請う。
「このあたりの神伝教について教えろ」
相変わらず身動きは取れないが、殺気が無くなったことで話せるようになった男は、懸命にこのあたりのことを話した。
「こ、この辺りでは、ほ、ほとんどが神伝教に入ってます。全員が週に1度教会に行って祈りをします」
「信徒のやることはそれだけか?」
「は、はい。後は、祭りとか、葬式とかに祈りを捧げます」
「この町の教会の幹部は誰だ?」
「え、え~と、ここの教会では、マイエール様が司教をされています」
「本名は?」
「マ、マイエール・ヴェスタ様です」
「そうか。ここらへんで子供が消える事件は起きているのか?」
いきなり質問が変わり、困惑する男。
「早く答えろ」
しかし少年に急かされ、自分の命運はこの瞬間にも決まるかもしれないことを思い出す。
「あ、あまり聞きませんが、スラム街ではよく子供がいなくなるかと」
「教会には普通の奴が入れない場所はあるのか?」
「え、えーと、あ、あります。教会の地下と最上階の部屋です」
「そうか。ルーナ、どう思う?」
「はい。おそらくそこでしょう」
「もうこいつらは消してもいいかい?」
「私は構いませんが. . . . . .」
「ごめんルーナ。ルーナが俺の失った心を悲しんでくれるのは嬉しいけど、俺はこいつらを生かしておけない」
「はい、わかっています。ルフト様のお好きなようにしてください」
「ありがとう、ルーナ」
悲しませてしまったルーナの頭を撫でる。
ルーナはその手をとって、自身の頬に当てた。
「ルフト様は心を失ってません。私にはこんなに優しくしてくださるんですから。いつかきっと、心を取り戻せます」
「あぁ、そうだな」
俺は心を取り戻したいとは思わない。
俺にはルーナがいればそれでいい。
「ルーナ、宿に戻ろうか」
「はい」
俺はルーナの手を取って、宿へ向けて歩き出す
その時には既に、男たちはこの世にいなかった。
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