遠征編
第12話 遠出
俺が力を手に入れてから5年が経ち、俺とルーナは10歳になった。
組織が育ってきて、俺がいなくても大丈夫そうになってきたため、前々から思っていた遠出をしてみようと思う。
「ルーナ、ちょっと遠くの方まで出てみないか?」
「遠くの方ですか?」
「そう。ルーナは世界中の研究所にいる子供を助けたいんだろう? だから遠出をして、他の研究所を調べようと思ったんだが」
「そういうことでしたか。しかし建物はまだ完成していませんし、この距離を運ぶとなると. . . . . .」
「大丈夫だ。もしもの時は俺が運べばいいが、ちゃんと全員が移動できる魔道具を開発した」
俺が今回、遠出をしようと決意した主な理由はこれだ。
転移魔法用の魔道具。
もともと王都にあるらしい転移魔法用の扉を参考に縮小して、人が1人入れるぐらいにした。
これならば序列5位までなら使えるだろう。
基本は俺とルーナが情報を集めて場所を探し、見つけたら他の奴に連絡するのがいいと思った。
そしてもう一つ理由がある。
それはルーナと2人で過ごしたいからだ。
これのためだけに遠出をするのはルーナが他の子を心配しそうだったので、遠出をする理由を探していた。
それで思いついたのがこの案だ。
「さすがです。そのような魔道具があるなら遠出をするのもいいですね。ルフト様と2人きりで過ごせますし」
「あぁ、そうと決まればリアーナたちに伝えておくか」
よかった。
ルーナが承諾してくれたので、他の奴に伝えてさっさとルーナと旅に出よう。
期限は決めていないが、5年ぐらいを目安にしようと思う。
もうこの研究所は俺とルーナがいなくてもやっていけるはずだから、長期間ここを離れても大丈夫だろう。
♢ ♢ ♢
私はリアーナ。
あの遺跡の研究所で死にかけていた所をルフト様に救っていただいた。
あそこだけでなく他の研究所もすべて潰して回り、子どもたちを救っていく姿を見て、一生この御方について行こうと決めた。
どうやらルーナ様のことを最優先で考えていらっしゃるらしく、私は何かお返しをしたくて鍛錬を頑張り、知識をつけた。
それでも、ルーナ様には全く届かなかったけど。
ただ、今回は久しぶりにルフト様が私たちに話してくださった。
あの忌々しい神伝教の研究所を見つけるために2人で遠出をして、見つけ次第私たちで対処してほしいとのことだった。
私はようやく来た恩返しのチャンスだと思い、成長したこの子たちを使って、ルフト様たちに頼り切らずに情報を集めていこうと思う。
念のためにルーナ様にはその情報を伝えると思うけど。
私はルフト様のお力になれるようにこれからの計画を立てた。
♢ ♢ ♢
リアーナたちに予定を伝えて、俺はフードを被ってルーナと共に旅立つ。
まず目指すは最も近くの栄えた町だ。
あそこの本でだいたい研究所がありそうな位置はわかっているが、最初は神伝教について町の評価を知っておきたかった。
という建前で、ルーナと一緒の時間を過ごしたかったのだ。
ちなみにフードを被るのは、ルーナの顔を隠すためだ。
ルーナはまだ10歳だが、大人から見ても可愛いと思う。
こんな子が出歩いていたら、俺が消さないといけない人数が多くなりすぎるのだ。
「ルーナ、まずは宿をとっておこうと思うが、行きたい所はあるかい?」
「そうですね。私はあの町からはあまり出たことがないので、よくわかりません。ルフト様と同じならばどこでも大丈夫です」
「そうか。なら人気のありそうな所にしよう」
そういって、歩きながら宿の部屋にいる人の気配を探る。
今は夕方ぐらいだし、宿の夕食を食べたり部屋で過ごす人が出てくるはずだ。
宿と言っても食堂が無かったり、部屋が汚れていたり、費用が高すぎたりするのが多いので、よく吟味しなければならない。
しばらく大通りを歩いていると、それなりに一階の食堂が混んでいて、部屋にも何人か気配がする大きめの宿を見つけた。
この時間でこれだけ人数がいるうえに建物が大きいので、ここなら大丈夫だろう。
「ルーナ、ここにしようか」
「はい」
そうして宿に入ると、多くの大人がこちらを見てきた。
ここは栄えていて治安はいい方だが、それでもこの時間に子供が出歩くのは危険である。
それに加え、基本は遠出をしない平民の子供が宿に来ること自体珍しい。
それが大人の付き添い無しとなるとなおさらだ。
「ルーナ、部屋はどうしようか?」
「ルフト様と一緒が良いです」
「わかった」
そうして、受付の所へ行く。
「部屋を1つ取りたいんだが」
「お金は持ってますか?」
「この通りだ」
そう言って持っている巾着を見せると、受付の人は少し驚いた顔をしていた。
「申し訳ありません。貴族の方でしたか。宿を1つでいいですね?」
「貴族ではないが、それで頼む」
受付の人は訳知り顔になり、お金を受け取って鍵を取り出し始めた。
巾着を見せると周りの大人たちの目線が増えたが、ルーナをじろじろ見られるのは不愉快だ。
鍵を受け取って、さっさと外へ出るとしよう。
「宿も取れたし、ご飯を食べに行こうか」
「はい」
そうして宿を出てぶらぶら歩くことにした。
後ろからついてきている奴らをどうするか考えながら。
♢ ♢ ♢
「おい、あのガキが持ってた巾着見たか?」
「あぁ、かなりの量だったな。どっかの貴族だろう。抜け出したかお忍びか知らんが、護衛がついてなかったしラッキーだな」
「さっさと殺りに行こうぜ」
「まぁ、そう焦るな。人目につくところで殺るのは良くないだろ」
「しばらくは尾行していった方がいい」
「チッ、わかったよ」
そうして怪しい3人組は、知らず知らずの内に怪物の逆鱗へと手を伸ばしていた。
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