第8話 冒険者ギルドでの騒動(2)
私はこの冒険者ギルドのマスターをしているカランだ。
この地位になって数年が経つが、今日のようなことは今まで見たことがなかった。
今日もいつも通り、他のギルドや国からの通達に目を通していたが、いきなり受付の仕事を務めていたリーハ君が部屋に慌ただしく入ってきた。
普段は必ずノックをする礼儀があるリーハ君だが、今日はかなり焦っているらしい。
「どうしたのだ?」
「大変です! ギルドカードを作る装置が壊れるほどの人が来ました!」
意味が分からない。
ギルドカードを作る装置は何年も使っているのだから壊れてもおかしくないだろう。
いったい何を焦っているのだ?
「どういう意味だね?」
「たぶん魔力が強すぎて装置が壊れちゃうんです。ちょっと来てほしくて」
魔力が強すぎて装置が壊れるなんて聞いたことがないが、リーハ君がいうのならそうなのかもしれない。
一応見に行ってみるとするかね。
♢ ♢ ♢
見に行ってみると、受付の近くに小さな子供が2人いた。
そしてその子供に、このギルドでもよく騒ぎを起こす男が手を伸ばしていた。
また騒ぎになるが、ここに来た子供もこれで帰ってくれるだろうと思った次の瞬間、男の体が宙に舞った。
いや、宙に浮いた。
男はこの状況を理解できておらず、身動きしようと頑張って体を動かしている。
かくいう私もまったく理解できていなかった。
「黙れ」
男が喚いたときにその少年が言葉を発した瞬間、強烈な殺気がこのギルド内を襲った。
冒険者としてそれなりの自負があった私ですら声が出せないほどのプレッシャーだ。
「ルーナに手を出すとはふざけた事をしてくれたな。お前には生きている価値はもうないと思うんだが. . . . . . ルーナ、こいつはどうしたい?」
「確かに掴みかかろうとしてきたのは良くなかったですが、消すのはダメです。冒険者登録が済んでませんし、ルフト様のお手が汚れてしまいます」
「俺のことは気にしなくていいんだが、ルーナがそういうなら. . . . . . おい、ルーナに感謝するんだな。次同じことをしようとすれば消す。わかったか?」
どうやら、男の方は命拾いしたようだ。
今のは本当にまずかった。
あのルーナという少女が止めてくれなかったら、間違いなくあの男は死んでいただろう。
あのルフトという少年は人を殺すのに躊躇いを持っていない。
ルーナという少女もまた、人を殺すことにあまり抵抗がないように見える。
これはまずいのが来たかもしれない。
「リーハ君、あの子たちがさっき言ってた子かね?」
「は、はいっ」
「ふむ、わかった。私が相手をしよう」
♢ ♢ ♢
「私はここのギルドマスターを務めているカランだ。よろしく」
そういって受付の人が連れてきたのはさっき感じたそれなりに強い人だった。
白髪がかなり混じっているが、筋肉質で引き締まった体をしている。
今でもかなり戦えるのだろう。
「俺は魔物の買取をしてほしいだけなんだが」
「特別に魔物を買い取る許可は出せるが、冒険者登録を済ませておいた方がスムーズにいく上に、他のギルドでも使えるから冒険者登録はした方がいいだろう」
「どうすればいいんだ?さっきの装置は何度やっても壊れると思うが」
「ちょうど、普段使っている装置よりも少ない魔力で正確にカードを作る装置があってね。それを使うといい。ちょっと待っててもらいたい」
「わかった」
少しして、さっきの受付の人がちょっと大型の装置を持ってきた。
そこに促された通り手を翳すと、今回は壊れずに動いたが、それでもかなり危なそうだった。
「多分次は壊れると思うが、いいのか?」
「これを使う機会はあまりないだろうから大丈夫だ」
まぁ、大丈夫というならいいのだろう。
魔物の買取ができるならどうでもいいが。
「それで、どうやったら買い取ってもらえるんだ?」
「買取の窓口がこの建物の裏にあってね。そこに持っていくといい」
「そうか。助かる」
「ありがとうございました」
そう言って、ルーナと手を繋いで外へ出て、魔物の死体を裏の方へ飛ばす。
「これを買い取ってもらえないか?」
「ギルドカードを見せてください」
ギルドカードを見せると少し驚いた顔になって、持ってきた魔物を測りだした。
「うそ、これ全部ブラッドベア. . . . . .」
「それで、いくらになるんだ?」
「え、え~と、たぶん、金貨100枚くらい?」
ここで少しお金について解説すると、この世界には金貨、銀貨、銅貨があり、
金貨はだいたい1万円、銀貨は千円。銅貨は百円ぐらいだ。
つまり、100万円を手に入れたことになる。
かなりいい稼ぎになりそうだ。
この熊の魔物(ブラッドベアというらしい)の肉はかなり美味いから需要が高いのかもしれない。
これからはたまに売りに来よう。
お金を受け取った後、町でルーナと買い物をした。
ルーナは買い物をするのが楽しいらしく、たまに一緒に買い物をするのも悪くない。
そんな風にルーナとの時間を楽しんでいたが、冒険者ギルドでは深刻な雰囲気になっているのを知る由もなかった。
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