第7話 シロの回、その3
『シロの回、その3』
冒険者ギルドの中はざわざわしている。
うるさいですね。私は耳が良いから全部聞こえてしまうんですよ。
「登録したいのですが」
「え~と、あの~、え~と」
「ダメなのでしょうか?」
「猫じゃあダメなんじゃないかな~……」
「それは何故でしょうか? 言語を理解し会話も出来ます。
アイテムボックスもあるので、物を運ぶのも容易ですが」
「「「「猫がアイテムボックス~~~~?!!!」」」」
事あるごとに全員で叫ぶのは決まりなのでしょうか?
私もギルドに加盟するからには練習した方が良いかもしれませんね。
「わ、私の一存じゃあ決められないかな……」
「では誰に言えば良いでしょうか?」
その時、奥の方からガタイの良い男が出てきました。
少し偉そうですね。まぁ、主の方が上ですが。
「何の騒ぎだ!」
「あっ、ギルドマスター!
実はですね……この猫ちゃん、シロさんが、冒険者登録したいと言われてまして……」
「猫が? 言ってる? お前、頭大丈夫か?!」
「本当なんですよー!」
「お前なぁ……常識を考え」
「ギルドマスターでしたか。私の名前はシロ。登録をしに来ました」
「……あれ? 俺、熱でもあるのかな?」
ギルドマスターはフラフラとして、壁にもたれかかりました。
病気だったのでしょうか?
「ご病気でしたか。では許可だけで良いので頂けないでしょうか?」
「……マジで猫が喋ってる。しかも黒猫なのにシロとか言ってるし…………」
「え~と、許可をお願いしてるのですが」
「……これは悪い夢かな? おい、シャティ、後は任せた。俺は帰って寝るわ」
「ちょ! ちょっと! マスター!!」
ギルドマスターは頭を抑えたまま奥に戻ってしまいました。
どうやらシャティさんに一任されたようなので、問題無いですね。
「ではシャティさん。お願いします」
「え、え~…………。
あ、あのね、猫の登録は……どうなんだろ?」
「猫だとダメだという決まりがあるのでしょうか?」
「そんな決まりは無いけどね……」
「では問題ありませんね。お願いします」
「どうしたら良いの?! 皆も知恵を貸してよ!!」
そう言ってシャティさんは周囲を見回しています。
でも誰も目を合わせてくれないようで、落ち込んでいますね。
こういう時、主はどうしてたでしょう?
そうです、理論的に解決策を話されます!
今回の場合は……私が冒険者として問題無いという所を披露すればOKですね!
「シャティさん。試験をしましょう。
私が試験に合格したら登録OKというのはどうですか?」
「シクシク……えっ? あっ、そうですね。
もう、どうとでもなれです! そうしましょう!」
「こちらから提案しておいてなんですけど、どんな試験をします?」
「そうですね~、まずは力をみせてもらいましょうか」
「力、ですか?」
「討伐依頼や護衛の依頼など、敵を倒す機会は多いんです。
だからそれに見合う実力が必要です!」
「なるほど。では力を示しましょう。それで、どうすれば?」
「裏手に訓練場があるので、そちらでお願いします」
「判りました。では案内をお願いします」
シャティさんについていって、訓練場に移動しました。
何故かギルドに居た冒険者全員も付いてきます。
皆さんも試験をされるのでしょうか?
訓練場に到着すると、職員と思われる方達が中央に丸太を設置しました。
う~ん、爪を研ぐのに良さそうですね。後で貰って帰りましょうか?
「シロさん。あの丸太に攻撃をしてみて下さい」
「どのようにでしょうか?」
「シロさんの得意な攻撃で構いませんよ」
「判りました」
私の得意な攻撃ですか。
魔法はまだ覚えていませんし、道中で練習した爪での攻撃しか無いですね。
「では爪で攻撃します」
「つ、爪で? あ、はい。どうぞ」
微笑ましいといった顔で見られてしまいました。
引っ掻くと思われていそうですね。
確かに少し引っ掻きたくはありますが、試験なのでそこは我慢です。
私は二分程の速度で丸太に向かって走り、爪を伸ばして切りました。
う~ん、軽く切れますね。爪研ぎには向かないようです。
そのままシャティさんの元へ帰ります。
「どうでしょう?」
「え? え~と、何かされました?」
「丸太を切りました」
「へ?」
「丸太を切りました」
「ほ、本当に?」
「はい。合格ですか?」
「ちょ、ちょっと待ってください! か、確認します!」
設置した職員の方が丸太に近づきます。
そして丸太を持ち上げようとしてます。真ん中を切ったので、重さは半分ですよ?
あっ、勢いよく持ち上げたので、丸太ごと転ばれました。大丈夫でしょうか?
「「「「「本当に切れてる~~~~?!」」」」」
ここで叫ぶ所でしたか。
何か合図でもあるのでしょうか? 後で習わなくては。
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