第3話母、ガンに倒れる

あれは、僕が大学1年生の夏だった。電話が鳴る。

緊急事態だった。母は僕が高校1年生の時に乳がんの手術をしていた。

しかし、今回は子宮がんだった。

秋、母は手術した。ステージ3だった。7月は夏休み。バイトを掛け持ちして働いた。秋に、後期の学費60万円の金が必要だからだ。

がんの母にお金を払わせるのが心苦しかった。

うちは兼業農家だ。

両親が働かないと学費がない。

僕は考えた。

勉強は、大学だけでは無い。場所は関係ない。

今、僕に出来る事は、地元に帰り働き家庭にお金を入れる事。

後期の学費は、支払わない様に言い伝えた。


そして、その時がやってきます。

1999年1月31日。

僕は大学に、自主退学届けを提出した。

僕は大学1年で中退したのだ。夢は諦めた。


そして、アパートの明け渡しと、引越業者のタイムラグがあり、極寒の中、野宿した。

喉が渇いたが、手持ちが無く、公園の水を飲もうとしても、水道が凍結していた。

あの頃、ヘビースモーカーでは無かったので、タバコが吸えないのは苦では無かった。


翌日、引き渡しして、入金を確認してから、帰郷した。

周りには散々言われた。

「羽弦は、東京の大学に付いて行けずに中退したんだ」

「羽弦は、遊んでばかりいたから、退学されたんだ!」

などなど。田舎は悪いうわさばかり。

だが、僕は無視した。自分の勉強より、親の身体が大事だ。


手前味噌で悪いが、今の僕の知識は、大卒よりある。

自分が学生時代より、物事を知っている。

これが、世間の荒波に揉まれた結果だ。犯罪心理学、料理、哲学、絵画、その他もろもろ、独学で学んだ。バカ大学卒の私は大卒でござるの鼻っ柱を折ったことは何回もある。

貿易会社では、書類は全部英語。

仕事も英語。


だが、20年も経つと忘れた単語が多い。


これからも、勉強はする。

大卒に負けてたまるか!

大学卒業したくても、泣く泣く中退したヤツの方が人間味がある。

そう、僕は信じている。卒業したかったが、自己退学を選んだ僕を褒めてやりたい。

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