第31話 決着からの……
俺たちが悪役を演じている間に、ロデオの顔がウネウネと不気味に動き、傷口が塞がる。治癒能力もかなり高いようだ。それだけでなく、さらに俺たちを驚かせてきた。
「消し炭にしてやる……。『アステロペーテス』!」
ロデオの右腕に数多の小さな雷が生まれる。それらが収束していき、一つの戦斧を作りあげた。数多の雷を束ねたその戦斧は常にゴロゴロと轟き、見るもの全てに致命の力を持っていることを知らしめてくる。
ミノタウロス化に続いての奥の手か。一筋縄ではいかないのは流石だし、奥の手を何枚も持っているのも素晴らしい。こういうところも強者たる所以なのだろうな。見習おっと。
「死ねェエエェ! このクソアマがァアアアアアアァァ!」
本気の殺意をもってウィーディに切りかかるロデオ。だが、俺に一抹の不安もなかった。ウィーディなら確実に大丈夫だという確信があったのだ。言葉では説明できなくとも、心からの信頼があった。
俺の信頼に応えるように、ウィーディは俺の方を一瞥して微笑む。そして、振り下ろされた雷の戦斧を指一本で受け止める。
「ば、馬鹿な……!?」
「うん。技術って大事。よくわかった」
ウィーディはロデオとの戦いから技術の有用性を知った。それを身体強化にも適応しただけ。事実、今のウィーディの指先には膨大な魔力が籠っている。俺と脳内事典が瞬間白熱異論の結果、そう結論付けた。
「こ、このバケモンが……!」
ロデオが手に持った双戦斧で、己の全てをぶつけるように攻撃を繰り返す。それは荒々しくも美しく、無数の努力の跡が見て取れた。真っ当に冒険者をしていたのなら大成していたであろう逸材だ。
もったいねーなぁ。己を律する力さえあればと思わずにはいられない。俺もこういう才能が欲しかった。何で俺は嫌がらせ魔導なんだろう……。全然格好よくない。もっとこう、中二心をくすぐるような才能がよかったなぁ。
「ユニ!」
「ん?」
焦ったウィーディの声に俺は顔を上げる。そこには何故か増えていた雷の戦斧が宙をまっており、そのうちいくつかは俺に向かって飛んできていた。
WHAT!? それ直撃したら死ぬやつ! あー!! 胴体貫通したー!!! イヤー!!!!
「俺も……ここまでか……」
「ユニ!」
「ハ、ハハハ……! まずは一人……!」
「なんちって」
「ユニ!?」
「はぁ!?」
オイオイ、どうしたんだ二人とも。俺の身体に穴が開いたと思ったら服まで元通りになったのがそんなに不思議かい? 知りたい? 知りたいよね? 仕方ないなぁ! 教えてあげちゃう!
「俺そっくりに模った水魔法の上から幻影魔法で俺の姿を投影する。これぞ、身代わりの術! 一体何時からこの姿が本物だと錯覚していた? 貴様が俺だと認識していたものは、単なる幻影でしかないのだよ」
「すごい!」
「冗談じゃねぇ!」
「フッ、ネタバラシも済んだところでウィーディ。そろそろ終わりにするとしよう。これ以上の戦いは時間の無駄だ」
「ん」
俺は身代わりの影に潜みながらロデオの最後を見送った。俺に意識を割く必要がないと理解したウィーディは、あえてまっすぐ歩いてロデオに接近する。雷の戦斧が宙を舞ってウィーディに襲い掛かるが、それら全てを落ちてくる枯葉のように掴み、砕いていった。
「このオレサマが……! こんなところで死ぬわけねぇんだよッ!!!!」
ロデオが世迷言を吐きながらウィーディに襲い掛かる。しかし、両の手に持った戦斧すらウィーディに砕かれ、その光景と運命を信じられないとばかりに目を見開いた顔面に、強烈な一撃が加えられる。その拳は衝撃が後方に逃げないように進路を床に定めており、その威力は床を陥没させるには十分だった。
ウィーディの拳と床にサンドされたロデオは完全に意識を失い、戦斧の柄がカランと音を立てて倒れた。それを確認してから、俺は影から出てウィーディに声を掛ける。
「お疲れさん」
「まだある」
「うん?」
「こいつらに裁きの鉄槌を下す」
「その言葉は使わなくていいから!」
ヤメテ! ちょっと痛々しいから! もっというと俺の心にエグイダメージが入るから! 少なくとも普段使いの言葉じゃない!
「格好いいのに?」
「いや、それは常用しない言葉だから」
「じょう、よう……?」
「……格好つける時のとっておきの言葉だ。たまに使うから良さがあるんだよ」
「んー……ん」
なんとか理解してくれたようだ。よかった。これで俺の心の平穏は守られた。ヨシッ!
「ところでこいつらに罰するんだよな? 何をさせるつもりだ?」
「悪いことを辞めさせる」
「それは……」
俺は次の言葉を出せず、思わず言い淀んだ。この手の輩は悪事に対しての心理的ハードルが壊れている。改心させるなんて不可能。ちゃちゃっと再起不能に追い込むのがBest。俺はこれまでの経験からそう思っている。
しかし、ウィーディはそれで納得しないだろう。ウィーディには様々な経験が足りない。きっと、自分がしようとしたことが不可能だと分かった時、とても辛い思いをする。それを取り除くべきかひどく悩んだが、俺はウィーディの成長の為だと思い決断を下す。
「ウィーディの好きにしていい。だけど、もし自分ではどうしようもなくなった時には俺を頼れ」
「うん、頼りにしている」
俺の真面目な雰囲気につられ、ウィーディも顔を引き締めて頷いた。
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