第30話 目に見えて成長するっていいよね

 俺が声を掛けてすぐ、ウィーディの動きに変化があった。これまでは嵐のような攻撃一辺倒であった動きが、ロデオの動きを引き出すような動きに変わったのだ。素人の俺ですらわかる変化だ。ロデオはもっとその変化を実感しているはず。証拠に、ロデオの額には汗が浮かんでいた。


「なんだコイツ……!?」

「なるほど、覚えた。次」

「動きが……! オレサマを真似て……!?」


 ウィーディが攻撃を仕掛け、ロデオが対処し、それをウィーディが覚える。以下エンドレス。しかし、永久機関ではない。たった一回の攻防でロデオの手札が一つ確実に減る。いくらロデオが達人といえど、その動きは無限ではない。


「これも覚えた。次」

「ありえねぇ……。ありえねぇ……!」

「それは見た。次」


 ウィーディの攻撃がロデオに当たる。ウィーディの学習能力に恐れをなし、手札を出し惜しみしたのだ。吹き飛ばされたりしていないのでウィーディが手加減しているのだが、それでもダメージは蓄積していく。

 勝ったな、ガハハ。風呂入って来る。あー、風呂入りたい。俺は日本人。風呂は心の洗濯だ。洗浄魔法では心まで綺麗にできない。ちなみに残っていたロデオの部下は倒した。不用心にも俺に攻撃してきたから、俺謹製のトラップに引っ掛かった。今は俺の足元に転がっている。


「クソッ! クソッ! このオレサマがっ!」

「もう終わり?」

「ふざけんなっ! 目にもの見せてやる……!」


 再びロデオがどす黒いオーラがロデオに纏わりつく。しかし、今度はロデオが苦しそうに悶えていた。理由は見れば納得できる。全身が異様な変化を遂げたのだから。猛牛の角が生えた人間から、人の形をした猛牛へ。神話上のミノタウロスそのものへと変貌を遂げたのだ。荒々しい息遣いをしながら、マジックバッグから戦斧を取り出した。


「この姿は……ダセェから嫌いなんだよ……!」

「それは違う。その姿で紳士的だったら……。いいや、紳士的だからこその格好良さがある。それがわからないからお前はゲロカスなのさ」

「本当?」

「ああ、これはこの世の真理の一つだ」

「ふーん」


 間違いない。ウィーディがわからないのはお子様だから。じきにわかるようになるさ。俺のようにね。

 ウィーディは納得しきれない顔をしていたが、それもすぐに引っ込み、ロデオに意識を向ける。異様な変化を目の当たりにしても動揺はなく、ただ静かにロデオの出方を待つのみだ。


「本気になったオレサマは誰にも止められねぇぞ……!」

「そう。それも今日で終わり」

「なら受け止めてみろよ……!」


 ロデオが牛のように脚で地面をひっかき、その度に地面にスパークが走る。不思議なことにあのトリケラトプスモドキよりも圧倒的に小さいロデオから、比較にならないほどの威圧が感じられる。

 じょ、冗談じゃねーぞ!? 人間離れした存在二人が戦う空間に俺みたいなか弱い人間を入れるんじゃないよ! 死んじゃうぞ! なに? お前人間(笑)じゃんって? 一度死んでんじゃんって? 二度目は人間らしく死にてぇんだよ……。


「砕け散れ……!」


 ロデオが床を蹴った。その反動で床が抜け、衝撃波が発生する。その勢いそのままウィーディと衝突した。

 ガァアーーン!!! と、少なくとも人間同士がぶつかったとは思えない音が周囲に響く。両者がぶつかった衝撃は俺と気絶した敵を容易に吹っ飛ばし、床に転がる。


「アレを正面から受け止めるのかよ……」


 衝撃波の中心にはウィーディとロデオの姿があった。ロデオの角を掴み、突進を受け止めたウィーディ。何よりも恐ろしいのは、ウィーディは一歩も後退していないことだろう。大概の人間なら紙切れの如く散らすその破壊力を、己の力だけで封殺してしまったのだ。


「……この、バケモンがよォオ!!!」


 その言葉は半ば恐怖に染まっていた。頭を押さえつけられたまま、ロデオはがむしゃらに戦斧を振るう。常人離れした怪力で振るわれた戦斧なら、どこに当たっても大ダメージが見込める上、その戦斧を警戒して手を離せばその角が襲うことになる。普通ならそれで決着だ。

 けどよ、相手がウィーディだぜ? 技術っていう持ち味を捨てたロデオじゃ勝てねーよ。


「ぶごぉぁっ」


 純然たる暴力の権化相手に力勝負は無謀だった。ロデオの攻撃に技術がないと見るや否や、ウィーディはロデオの顔面に膝蹴りをお見舞いしたのだ。両の角が砕け、ウィーディの拘束から解放されたロデオは宙を舞った。

 言わんこっちゃない。あー、痛そう。いや、痛いで済むか? 俺が同じことをされたら頭がミンチになりそう。そう考えると即死って事だから逆に痛くないのでは? というか、まだ立てるのか、ロデオの奴。素直にスゲーわ。


「まだやる?」

「ゆ……ゆるさ、ねぇ……! ころして、やる……!」


 鼻や口からボタボタと血を流しながら、ロデオはそれでも戦意を喪失していなかった。もはやウィーディとの力量差は身に沁みてわかっていながら、それでも立つ姿はどちらが悪役か勘違いさせてくる。


「フッ、いくらでもかかってくるが良い!」

「よい!」

「貴様が二度と立ち上がれなくなるまで絶望に沈めてやる!」

「やる!」


 ならばこちらも乗らねば無作法というもの。そして、ウィーディ! いいねー! 調子あがってきたよー! じゃんじゃんぶん殴っていこう! は? 悪逆非道だって? HAHAHAHA! 面白いこと言うね、君。今ぶん殴られている側だって同じじゃん。これまで自分がしてきたことが返ってきただけ。因果応報ってこと。日頃の行いって大事だよ?

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