第29話 うわっ、ドブカス!

 これはちょっと想定外かな。ギルドや貴族が手を出さない理由が今わかった。コイツ、単純に強い。あのゴリマッチョギルマスと同じくらい光ってる。俺の目は才能でしか判断できない欠陥品だ。コイツの持つ戦いの経験値次第では、ウィーディとの戦いがどう転ぶかはわからない。


「って、あの時の精霊族じゃん。大人しくオレサマの女になりに来たの? しかも、別のワカイ子ちゃんまで連れて」


 ロデオは俺たちを見るなり、それまで険しかった顔が満面の笑みになった。そして、とんでもないことを言い出す。この笑顔と言葉を聞いた時、俺は虫唾が走った。人懐っこい笑顔だが、俺だからこそわかるものがある。この笑顔をする輩は須く下衆だ。

 というか、ウィーディお面外したのか。顔バレしないようにの配慮が台無しだ。


「違う。お前をぶっ飛ばしに来た」

「……へぇ」


 ロデオの目がスッと細められる。気持ち悪い薄ら笑いはなくなっていないが、明らかに苛立っている。ロデオにとってつい先日まで格下だったウィーディに「ぶっ飛ばす」なんて言われたのだから。


「ウィーディ、相手は人間だ。魔物とは訳が違う。気を抜くな」

「うん」

「ふぅん、後ろの小さいのが今のご主人様ってワケ。ならあと少しを楽しめよ? もうすぐオレサマがオマエラのご主人様になるんだからな。その時は一体どんな風になるんだろうなぁ? 絶望しながら股を濡らすの? それとも必死で媚を売るの? それとも……」

「Wow、ドブカスだね。下品なのは顔面だけにしてくれよ」


 なんて品性のないドブカス野郎だことで。俺の天誅スイッチが入っちゃうじゃんよ。ウィーディの仇だから俺が横取りする気はないけどね。だけど、言いたいことは言わせてもらう。ついでに相手のペースを崩せたらBetter。ちなみに相手を怒らせるのは俺の得意分野だぜ。


「……もういっぺん言ってみろ」 

「内面と顔面があまりにも汚いから近づかないでくれ。まだゴブリンの方が清潔だよ」

「……ハハッ、お前は泣き叫んでも犯し続けてやる」

「まさか、脳みそもゴブリン以下だったとはね。不可能なことを言うなよ、ざーこ」


 ロデオが俺の煽りに乗った。青筋を立てながら俺に向かって拳を振り上げる。直撃すれば俺の神ボディといえどもタダでは済まないだろう攻撃。だが、逆上したロデオはほんの一瞬、この場にいるウィーディから意識を外してしまった。


「ほげぁっ」

「わたしが相手」


 ロデオの整った顔面を殴り飛ばしたウィーディ。殴り飛ばされたロデオは屋敷の壁を破壊し、二本目の横道を作りあげる。あまり表情豊かとはいえないウィーディが、今回ばかりは露骨に嫌悪感と怒りをあらわにしていた。


「ユニに手出しはさせない」

「このクソアマが……」

「無駄に頑丈だねー。無駄に」


 ウィーディの攻撃が直撃したんだよ? 何で減らず口が叩けるのさ。もうちょっとダメージ負ってもいいと思うんだけど。やっぱり甘く見ちゃ駄目だな。しっかり対策は立てておこうっと。

 ロデオは瓦礫の中から立ち上がる。ペッと口から血を吐き出し、乱暴に口元を拭った。その目からは完全に驕りは消えており、真剣そのものだった。


「オマエが逃げた時、オレサマ直々に捕まえておけば良かったぜ……。だが、どうやった? たった一週間でここまで強くなれるはずがねぇ」

「ユニのおかげ」

「ユニ? そのカワイ子ちゃんの名前? その顔といい、体といい、態度といい、オレサマの好みド直球なんだが、まさか、なんかのユニーク持ち?」

「ユニはそんなのとは比べ物にならないくらいすごい」

「へぇ、ますます欲しくなっちゃうなあ!」


 ロデオの雰囲気が変わった。どす黒いオーラがロデオに纏わりつき、側頭部から立派な角が生える。それはまさに猛牛。ロデオの名に相応しいものだった。

 あ、これはヤバい。少なくとも俺じゃ手も足も出ない。ウィーディじゃないと相手ができない。俺はひっそりとウィーディの後ろに隠れていよう。……いや、隠れながら盛大に煽るね! 見せてやろう。ソシャゲ主人公もひっくり返るくらいの軟弱っぷりを!


「お前じゃウィーディに勝てないよ」

「そう言えるのも今のうちだけだぜ? 『ミノタウロス』を解放したオレサマは最強だからな」

「負ける前振りかな?」

「その口が無様に命乞いをする想像するだけでイっちまいそうだ」

「イク前に逝くと思うけど」

「あん?」

「ウィーディ、俺の護衛は考えなくてもいい。ぶん殴れ」

「ん!」


 だってねぇ、ウィーディがとてもワクワクしているもの。強くなった自分の力を試すいい機会としか思っていない。俺の心配なんて余計なお世話だったようだ。

 今度はウィーディが先に動いた。ウィーディの拳をロデオが腕でガードするが勢いを殺しきれず、ロデオは後方に吹き飛ばされた。


「痛ってぇ……」

「……次は当てる」

「次はねぇよ」


 ウィーディの攻撃を後方にジャンプすることで減衰させたか。しかも、攻撃を受けてから咄嗟にその判断をした。判断力と技術はウィーディより上か。……たぶん。

 再びウィーディとロデオが拳を交える。一見するとウィーディが一方的に攻撃を仕掛けているように見えるが、どの攻撃もロデオに届いていない。全ての攻撃を躱し、いなしている。その動きは達人のソレだ。


「このっ……! 当たれっ!」

「チッ! 何つーパワーだよ!」


 力と速度ではウィーディが圧勝。だが、それを圧倒的な技量で拮抗させているロデオ。とんだドブカス野郎だが、その実力は確かなものだ。これはウィーディのレベルアップに使える。


「ウィーディ! 相手をよく見て学べ!」

「……こいつを?」

「顔と性格は救いようのないド底辺だが、その戦闘技術は超一流だ。強くなるなら全てが教材だと思え!」

「ん!」

「酷い言いようじゃん。ベッドの上でも超一流なんだけどなあ!」

「お前のことは聞いてない」

「そのドライな態度も超好み!」


 うっわ、キッモ。そういうのは美少女とか美女がやるからいいんだろうが! 男の俺で興奮するとかあり得ない。いや、待て。コイツ、ずっと俺のこと女だと思ってる? こんなのに執着されるとか、美少女って意外と大変かも……。

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