第28話 カチコミじゃオラァ!
ロデオ―それが「ボス」の名前である。ロデオは違法奴隷売買だけでなく違法薬物や暗殺などの後ろ暗い仕事も請け負っており、裏も表も真っ黒なFuck野郎だった。しかも質が悪いことに指折りの実力者であり、さらに貴族との繋がりも強く、法で裁けないというおまけ付きだ。
「うーむ、実に胸糞案件だぜ」
「……許せない」
ウィーディの怒りは尤もである。ウィーディの案件も違法奴隷そのものであり、本来なら厳しく裁かれるところなのだが、貴族との癒着でやりたい放題なのだ。
静かに怒りの炎を燃やすウィーディに、俺は冷静になる様に声を掛ける。
「ウィーディ、わかっていると思うが……」
「うん。残らず倒す」
「……ま、いいか」
俺は若干心配になるも、大丈夫だろうと楽観しておく。リーダー格君曰く、相当強いとのことだが、ウィーディの実力と脳内マップがあれば、目標である「ボス」を逃さないことは余裕でできると思ったからだ。問題は殺さないことだが、それは俺がどうやっても防げないので、ウィーディの理性に賭ける他無い。
「よし、日も落ちた。カチコミかけるとしますか。顔は隠せよ?」
俺は巻き上げた金で買った仮面をつける。服装もそれっぽい感じで揃えた。ウィーディも仮面をつけようと手に持ったその時、何を思ったのか俺を見る。
「……ユニ」
「ん?」
「格好いいこと言って」
「……は?」
「最初にギルドでやったみたいに」
HAHAHAHA、何言ってるかちょっとよくわかんない。俺何かしましたっけ? キオクガナイナー。……ウィーディからみたらあれが格好いいってこと? 嘘でしょ。ちょっと感性を正さないといけないらしい。そもそも、ウィーディにいろいろ教えようって考えてたけど、何も実行できてないじゃん。今思い出したわ。
「その方がやる気が出る」
ヤメテ! そんな眼差しを向けないで! 心が揺らぐから! ……ゥオッホン! 仕方ない。本当に仕方ない。ウィーディのやる気の為だ。しばしの恥辱、甘んじて受けるとしよう!
「……夜の帳は降りた。闇夜が照らす漆黒の世界は外道の末路だ。奴らに光など贅沢。今宵、蔓延る悪に裁きの鉄槌を下すとしよう」
「おー!」
めっっっっっちゃ恥ずかしいんですけど!!!! 今の俺の顔、絶対に真っ赤だよ。顔から火どころか破壊光線が出そうだ。仮面があってよかった~。
俺の中二極まる口上に満足したウィーディも仮面をつけた。俺の仮面は点と線が描かれた抽象的な感じで不気味さが醸し出されている。それとは打って変わり、ウィーディの仮面は舞踊界に付けていけそうな感じで、妖艶さが醸し出されている。
「よし、行くか」
「……」
「さて、静寂なるパーティーを開催するとしよう」
「ん!」
これ、ずっと続けないといけない? 先に俺の心が折れそうだよ……。
俺たちは夜の街をロデオの屋敷まで進む。もちろん建物の屋根を走って……と言いたいところだが、俺の身体能力がそれを許さなかった。ウィーディに抱えられて進むのも格好がつかないので、魔法がある世界らしい手段を採ることにした。
「影ってすごい!」
「俺の手にかかればこんなもんよ」
俺たちは影の中を進んでいる。頭上には街が浮かんでおり、宙に浮いたような不思議な感覚で目的地まで一直線だ。ウィーディは魔法が使えないので俺と手を繋いでいる。手が離れると地上に出てしまうので注意だ。
「よし、到着」
「とうちゃーく」
そんなこんなでロデオの屋敷内部に侵入した俺たち。一階の空き部屋で影からでて脳内マップで状況を確認する。
「ロデオは最上階だ。敵総数はロデオ含み十三。この規模の屋敷にしては少ない。よほど自分の強さに自身があるか、手下が手練れなんだろう。心してかかれ」
「うん」
脳内マップで屋敷の構造と敵の居場所がわかるという、圧倒的優位を持つ俺たちはあっという間に屋敷を制圧していく。気絶させた敵は屋敷で見つけた魔封じの手枷を嵌めた上で縛り上げて放置してある。ロープワークはお手の物だった俺が役に立った。
「あと四人か。次は……ウィーディ」
「ん?」
「ロデオが動いた。どうやら気がつかれたっぽい」
「ん」
実に冷静だね、ウィーディ君。俺は動揺を隠すのが精一杯なのに。でも、何でバレたんだ? まさかとは思うが、気配察知がずば抜けてるとか? 裏社会のトップならあり得そう。ちょっと警戒しておくとしよう。下衆のやり方は心得てるんでね。
俺はせこせこと準備をしながら脳内マップでロデオの位置を確認する。残った部下を引き連れ、俺たちの方へ向かってきている。
「……止まった?」
「どうしたの?」
「いや、ロデオが立ち止まったんだ」
「そう……ん」
「ぅげっ」
ウィーディは予備動作なく俺の襟首を掴んで後方に下がる。それと時を同じくして、脳内マップ上のロデオが狂ったような速度で向かってきた。ほんの数秒前まで俺たちがいたその空間まで、壁を飛び蹴りで破壊してやって来たのだ。俺たち目掛けて一直線に。
「オレサマのお楽しみタイムを邪魔する意味をわかってんだろうなぁ?」
襟首を引っ張られたときに外れた俺のお面を踏みつけながら、ロデオが不機嫌さを少しも隠すことなく、ゆっくりと顔を上げる。金髪吊り目でピアスを至る所につけた、如何にもなナリをしたロデオが俺たちを見た。
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