第27話 不穏がこんにちは

 ウィーディに俺の真の姿を伝えた後、俺たちはカフェをあとにした。それから適当に街をぶらついて帰路に就く。大通りを歩きながらいると、ウィーディが俺に寄り掛かってきた。

 なななななな、なんですかー!? いやいやいやいや、これってもしかすると、もしかする? うっひょ~~~~~!!!


「ユニ、つけられてる」

「……はい」


 ですよねー……。俺の勘違いですよねー……。マジ辛い。正直、歩くのが精一杯なくらい辛い。三日くらい寝込んでていいかな? 立ち直れないよ……。こうなれば手段は一つしかない。


「ユニ。……ユニ?」

「……適当な小道に入って『お話し』するとしようか」


 奥義、八つ当たり。俺が勘違いをする理由を作った貴様を許さん。この恨み、晴らさでおくべきか。覚悟しろ。

 俺たちは横の小道に逸れた。脳内マップを見ながら人気のない路地を進む。そんな俺たちの後を追う反応が複数あった。それらが俺たちを包囲するように先回りしている。そして、俺たちは予定通り彼らに囲まれた。


「やっと見つけたぜ」

「小道で俺たち撒こうなんてちょっと考えが甘いなぁ」

「ウチのボスがお前らに用があるんだ。大人しくついてきた方がいいと思うぜ?」


 出会い頭に脅迫とか隠す気ないな、こいつら。というか、こいつら誰? 転生一週間でなんか因縁あったっけ?


「えーっと、どちら様ですか?」

「お前が奪っていったウチの商品を取り返しに来たのさ。ついでにお前にも相応の対応をしろってな」


 はて? 何言ってんだ、こいつらは。俺が泥棒みたいに言いやがってからに。これはアレか? 俺たちが大量の魔物をギルドに持ち込んだって聞いて、金欲しさに言いがかりをつけるパターンか?


「……窃盗を働いた覚えはないのですが」

「とぼけんじゃねぇ! 隣にいるだろうが!」

「……あぁ」


 俺は隣にいるウィーディをチラリと見て、ようやく納得する。そう言えばウィーディを追っていた男たちがいた。こいつらはあいつらの仲間らしい。ここ数日があまりに濃かったからか、ずっと遠い過去のような気がする。


「ようやくわかったか。なら、大人しくついてきてもらおうか」

「お断りです」

「……お前、自分の状況が理解できてねぇようだな?」


 男たちがぞろぞろと武器を取り出す。武器といい、身なりといい、どうやらこいつらはあの時の男たちよりも「ボス」とかいうのに近い立場なのだろう。品質が良さそうだ。奪い甲斐がある。


「事前に忠告しておく。俺は冒険者ランク三十はあるぜ? こいつらもランク二十はある。痛い目見る前に降伏しておけ」

「それはいい事を聞きました。腕試しには丁度いい」

「へぇ……」


 リーダー格の目がスッと細められる。軽薄そうな笑みは浮かべているものの、子ども相手に軽く見られたことに対して相当苛立っていることが窺える。


「ウィーディ、あの時のお前とは違う。見せつけてやれ」

「ん」


 あの時とは何もかもが違う。たった一週間、天才に与えた時間は致命的だ。それは俺が一番よく知っている。

 リーダー格はウィーディを警戒するように視線を向けた。どう見ても一般の住人が着るような服を着ていて、武器は持っていない。それまでユニの隣で存在を忘れそうなほど気配が希薄だった。だが、ユニが声を掛けた途端、その気配が爆発的に濃度を増した。


「……!」


 リーダーは咄嗟に構えた剣をウィーディに向ける。否、向けようとした。しかし、次の瞬間目にした光景は、肉薄したウィーディの拳が深々と自身の腹部にめり込んでいる光景だった。


「……弱い」


 ドサッとリーダー格がその場に崩れ落ちた。完全に気を失ったようだ。その現場を目の当たりにした他の男たちは、ただ沈黙をするしかなかった。自分たちがどうあがいても勝てない化け物を前に、思考を諦めたのだ。

 ほんの数秒後。そこには地面に倒れ伏す人の山ができあがった。


「ユニ、終わった」

「……あ、うん。強くなったな」

「ん!」


 いや、つっよ。シャレにならないくらい強くね? ランク三十相当をワンパンとか、立派になって俺は嬉しいよ。いまいち冒険者ランクの強さ基準がわかってねーけど。でもこの様子だと俺が足手まといになっちゃうじゃん。あ、元々か。

 俺は迷惑料として気絶した男たちの装備や金を回収する。臨時収入としては申し分ない。新しい装備ができるまでの繋ぎとして使わせてもらおう。


「ユニ、どうする?」

「こいつらかー。放っておいても特段害はないが……周りに迷惑がかかりそうだしな」


 こういう輩は俺たちの周囲にまで被害を広げていく。ギルド方面はいいとして、宿屋夫婦が狙われる可能性が高い。俺のポリシーとして、関わらない他者を巻き込むのはNGなので、それは避けたい。


「ともすれば、答えは一つだ」

「どうするの?」

「敵本陣にカチコミかけるとしましょうや」

「かち、こみ?」

「『ボス』って輩のご尊顔をぶん殴りに行こうぜってコト」

「うん、わかった」


 理解が早くて助かるねぇ。というわけで、その「ボス」ってやつの居場所を吐いてもらおうねー。

 俺はニッコリと笑みを浮かべながら、気絶しているリーダー格に顔面に水をぶっかけるのだった。


「ごほっ、ごほっ……」

「おはよう。ところで『ボス』ってやつはどこにいるの?」


 早く言った方がいいと思うけどなー。実力差はわかってるでしょ?

 ウィーディに心折られたリーダー格はすぐに口を割ってくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る