第26話 俺の真実の姿を教えよう……!

 ギルドの騒ぎの処理は全部ギルマスに丸投げして、俺達は外に出た。ギルマスと直々に交渉できた以上、大半の面倒は片付いた。明日には多少のお金が用意できるとのことなので、何をするにも明日からということになる。


「今日一日どうしたものか……。ウィーディ、何かしたいことあるか?」

「んー、魔物を倒したい?」

「それは休みだって……」


 この戦闘狂め。そもそも、お前の装備がないんだろ! いやまあ、ウィーディの強さを考えれば装備なんてあってもなくてもさほど変わらないけどさ、見た目ってもんがあるじゃん? それに、昨日散々戦ったじゃんよ。


「ユニは何かしたいことないの?」

「うーん、そうだなぁ……」


 今度は俺が聞き返されてしまった。そう言われてみると俺も特段したいことはない。生きるのに不自由しない算段が立った以上、喫緊にしなければならないことはないのだ。かといってこの世界には地球のような、座って無限に時間を潰せる娯楽はなさそうだ。

 あー、どうしたもんかね? ……暇なら遠出も考えたけど、明日も予定があるし、遠出しようにも魔物が跋扈してるからなぁ。あ、そう考えれば……。


「この街でも歩くか」

「ん?」

「よく考えると、俺この街のことまったく知らねーわ」

「……そうなの?」

「うん」


 だってさ、あの憎きクソハゲジジイに連れてこられて一週間も経ってないんだぜ? なんなら半分以上は街の外にいたし。脳内事典で知った気になっているだけで、この街のことなんてミジンコくらいしか知らん。


「今日の予定は散歩で決定だな」

「……歩くだけ?」

「ついでに気になった店を見る。買わないけど」

「買わないんだ」

「無駄遣いできる金がないからな」


 金がなければ何もできない。本当に世知辛いねぇ。それも明日になれば解決だがな。

 やることが決まったなら動くのみ。俺たちは目的地を決めずに歩き出した。今回、脳内事典のマップ機能は使わない。その方が趣があるからだ。

 俺たちは適当に歩く。その道すがら目に付いた店に入っていった。正直俺はそこまで面白いものなど無いだろうと思っていたが、それがそうでもなかった。


「「おー」」


 二人揃って感嘆の声を上げる。目の前では銅貨を消すマジックが繰り広げられていた。地球でもあったような演目の一つだが、魔道具を使った本物の魔法であり、種も仕掛けもあるマジックだ。


「どうだい? お客さん。長旅の余興にでも」

「いらないですね」

「おっと、これは残念」


 マジックを披露していた手品師は大袈裟なリアクションを取る。それも一つの興行なのだろう。ちょっと面白い。手品師の方は商品が買われないことはいつもの事のようで、気にしていない様子だった。


「また寄ってね!」

「いい商品があれば」


 他にも怪しい老婆が怪しい薬を売っている店や、如何にも偏屈そうな青年が作り出す魔道具の店などもあった。気がつけばお昼も過ぎていて、休憩がてらお洒落なカフェっぽい食堂に入る。軽食を頼むと焼き立てのパンとサラダ、スープが出てきた。食後に紅茶がついてくるのだから優雅なものだ。


「悪くなかったな」

「ユニのご飯の方がおいしい」

「そりゃどうも」


 シェフ冥利に尽きるね。シェフじゃないけど。

 食後の紅茶を飲みながらまったりしていると、テーブルを挟んで向こうに座るウィーディがソワソワとし始める。そして、真剣な目をしながらとても言いづらそうに質問を投げかけてきた。


「ユニって何なの?」

「……うん?」


 質問がぶっ飛びすぎてよくわからねーんだが? しいて言うなら俺は俺だ。

 ウィーディもいきなりあやふやな質問をしてしまったことを理解したのか、別の角度から質問を積み重ねてきた。


「ユニはこの街のこと知らないって言ってたよね?」

「そうだな」

「親はいるの?」

「ここにはいねーな」


 あー、そういうこと。俺という存在に矛盾を感じてんのね。見た目はこの世界でいうところの成人である十五歳前後でこの街を知らないなんて不思議だ。ウィーディのように他所から来た可能性もあるけど、親はいないし小綺麗だしで矛盾の塊。そりゃ、気になるよ。


「えーっと、なら……」

「ウィーディの言いたいことは理解した。つまるとこ、俺の正体が知りたいんだな?」

「……うん」


 そんな申し訳なく頷かなくても。別に俺の過去を知られたところでねぇ、特に困らんのですよ。ただ、広められるのは嫌だから、名前と天誅にことは伏せておこう。


「誰にも言うなよ?」

「教えてくれるの!?」

「別にいいけど」


 驚くウィーディに耳を貸すように言う。俺は小さな声で真実を告げた。


「簡単に言うと、俺はこの世界ではないところで生きてて、神の人違いで殺されたの。で、その神がこの世界に転生させやがってくれたってわけ。オーケー?」

「……」


 ウィーディが信じられないというように目を見開き、俺をガン見する。KAWAIIが爆発しそうだ。

 そらそんな反応になるわな。というか、異世界とかの概念の意味が理解できるのかね? ま、いいか。嘘は言ってないし。


「……よくわかんない」

「だろうな。まぁ、一度死んだ人間が、神に無理やり生き返らせられたって思っておけばいいさ」

「……とりあえずユニ。神様の奇跡をそんな言い方しちゃダメだよ」

「俺はいいんだよ」


 だって俺、被害者だよ? いくら加害者が偉くても、そいつを崇拝も尊敬もできやしねーよ。なんなら天誅対象だし。俺の名を笑った罪は重いのさ。

 ウィーディはこれ以上ないくらい目を見開いた後、ふっと笑顔になった。


「でも、ユニなら信じる」

「証拠も何もないけど?」

「証拠はなくても、ユニは実際に救ってくれたから」

「は?」

「ユニはわたしにとっての神様ってこと」

「……なんかアレと同列とか嫌だな」

「ひどい……」

「いや、これは言葉の綾っていうかだな……。これは、そう! 神だと一緒にいられないじゃん? 俺はもっと身近な存在でありたいわけよ!」


 届け、俺の想い! 俺は人違いで人殺しした挙句、反省の態度もないあの神とかいうクソハゲジジイと同類とか絶対になりたくないんだ! うおおおお!

 俺の想いが通じたのか、ウィーディは悲しそうな顔から笑顔に戻った。大輪の笑顔は、これまで見たどの笑顔よりも輝いて見えた。

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