第25話 ギルマスからのお呼び出しだって
「いや~、美味しかった~」
「何となく料理とスパイスの相性が掴めてきたよ」
「本当かい? マリー」
「楽しみにしておいてね、メリク」
「もちろん」
目の前でイチャイチャしてんじゃねーよ。折角の食後の空気がマズくなる。そう思わないか? ウィーディ。……ダメだ、何も考えていない顔だ。二対一は分が悪い。撤退する。
盛り上がっている二人を放置して、俺はウィーディを連れて外に出る。外はとっくに太陽が出ており、朝の喧騒は一通りの落ち着きを取り戻していた。
「どこ行くの?」
「ギルドだな。魔物を解体してもらう」
装備を作ろうにも素材になってないのだ。どれくらい時間がかかるかわからないし、最初にやるべきことだろう。どれくらいで素材が貰えるのかわからないから、その後の予定は不明だ。できれば一部だけでも換金してほしい。
正直、面倒くさいな、と思う。だって絶対になんかなりそうじゃん。つい先日、冒険者になった新人が数日顔を出さないと思ったら、あんな大物を含めた大量の魔物を持ってくるんだぜ? 噂にならない方がおかしいってもんよ。
その俺の予想は見事的中する。
「な、なんじゃこりゃー!?」
「魔物です」
「そういうことじゃねぇんだよ!」
ならどういう事だってばよ。俺が地面から魔物の死体を取り出したことか? それとも魔物の数の多さか? もしくは、明らかにヤバそうな恐竜二匹のことか? わかんねぇよ。
にわかに騒がしくなる倉庫内。騒ぎを聞きつけたやつらがわらわらとやって来た。そんな中、俺たちは依頼書のおっさんにギルドの二階に連行された。一番奥の部屋に連れて行かれた俺たちは、そこにいた人物と邂逅することとなる。
「うぬらがこの騒ぎの原因か?」
「不本意ながらそうでしょう。ギルドマスターさん?」
「ほう? よくわかったな」
「ただの勘ですよ」
「フハハ、面白い小童だ」
とりあえず第一印象は悪くない、ハズ。さて、どうこの場を切り抜けようか。話は分かりそうな人だし、できる限り嘘を言わなければ問題ないと思う。
俺は机を挟んだ向こうにいる男性を観察する。豪華な椅子にはちきれんばかりの筋肉を狭そうに押し込む屈強なマッチョ。しかも、このマッチョ、光っているのだ。ウィーディほどではないにしろ、明確に光っている。そんな人物ならギルドマスターに違いないと思った俺の考えは当たっていた。
「聞くところによると、バーニングバトルレックスとサンダートライセルを持ってきたようだな」
へー、あの二匹、そんな名前なんだ。特徴を聞くだけで言い当てられるくらいなら、それなりに名のある魔物なのかもしれないな。
「あの二匹、どちらも冒険者ランク三十以上が挑む難敵だ。だが、うぬらは違うのであろう?」
フッ、冒険者ランク三十か……。うん、よくわからん。とりあえず言い方的にかなりの強敵っぽいな。適当に話合わせよっと。
「ええ、先日冒険者になったばかりです」
「それは俺が保証します。こいつらはほんの数日前に見るようになった新顔です」
「ふむ……。あれを倒したのはそっちの小娘か」
依頼書のおっさんがギョッとした顔でウィーディを見る。ウィーディも言い当てられたことに動揺を隠せず、目を見開いていた。それを見てギルマスはニカッと笑い、動じない俺を見て笑みを深める。
「一切、動じることはない、か。小童、随分と肝が据わっているな」
「ギルドマスターほどの実力者なら、ウィーディの強さを見抜くことくらい余裕でしょう」
「フッ、慧眼だ」
よし! PERFECT COMMUNICATION! さっすが俺だぜ。ならば、そろそろギアを上げて行くとしよう。俺は建前だけの会話って面倒で嫌いなんだ。いざとなったらウィーディがいるし、強気でガンガンいこう。
「そろそろ本題に移りませんか? 世間話をしたくて呼んだのではないのでしょう?」
「フッ、話が早いのはいいことだ」
よし! PERFECT COMMUNICATION! さっすが俺だぜ。ムキムキマッチョの好感度を上げても嬉しくはないけどな!
「あの二匹の素材を譲って欲しい」
「……全て、ですか?」
は? それは無理。だって俺たちの装備を作らないといけないもの。ちょっと考えられないかな。話がそれだけなら帰るとしよう。
俺から拒否の雰囲気を感じ取ったのか、ギルマスは追加で口を開いた。
「……できる限りだ」
「それは無しでも構わない、と受け取りますが」
「譲れないということか?」
「正確なことは言えない、というだけです。我々の装備を新調するのに使おうと思っているので、どれだけ余るかわからないのです」
「そういうことか」
しっかりと内容を伝えないとこういうことになるよねー。変に内容を端折るのはやめた方がいいよ。報連相はしっかりしないとね。何度怒り、怒られたことか。いやー、思い出したくもない。
「それならこちらで鍛冶屋を紹介しよう」
「それなら……」
「新米が使うような鍛冶屋では扱いきれる素材ではないぞ」
あー、そうなのか。それなら仕方ない。お任せするとしよう。
「それではお任せします。譲った素材の代金はもちろん貰えるのですよね?」
「当然だ」
「なら、そこから装備製作の代金を引いてください。装備の詳細は鍛冶屋の確保ができたら連絡を。なるはやでお願いします。残りの魔物は食用の肉以外と希少部位以外は売ります」
その他、買い取りできるものはすぐに買い取って欲しいことなど、こちらの要望を伝える。
しばしの沈黙。そして、ギルマスが椅子から立ち上がり、手を差し出す。俺も一歩前に進み出てその手を握る。
「交渉成立、だな」
「交渉成立、ですね」
それで終わろうと思ったが、ギルマスは俺の手を離してくれなかった。
「どうだ小童。このワシの右腕にならんか?」
「嫌です」
その誘いをすげなく断りギルマスの手を振り払った俺は、そのままウィーディと共に部屋を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます