第24話 日常カムバック
「……ゎぁぁ~……」
俺はか細い声を出しながら大きな欠伸をする。人生で一番よく寝たかもしれない。そんな感じがした。
いつもなら寝起きのまどろみを楽しみつつ二度寝を敢行するのが休日のルーティンなのだが、今日に限ってはその必要がないくらいスッキリとしている気がする。証拠に、いつもよりも意識がはっきりするのが早い。
「んー……、動けない……?」
What? 金縛り? そう言えば身体がとても重い。あのレベリングは俺にとっても厳しい修行であったか。納得……するわけねーだろ! 重いの種類が違うんだYO! 物理的に重いんだYO! 暖かいし、耳元が定期的にくすぐったくなるし、小さな呼吸音がよく聞こえるんだYO! ここまでわかれば俺でも見当くらいつくわ!
俺はゆっくりと目を開ける。視界は水色だ。それがすぐにウィーディの髪だと気がつく。
「……いい匂い」
ふんわりと甘い匂いがする。これがウィーディの……。いやいや待て待て。俺は何を考えている!? いくら相手が俺に心を許してそうなウィーディであっても、いや、だからこそダメだろ! 考えるな、感じ……てもダメだ。焦るんじゃない。こういう時は素数を数えろ。心は凪。小さな波紋すら浮かばぬ明鏡止水の境地……! 鏡のような水面……ウィーディって水の精霊だったっけ。っておい! 俺! 何も考えるな!
俺は心の中で激戦を繰り広げ、その末に優しくウィーディに声を掛ける。
「おーい、ウィーディ。起きろー?」
「……ん……」
そんな声出すんじゃないよ。俺の理性を攻撃しないでくれ。ただでさえ朝の生理現象でだいぶ限界なんだ。というか、完全に起きる気配ないな。頑張ってどかそう。地球時代の俺なら無理だが、今の身体ならできるハズ。おし、せーの。
「ん……」
「ちょっと!? 力入れないでっ!?」
俺がウィーディをどかそうと力を籠める。何とか俺の身体の上から横にずらし、起こさないようにそーっとベッドサイドから出ようとしたその時、背後から思わぬ反撃を受けた。
「ん……」
「うぐ……」
ちょっとタンマ。腕が、首に……。絞ま……らない? でも逃げ出せない。脚も絡めてきた。背中にとてもやわらかい何かが当たる。素晴らしい……。じゃない! 誰か、助けて!
幸か不幸か、俺の助けを呼ぶ声は誰にも届かず、その状態で小一時間ほど拘束され続けたのだった。
―
「何でユニがいるの……?」
「お前が俺のベッドで寝たんだよ!」
「何でユニが一緒に寝てるの……?」
「お前が俺を拘束したんだよ!」
深い眠りから覚めたウィーディは、眠そうに目をこすりながら俺に質問をする。どうやら宿屋に入ってからくらいから記憶がないらしい。おかげでウィーディとの仲が悪化するような事態は回避できた。
「はぁ……、とりあえず着替えろ」
「鎧、ないよ?」
「私服でいい。どうせ冒険に行かないし。ギルドとかには寄るけど」
「わかった」
そう言って立ち上がったウィーディは、そのまま動かなくなる。そして、自分の下腹部を擦りながら俺の方に振り返った。その仕草に俺のがビンビンに反応した。
「お腹空いた……」
「そんな事だろうと思ったよ」
いかがわしいことを考えた人、正直に手を上げなさい。一体ナニを考えたんだ。言ってみろ。先生怒らないから。うん、うん。お巡りさん、コイツらです。
俺は連行される人々の背中を幻視しながら、立ち上がる。空腹で動かないウィーディを動かす魔法の言葉だ。
「キッチン借りるか」
「すぐ着替える」
―
テーブルの上に様々な料理が並ぶ。俺がキッチンを使いたいと申し出ると、宿屋夫婦が笑顔で手伝ってくれた。貪欲に学ぶその姿勢、嫌いじゃないぜ。何故か種類が増えていたスパイスを確認し、出来る範囲で様々な料理を作り出したのだ。
「あー、美味い」
落ち着いてご飯を食べられる喜び。これは戦場を生き延びた者しか味わえない喜びだろう。足りない材料が多く、再現度はそこまで高くないが、慣れ親しんだそれっぽい味に自然と頬が緩む。
「「「……」」」
俺たち四人以外には誰もいない食堂はとても静かだ。しかし、そこには鬼気迫る形相をした三人がいた。戦場にいるかのような険しい顔で、ひたすらに料理を頬張る姿はちっとも癒されない。
既に木皿の一つが空になっている。唐揚げモドキの皿だ。俺は手を付けていない。戦場は残酷なのだ。
「……なくなる前に食べよっと」
そこからは木皿に盛られた料理が全てなくなるまで、黙々と食べる四人組がいたという。
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