第23話 結果オーライ

 今、目の前で起こったことを説明するぜ……。なんか自信満々になったウィーディが恐竜二匹を一方的に倒した。拳で。いや、俺も自分で何言ってるかわかんねぇ。でも、俺は見たんだ。本当だよ。信じてくれ。

 眼前の光景に考えが追い付かない俺は、何とか言葉を絞り出した。


「強くなったな」

「ユニのおかげ」


 いやいやいやいや、マジで意味がわからん。確かにちょっとだけ時間稼ぎはした。だが、それ以上のことはしてない。俺が諦めないことを教えたって言ってたが、そんなことはした記憶がない。まさか、俺の記憶が改竄されている……!? 待て、落ち着くんだ、俺。こういう時は頭にアルミホイル、手には思考盗聴防止リングを持つんだ……! なんて馬鹿なこと考えてる場合じゃねぇ! なんて返そう?


「……そういうことにしておいてやる」


 いやね? ウィーディがそう思うならそういうことにしておこうと思う。俺に損はないし。ウィーディはなんか不満そうだが、俺は知らん。

 俺は早々にウィーディの言葉について考える事を放棄し、目の前の素材の山に目を向けた。なんなら、至る所に魔物の死体が散らばっている。それらを回収しなければならないと思うとテンションが下がるというものだ。


「解体する?」

「いや、この量を二人でやるのは面倒だ。ギルドに丸投げしよう」

「ん、集めてくる」

「そうだな……いや、待て。一つアイデアが浮かんできた。」

「うん?」


 この強行軍の最中、増える一方の素材を捨てることができなかった貧乏性の俺氏。脳内事典とにらめっこしながら収納魔法を覚えたのだが、これは一々手で取り出したりしなければならない。当然すぎて気にしていなかったが、これでは全ての魔物を収納する前に日が暮れてしまう。


「ならば、魔法を組み合わせればいいのでは?」


 そう、水魔法と地魔法を組み合わせて泥沼を作ったように、収納魔法を組み合わせてしまえばいい。広範囲を自在に、素早く、素材に影響を与えないもので。そうなれば……。


「古今東西、こういう時は影を使うと相場が決まっている……!」

「そうなの?」

「……そうさ!」


 影を自在に操るとか、なんか強そうで格好よくない? それに俺が成れると思い、思わずテンションが上がった俺。ウィーディの純粋な疑問の前にヤケクソになる。めっちゃ恥ずかしい。地面に手を付けて魔法を発動するような仕草をして、俺はしゃがんでウィーディから顔を逸らす。今の俺の顔は羞恥で染まっているに違いない。


「……! ユニの影が、動いた!」


 俺は黒魔法を使い、影を広範囲に広げる。俺を中心に地面が少し暗くなり、魔物の死体が徐々に沈み込んでいく。

 意外と制御が難しいな、コレ。魔法の制御を練習してなかったらこんな広範囲をカバーできなかった。やっぱり練習って大事だわ。というわけで、しまっちゃおうねー。


「おおー」


 ん? ウィーディの反応が違うな。俺が魔法を使うと羨ましそうにしていたけど、それがない。本当に変わったんだな。いいことだ。

 ウィーディが感嘆の声をあげている間に、魔物は全て収納し終わった。

 俺は羞恥心が薄れてきた頃合いを見計らい、ゆっくりと立ち上がる。


「そんじゃ、帰るか」

「ん!」

「え、ちょ、ま……」


 帰り道はとてもスムーズだった。ウィーディが俺を担いで全力で走り、日没前にはマルティスの街まで到着したと言っておこう。どこだそこ、知らねーって? マルティスっていうのはあの最初の街じゃん。何で知らないの? 初めて知った? そうだっけ? でも、もう知ったよね? 解決じゃん。

 今回のレベリングで得たものはとても大きい。最後の二匹は想定外だったが、災い転じて福となった感じだ。俺もいろいろ学べたし、全体的にレベルアップできたと言えるだろう。


「だ、大丈夫かい!?」

「いえ……大丈夫です……」

「それはどっちだい!?」

「お、お構いなく……」


 門兵が心配したのはボロボロになった装備のウィーディか、それともその肩の上でグロッキーになっている俺か。正直どうでもいい。俺たちは心配そうに声を掛けてくる門兵を軽くあしらって街に入る。もちろん向かうは宿屋だ。


「「眠い」」


 俺たちの思いは一つだ。死線から解き放たれ、緊張が緩んだら一気に眠気が襲ってきた。今なら地べたの上でも余裕で寝られるが、安心して眠りたい一心で宿屋に向かう。


「あ、おかえりって、大丈夫!?」

「すいませんが、眠らせてください……」

「そ、そう。話は後で聞くよ」


 俺たちの惨状を見て心配してくれた女将には悪いと思ったが、たぶん二人揃って相当目つきが悪いと思う。だって眠いもの。俺たちの事情を深く探ろうともせず、女将はそっとしておいてくれた。


「むぎゃ」


 おい、ウィーディ。俺をベッドに投げるな。このせんべい布団じゃ衝撃を吸収してくれねーんだぞっておい!


「むぐっ……」


 ウィーディが倒れこんできた。俺に覆いかぶさるような形だ。電池が切れた子犬の様に突然で、ピクリとも動かない。かく言う俺もウィーディを持ち上げて運ぶ元気は残っていない。それでも最後の力を振り絞って魔法を発動した。

 ウィーディの壊れた装備を収納し、洗浄魔法で身体を綺麗にする。これでベッドや布団が汚れたり、傷ついたりすることはないだろう。あ、やば。


「おやすみー……」


 俺の人生の中でこの時が一番入眠が早かった。

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