第19話 チュートリアルが終わったら?

「ユニ、大丈夫?」

「だいじょばない……」


 あー、きつかった。何がキツかったって、あの旦那さんだよ。あんな人畜無害そうな顔してとんだ食道楽だった。あまりに押しが強くて塩のことを話しちゃったくらいだ。宗教勧誘とか向いてるよ、きっと。

 例の旦那さんに塩をおすそ分けし、ついでに料理のことについて話した。旦那さんは感激して泣き出すし、女将は張り切って料理をしだすしで、とても疲れてしまった。


「宿代と塩のこととか秘密にしてくれるのが救いか……」

「本当にその約束守ってくれる?」


 おや? ウィーディにしては用心深いことを言うな。……裏切られたトラウマか。人間不信になってもおかしくはないしな。ついでに俺にも用心深くなってもいいのよ?


「あれは大丈夫だ」

「何で?」

「あの二人は誰かれ構わず話すタマじゃねーよ。どっちかって言うと独占したい部類だし、義理堅い面もある。あと、俺は俺の見る目を信じているから」

「……ユニが言うなら、信じる」

「少しは自分を信じなさい」

「……がんばる」


 おいおい、あれだけの強さを持っておきながら、その自信の無さは何だい? 嫌味かい? 俺なら自信満々になるけどなー。物理的な理不尽なら大概粉砕できそうだし。

 俺はこの自信なさげなウィーディを変えようと思う。一番手っ取り早く、俺にも実利がある方法で。


「ウィーディ」

「なに?」

「明日からの予定だが、厳しくなってもいいなら、少しは自信が持てるようにしてやれる」

「……本当?」

「ああ。だが、失敗すれば死ぬ。それくらい厳しい」

「やる」

「よく考……え?」

「やる」


 決断はっや。俺とは大違いだ。俺は馬鹿みたいにグジグジ悩んで安パイとるタイプだし。唯一はっちゃけられるのは天誅の時だけだ。

 ウィーディの即決に僅かなジェラシーを抱きつつ、俺は明日からの予定をウィーディに伝えた。ウィーディの強さをもってすれば大丈夫だろう。俺はそう高を括っていた。





 翌日、俺達は朝っぱらから森に向かった。持ち物は食料が多くを占めているが、移動に邪魔にならない程度だ。


「古今東西、強くなるには実戦が一番と決まっている。何故なら、命を賭けるからだ。どんなに斜に構えた曲者も、死を前にして必死で足掻かずにはいられない。命ってのは自分で考えているよりも大事なものなんだ」


 これは俺の台詞。死を目の前にすると人間って何でもできるっていうのはあながち間違いじゃねーんだなって、俺は身をもって知った。それを、天才にさせる。


「俺という足手まといを守りながら、ひたすら敵と戦い続けろ。戦利品の回収も忘れるな。昼夜問わず魔物は襲ってくる。こっちの予定なんて考えてくれやしない。寝てようが、疲れてようが、飯食ってようがお構いなしだ。そんな中を生き残ることができたなら、ウィーディも自信がつくさ」


 俺はゲームとかでも万全の準備を整えて戦うタイプだ。自分の非才さを認め、相手を最大限高く評価し、何があっても覆らない盤面を作りあげる。人によってはつまらないと評するやり方だろうが、そんなものは知らない。まして、今は自分の命が懸かっている。ならば、レベリングは極限までやるべきだ。


「魔物をただ倒すだけ?」

「簡単に聞こえるか? やってみたらわかるさ」


 ウィーディは納得しきれない顔をしていたが、それ以上の追及はなかった。現に、今もゴブリンを倒し、魔石を俺に寄越してくる姿は余裕綽々といった具合である。


「もっと森の奥に行くぞ」

「ん」


 俺は脳内事典を頼りに、人里からどんどんと離れていく。それが意味することは、人間の生活領域から外れていくということだ。森の様相が様変わりし、手付かずの樹海といった雰囲気に包まれる。そして、そこに住む魔物はゴブリンとは比較にならない強さを持っていた。


「はっ!」


 ウィーディが放つ槍の一撃はゴブリンの心臓を容易く貫く威力を秘めている。しかし、相手が悪かった。アルマジロのような魔物は硬い外皮によって守られており、安物の槍はぽっきりと折れてしまったのだ。


「それなら……!」


 ウィーディは即座に手持ちの武器で有効なのは刀だけだと判断し、その刃を引き抜く。そして、寸分の狂いなく関節を切り裂いて勝利した。


「ユニ、槍が折れちゃった」

「そうだな」

「どうしよう」

「金属製の穂先だけ回収しておくか」

「……帰らないの?」

「帰らないよ。それこそ全部の武器が無くなっても帰らない。ウィーディに自信がつくまで帰らない」

「え……?」


 「え……?」じゃないYO。極限の状況を作り出して、そこから戦い抜く予定なんだから。死地から俺を守りつつ生きて帰ったら、自信くらいつくよ。たぶんね。


「ほら、わかったらさっさと進む」

「待って!? ユニが死んじゃう!」


 俺かよ。ナチュラルに自分の方が強い発言いただきました! 意外と傲慢なところあるじゃん。いいねー。それを常に誰に対しても思えるようになったら完璧だ。


「ウィーディが守ってくれるんだろ?」

「いや……そうだけど……」


 なら問題ないじゃん。いざ、未開の地目指してレッツゴー。うおーーーー!

 こうしてウィーディ強化計画が始動した。

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