第18話 初めての報酬

 街には何の問題もなく戻って来られた。門兵にギルドカードを見ると快く通してくれた。その際に担いだウサギ肉を一瞥してから「運がよかったな」と言われた。また、ウサギ肉をぶら下げた俺たちを見ても、街の人たちはほとんど注目することなく通り過ぎていく。冒険者が肉を運ぶ光景は日常なのだろう。


「お肉♪ お肉♪」

「喜んでいるとこ悪いが、ほとんど売っちまうぞ」

「ええっ!?」

「全部は食べきれないし、相場も知りたい。あと、純粋に金が欲しい」

「えー……」


 よっぽど昼間のご飯が衝撃的だったのだろう。あからさまに不満そうな顔をしているウィーディをなだめつつ、俺はギルドの隣の倉庫に向かう。買い取りなどはこっちで行うのだ。ムキムキマッチョの男どもが魔物らしきものを捌く中、俺はカウンターにいるマッチョに話しかける


「すいません」

「なんだ?」

「買い取りお願いします」

「あいよ」


 ウサギ肉は一羽以外全部買い取ってもらった。ゴブリンの角と魔石もだ。あの巨大なウサギは角ウサギと言い、これまた角が討伐部位とのことだ。

 見たまんまだね。


「これ、お前が捌いたのか?」

「はい」

「初めてか?」

「まぁ、そんな感じですね」

「いいセンスだ。うちで働かねぇか?」


 おっと? また勧誘されちまったなー。いやー、引っ張りだこだぜ。困っちゃうなー。解体技術はギルドで働くならずっと活かせそうだし、待遇次第では候補になる。だが! 一つ残念ポイントがあるんだ。そう、ここにはマッチョしか生息していない。目の保養になる美女がいないのはいただけない! 俺の琴線に触れる条件は厳しいのだよ!


「ご縁があれば」

「はっはっは! まだ外に出てやんちゃしたい盛りか」

「そうですね」

「冒険者で食っていけないと感じたら、すぐに雇ってやる。ほらよ。これを受付嬢に渡せ」

「ありがとうございます」


 おいおい、この世界のおっさんは善人かよ。ジジイはクソだったが、捨てたもんじゃねーな。

 俺はそれぞれの買取金額が書かれた紙を確認してからギルドに向かう。受付嬢にその紙を渡すと、すぐにお金を持ってきてくれた。


「銀貨二枚と銅貨八枚です。初めてこれだけ稼げるなんて幸先がいいですね!」

「ウィーディが頑張ってくれましたから」

「そうなの! すごいわね!」


 ウィーディ、そういう時は笑えばいいんだぞ。その身長じゃ俺の後ろには隠れられねーから諦めろ。

 はにかみながら俺の後ろに隠れようとするウィーディを見て、受付嬢の顔から笑顔が零れる。お金も受け取ったので、これ以上この場にいる意味はないためギルドを後にした。


「お肉」

「わかったから。宿で厨房使わせてもらえないか交渉しないと」

「ん!」


 ウサギ肉を貰って来たはいいが、その辺りを考えていなかった。最悪、氷漬けにして保存しよう。味が落ちるが仕方がない。

 宿に戻り、宿屋の女将に厨房の使用について聞くと、作った料理と引き換えに快く許可をくれた。調味料や野菜は厨房の物を使っていいという大盤振る舞いだ。


「昨日、あんたがあんまり食べてないのが見えてね。どんな料理を作るのか気になったのさ」

「それは……申し訳ありませんでした」

「いいって、いいって。これでもアタシは美味い飯を作ってる自身があるんだ。もっと美味い飯があるなら知るチャンスじゃないか」

「ユニのご飯は美味しい」

「やっぱりそうなんだね。期待しているよ!」


 ウィーディ! 勝手にハードルを上げるんじゃありません! 俺は極限までハードルを低くして楽して生きたい主義なんだから!

 重い期待を背負わされながら、俺は片付けもそこそこに厨房に立たされる。そのまま調理開始だ。今回作るのは野菜炒め。というか、油と香草と何種類かのスパイスくらいしか調味料がない時点で作れる料理はかなり限られる。


「手慣れた手つきだね」

「それほどでも」


 ざっくりと野菜を切り、ウサギ肉も食べやすい大きさに切った。フライパンに油を敷き、肉から炒める。香草で肉の獣臭さを消したところに野菜を投入。野菜は炒めすぎるとシャキシャキ感が無くなるので注意だ。油と絡め、最後に塩を振って完成だ。謎のスパイスの出番はない。


「お待ち!」

「美味しそう!」

「これは楽しみだ」


 がらんとした食堂で木皿いっぱいに盛られた野菜炒めを全員で食べる。

 うん、美味い。肉の臭みも無くて、旨味を吸った野菜がこれまた美味しい。胡椒があればもう一つ上の出来なんだが、ないものねだりはやめよう。今はこれで満足だ。あー、金がなかった学生時代を思い出すぜ。毎日こんなの食って生きてたなー。


「……」

「口に合いませんでしたか?」


 野菜炒めを一口食べた後、沈黙をしていた女将が気になり、俺は声を掛ける。日本の地域別ですら味の好みがあるのだ。世界を跨いだらその感覚が大きく乖離していてもおかしくはない。だが、そんな俺の心配を吹き飛ばすように、女将は笑い始めた。


「あっはっはっは! 美味しいねぇ、これ! 最後に入れたアレ以外は特段変わったものはないはずだけど、本当に同じ食材を使ったのかい? って言いたくなるよ! あ、ちょっと旦那を呼んでくるね。これは食べさせたい」


 あー、行っちゃった。反応的に気に入ってもらえたようで何よりだ。あー、戻って来た。何と言うか、如何にも普通っぽい旦那さんだ。


「えっと……初めまして」

「お世話になっております」

「いや、こちらこそお世話になってます」

「いやいや、泊めていただいているのはこちらですので」

「いやいやいや、こちらはお金を貰っているので」


 何だこの日本人的謙遜合戦は。異世界にまで来てこんな事するとは思ってなかった。そして、その旦那も女将と同じようなリアクションを取るのだった。

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