第11話 閑話 その頃神様は
「ふぅ、騒がしかったわい」
儂はやたらと脳内がうるさい若者を自身が管轄する世界の一つへ送り込み、ため息を吐いた。最近の若者は神への信仰心が極端になくなっているが、あの若者は特に顕著だった。
「信仰心の欠片も持ち合わせておらん。まったく、不届き者め」
しかし、儂が手違いを起こしてしまったのも事実。ここは寛容な心で若者の態度を許したのだ。本来ならばひれ伏して感謝を述べる場面である。
「まさか、この儂をハゲ呼ばわりとはな」
あれは驚いた。神の姿を一目見れば、多少の信仰心がその正体を感づかせるものだ。だが、儂がその正体を言うまで気がつく様子はないし、言っても信じようとしなかった。
まして、神を相手に暴言を吐くなど普通はあり得ない。不可能なのだ。信仰心がそれを許容しえない。しかし、あの若者は暴言を吐けた。これすなわち、あの若者には信仰心が存在しないという証左だ。
「だが、これだけしてやれば儂が本物の神だと理解し、泣きながら感謝するに違いない」
どれほどの不信仰者であっても、これだけの奇跡をその身に受けたら考えを変えるはずだ。これまで転生させた者は全員儂の信者となったのだから。
儂は悦に浸りつつ、姿が髭を蓄えた老人のままであることに気がついた。今の姿はあくまであの若者が想像する神の姿である。神は特定の姿を取らず、その者の心の中のイメージを基に再現しているだけに過ぎない。いつもなら勝手に姿は戻るのだが、あの若者の衝撃が凄すぎて忘れていたらしい。
「……なぜ、戻らぬ……?」
どれだけ集中しても、いつもの通りにならない。最初こそ余裕を持っていたが、次第に焦りが積もっていく。様々な方法を試したが、それでも老人の姿のままだった。
「何故じゃ……」
儂は頭を抱えた。そして、頭に違和感を覚えた。手に何かがくっつく感覚。しかも大量に。恐る恐るその手を見ると、真っ白な髪が大量に抜けていた。
「ぬぅおおぉぉーーー!?」
儂の長い神生において、初めて心から絶叫した。
急ぎ鏡を作り出し。自分の姿を確認すると、そこには頭頂部が綺麗に禿げた老人の姿が映っていた。
「嘘じゃぁぁあああぁぁあぁぁ!!!!????」
神は思い出した。あの若者を転移させる間際に言っていた言葉を。しかし、もうどうすることもできない。受け入れるしかないのだ。たとえ、どれだけ受け入れがたいことであっても。
「ユニヴァーーーーーース!!!!」
犯人の名前が虚しくこだました。
―
「へくちっ」
「ユニ、風邪?」
「たぶん違う」
なお、ユニはそんな神のことなど知る由もなかった。
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