第10話 準備万端からの

 魔剣かぁ。……魔剣? 魔剣!? マジかよ。刀身が折れても再生するってヤバくない? 研がなくても切れ味ゲージ最大を維持できるじゃん。折れやすいってのも刀の使い方が間違ってるだけだな。刀は切るものであって叩き潰すものではない。その扱いには確かな技量が必要だ。


「ちなみにこちらの短い方は何か特徴があったりするのですか?」

「いいや? そっちは誰も買ったことがなかったはずだ。ナイフにしちゃ長いし、メインの武器にしちゃ短い。中途半端すぎて誰からも見向きもされねぇ」

「そうですか。ならこれは渡るべくして私に渡ったのですね」

「あん?」

「いえ、ただの独り言です。お気になさらず。それでは私たちはこれで」

「ああ、明日忘れず取りに来いよ」

「はい」


 おっさんたちに見送られ、俺とウィーディは店の外に出た。掲示してある値段を見つつ、慰謝料で巻き上げた金額も考慮した結果、ウィーディの防具一式はちゃんとしたものになった。俺の装備は返してもらった初期装備だ。


「さてと、予定は狂いに狂ったが、計画を前倒しできた」

「うん。明日が楽しみ」

「明日からは本格的に冒険者だ。頼りにしてるぞ」

「任された」


 これまでの様子から、ウィーディは会話を苦手としているらしい。道理で俺が他人と会話していると大人しいわけだ。本格的に小型犬っぽい。というか、俺も他人と話すのなんて苦手である。


「ということで、当初の目的に戻るとしよう」

「……?」

「宿屋を見つけるぞ」

「おー」


 どうせ脳内マップに従っていくだけだろって? フフフ、この俺に死角なし。脳内事典を四苦八苦して値段と快適度、利便性などの比較表を作り上げたのだ! ま、この脳内事典にかかればこんなもんよ、HAHAHA! ……いや、あのクソハゲジジイは常識とか言ってたと思うんだけどなぁ。どう見ても一般人の常識じゃないよね? 神様視点っつーか、俯瞰的観測者視点の常識だよね? 俺にとってありがたいからいいけど。

 俺はその中から受付嬢から紹介された宿屋の一つを選ぶ。そこは周囲より価格が安い上にご飯が美味しいらしい。しかも、極めつけは個室オンリーなことだ。もう一度言う、個室オンリーなのだ。プライバシーは文化人たる俺には大切である。


「ユニ」

「なんだ?」

「本当に大丈夫?」

「大丈夫大丈夫」


 唯一の難点は、その宿屋の立地だろう。細い路地を縫うように進まなければならず、知らなければたどり着くことは難しいだろう。周辺は人通りがあまりなく、とても宿屋があるとは思えない。ウィーディの心配は当然だろう。

 えーっと? ここを曲がって、次の三差路も曲がる? ほーん。よゆーよゆー。新宿駅とかいう現代のダンジョンに比べたら一本道と変わんねー。


「はい、とうちゃーく」

「とうちゃーく?」


 ウィーディが疑問形だ。それもそのはず、ぱっと見だと宿屋には見えない。蔦に半分くらい侵食されていて、ドアの上にある看板は完全に隠れているのだ。

 なんだか俺も心配になってきた。実は営業終了してました。みたいな展開はやめてくれよ? ……よし、ドアは開くようだ。


「いらっしゃい。……おや? 知らない顔だね?」

「ええ、初めて訪れるものでして」

「そうかい。珍しいねぇ」


 宿屋の中は非常にこじんまりとしたものだった。入り口の目の前にはカウンターがあり、そこには如何にものんびりおっとりしたおばさんが陣取っていた。

 俺達はその女将に話しかけ、泊まりたい旨を伝える。


「それはいいけれど、今は一部屋しか空いていないのよ」

「あ……」


 あー、それはよくないな。いくらなんでも今日会った男と一緒の部屋とか、ウィーディにとってハードルが高い。仕方ない、諦めるか。空室の確認を怠った俺のミスだ。もっと言うと分かりにくくて中途半端な検索機能しかない神のミスだな。つまり、あのクソハゲジジイが悪い。

 反論もないのでそう判決が下ったところで、俺は外に出ようとする。が、それをウィーディが止めた。


「ユニとなら、いい」

「え!? ……あ、いや、それは……」


 えーーーっ!? いやいやいやいや、それはちょっと、ねぇ? 恥ずかしいじゃん。俺が。だって美少女と同じ部屋で寝るとかドキドキし過ぎて絶対寝不足になる自信がある。それにさぁ、男ならちょっと発散したくなる瞬間ってあるじゃん? それって一人じゃないとできないじゃん?


「だめ?」


 ぐぼぁ……。それは卑怯だってばよ。美少女にお願いされたら断れないじゃん。これで断ったら男じゃねぇ! 大丈夫だ、俺! 俺はやればできる! ヤッたらダメだけど、やればできる子なんだ!

 俺はクソほどしょうもないギャグをぶちかましながらウィーディのお願いを聞き入れることにした。


「その一部屋って二人で泊まることはできますか?」

「もちろんできるよ」

「では、そこに泊まりたいです」


 なにニヤニヤ笑ってやがるこの……女将がぁ! というか、看板すら侵食されてんのに何で部屋が空いてないんだよ! 道も分かりにくいし! おかしいだろ! あー、絶対にあのクソジジイは許さねぇ!

 俺はやり場のない怒りを自称神にぶつける。……理不尽? 知ったことか! 俺を勝手に殺したくせに! これからも八つ当たりしてやる!

 そんな風に俺の心が荒れる中、女将は宿の設備について説明してくれた。どうやら一階は食堂兼酒場として機能しているらしい。井戸は宿屋の裏庭にあり、そこも自由に使っていいとのこと。


「はい、これ鍵ね。無くしちゃ駄目よ?」

「わかりました」

「ん」


 こうして、俺達は宿屋の確保を完了した。

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