第12話 あべこべな才能

 当分はここの宿屋にお世話になると思うので、五泊分部屋をとっておく。追加で取りたくなったらチェックアウトまでに言えばいいらしい。

 俺とウィーディはしばらくの拠点となる部屋の中に入った。


「おー」

「ベッドは二つか。よかった……」


 俺は真っ先にベッドの数を確認し、ウィーディと同衾するような事態にはならないことに安堵する。もし同衾なんてしようものなら、俺は緊張で死んでしまうかもしれない。……アァ!? さっきから童貞煽りしやがって! 俺の名前でまともに恋愛経験が積めると思ってんのか! エェ!?

 俺は悲しき過去に蓋をし、今一度部屋を観察する。手前にはテーブルと椅子が二脚。その奥はベッドが二つ。丁度荷物を置けるスペースもある。何と言うか、ユニットバスがないビジホといった雰囲気だ。


「荷物はとりあえずそこにまとめて置いといてくれ」

「わかった」

「そしたら、明日の予定でも考えるか」

「ん!」


 武器がたくさん入っている革袋を無造作に床に置くウィーディ。それなりに重いはずだが、ウィーディに疲れた様子はない。それどころか、明日の予定が知りたくてうずうずしている雰囲気が伝わってくる。


「魔物、倒す!」

「それはそうだが、それ以外にもやることがある」

「ん?」

「ギルドに行かなきゃならないし、ウィーディの武器適正も知らなきゃいけない」


 クエストボードにある依頼は早い者勝ちだ。割のいい依頼は争奪戦になるので、依頼が張り出される時間には待機しておかなければならない。特に数が多く、実力もない低ランク冒険者は血眼になるのだ。

 そう、俺は是が非でもその光景をこの目に収めたい。餌に群がる鯉の如き愚かな群衆を! 俺は依頼を受けないのかって? だって明日は防具を受け取らないといけないし、あの魔剣? 魔刀? についても実験したいし、忙しいからいいや。そもそも常設依頼すら俺達は知らないから、そっちを主軸に置いてもいい。


「ということで、明日は基本を知ることが目的だ。無理なんて絶対にしない。オッケー?」

「おっけー」


 はい、明日の予定が決まりましたー。作戦会議おしまーい。明日、頑張ろー。

 そうして作戦会議が終わり、各自解散というところでウィーディから声が掛けられる。


「ユニ」

「何だ?」

「ユニは……どれだけ魔法が使えるの?」


 ふむ、実に曖昧な質問だな。だが、ウィーディの目は真剣そのもの。この感じ、たぶん魔法が使えないことに対するコンプレックスだ。「どうして精霊である自分が魔法が使えず、人間であるユニが魔法が使えるのか」。目の前であれだけ多彩な魔法を使われたら、聞かずにはいられないか。ならば、こっちも誠心誠意伝えようじゃないか。


「全部だ」

「え……?」

「全部。火、地、水、風、氷、雷、白、黒、聖、邪、無。ユニーク以外なら全部使える」


 そら驚くよ。俺だって驚いたもん。最初はみんな魔法が使えるもんだと思ってなけど、ウィーディと出会って、魔法が使える割合を知ったらねぇ。やり過ぎだ、あのクソジジイ。

 あからさまに肩を落として落ち込むウィーディ。だが、忘れていけない。俺に多彩な魔法の才能があるのなら、ウィーディは生粋の武術の才能があることを。


「ウィーディには武術の才能があるといったはずだ」

「でも……」

「一つ言っておくが、ウィーディの才能の方が遥かに優れている」

「そんなこと……」

「魔法には魔導、魔法、魔術の順に才能の差があるように、武術にもそれは存在する」


 そう脳内事典に載っていた。その話だと、やっぱり俺の才能は嫌がらせってことになるんだよね。認めたくないけど。そんなことはどうだっていい。まずはウィーディだ。


「天賦之才、鬼才、才。それらが武術の才能の差を示す言葉であり、ウィーディのは天賦之才だ」


 脳内事典によると、天賦之才は拳で鋼を砕き、武器を手に持てばそれを完璧に操るらしい。それがデフォルトで、鍛えれば鍛えるほど強くなるそうだ。うん、ヤバいね。


「ウィーディがしっかりと鍛えれば、俺の魔法なんて子どものお遊びくらいにかならないよ」

「……本当?」

「本当。今の強さに満足せず、貪欲に鍛え続ければ確実に最強になれる」

「わたしが……最強?」

「全てを拳一つで粉砕する。これなら故郷でウィーディを笑った奴らも、二度とウィーディを笑えなくなる」

「……わたし、強くなりたい。強くなる……!」

「その意気だ」


 拳一つで最強になったら格好いいだろうなぁ。いいなぁ。何で俺にはそういう才能くれなかったんだよ。つら。


「ユニには天賦之才ってないの?」


 純粋な質問キター! それを俺に聞いちゃう? ウィーディのそれに比べたらハチャメチャ格好悪いというか、歪んで捻じ曲がった末の拗らせた魔導とか、すごい劣等感感じちゃうんですけど。


「……嫌がらせ魔導」

「なにそれ?」

「……世の中の理不尽をぶっ飛ばす力さ」


 ヤメテッ! そんな純粋でキラキラした目で見ないでっ! 罪悪感が溢れ出ちゃうよぉ! 

 こうして俺はメンタルに多大なダメージを負いつつも、ウィーディの心を守った。誰か褒めて欲しい。切実に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る