第3話 初イベが早い

 目に映るは様々な人、人、人。地球のような肌の色なんて実に些細なレベルで違う。よくあるオーソドックスなケモ耳と尻尾は序の口で、トカゲのような尻尾を持っていたり、角が生えていたり、耳が尖っていたり、髭もじゃもじゃの小さなおっさんだったり、果ては人間型の動物みたいな人もいた。


「人種の坩堝だなこりゃ」


 俺のいるこの街は比較的差別が少なく、多くの人種がいるらしい。別の国では平然と差別があるので注意だ。ただ、物珍しいので通り過ぎる人に視線が行ってしまうのは仕方がない。だって興味深いんだもの。

 俺はゆっくりとした歩調で通りを歩く。屋台やらなんやら色々とあり、行き交う聞いたことのないはずの言葉が理解できる。これも転生特典だろう。現地の言葉をいきなり覚えるのはハードルが高いのでありがたい。


「まずは宿だな。で、次は冒険者ギルドっと」


 順番逆だろって? 何言ってんだべ、おめぇさんは? 最初は安住の地の確保が先に決まってんだろ。今日は冒険者組ギルド言っても登録するだけだから、最悪、明日でもいいし。コスパがいい宿ってのは大体人気だから、早くとらないとなくなっちまう。こういう時に脳内マップってマジ便利。あの知識ってわりかしチートじゃね? いや、礼は言わないけど。

 なんか頭に浮かんだ地図の通りに進む俺。絶対に普通ではないが、便利なので良しとする。脳内マップを見ながら一つ交差点を曲がり、更にもう一つ突き当りを曲がれば目的地というところで、俺は横の細い路地から小さな悲鳴が聞こえた気がした。


「……無視するか」


 は? 普通だったら見に行く場面だろって? 馬ッ鹿じゃねぇの? 俺がどれくらい強いと思う? 地球だったら喧嘩は負け確イベだぜ、やったことないけど。いくらmade in GODのこの身体だとしても、確認もせずに戦えるわけないじゃん。

 俺は戦えない理由を並べ、初イベ回避を試みる。よしんば戦闘にならずとも、異世界では穏便に過ごしたいのだ。伊達にキラキラネームで苦労はしていない。


「はぁ~、俺って馬鹿かも」


 はい、良心の呵責に負けました。今さっき自分が馬鹿扱いした行為をするブーメラン馬鹿です。笑ったやつにはブーメランを投げつけます。オラァ!

 俺は自分の馬鹿さ加減に呆れながら細い路地に足を踏み入れる。不安への恐怖と迫るイベントの興奮で情緒がバグりそうな中、俺はその光景を見てしまった。一人の女が壁を背にして四人の男に囲まれている。


「ようやく捕まえられたか」

「女一人の癖によくやったと褒めてやる」

「はぁ~、見てくれは最高なんだがなぁ。ヤラせてもらえないんすかね?」

「馬鹿! ボスが裏から仕入れた商品を傷つけたら殺されかねんぞ」


 ふーむ、やばい雰囲気。助けてあげたいが、クソ面倒になるのは確実だな。バレていない間にトンズラするか。しかし、何であの女は光ってんだ?

 物陰から覗く俺の視線の先で繰り広げられる光景の中から、光って見える女を凝視する。男たちの反応からも俺だけが光ってみえるようだ。そう思っていると、頭の中にその答えが見つかる。


「才能が光って見える魔眼、ねぇ……は?」


 七色の瞳は魔眼だったのか!? やべぇなおい。問題は何の才能かわからねぇところか。微妙に使えねぇ……。だが、これだけ明確に光って見えるなら、相当の才能があるのだろう。何人もの人とすれ違ったが、微弱に光る存在すらこれまで見かけなかったのだから。


「ん? 目が合った?」


 美人と目が合うなんてラッキー。キモいとか思われてないといいな。あ、今は美少年だったわ。見た目だけだけど。なら大丈夫か。いや、待て。何で野郎どももこっちに向くんだよ。大丈夫そうじゃないじゃん。ヤバ。

 俺が馬鹿のことを考えていた時間は完全に悪手だった。俺の存在に気がついた男どもがドスの聞いた声で叫んだのだ。


「オイッ! そこでこそこそ隠れているヤツ! 出て来い!」

「ひいっ! す、すいません! 俺は何も見ていません! 誰にも言いませんから見逃してください!」


 あっちゃ~、びっくりして物陰から出ちゃった上に反射的に謝ってしまった。社会人としての癖が抜けねぇ……。悲しきサラリーマンの性から逃れられぬ運命か。ってそんな場合じゃない。どうやって切り抜けようか。

 俺が必死に逃走方法を模索していると、男たちが何も言い返してこないことに気がついた。振り返って俺に向かって叫んだ男はあんぐりと口を開けている。


「……上物だ」

「あ、やっば」


 こいつら俺を女だと勘違いしてやがるな。俺自身も息子を確認するまで半信半疑だったんだ。それは仕方ない。だがな! 俺は息子すら新品未使用なんだぞ! それより先に下のお口の初めてを失いたくはない! というか、俺はノーマルだ! 女が好きだ!


「あっちはダメだが、こっちは問題ないよなぁ?」


 ほう? 俺を狙ってやがるのは確定か。ムカつくな。純粋無垢な俺に手出ししようとする悪い大人にはお仕置きが必要のようだな。できるかはわからんが!

 俺は憎き神の作った身体と才能を信じることにした。

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神に手違いで殺された上に異世界にほっぽり出されたんですけど!? 気晴 @Kibarashi

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