第4話

 私は魔法の訓練を始めてから、父上の協力のもと、新たな魔法を生み出すことに挑んでいた。しかし、一から全てを創り出すにはまだ力不足だったため、ゴーレム魔法の魔術式を土台にし、自分なりにアレンジを加えていくことにした。それから一年。触媒に費やした金額は考えたくもないが、ようやく新たな魔法が完成したのだ。


 この魔法は「水銀」を触媒として使っている。水銀に魔術式を刻み込み、その流動性を活かして防御と攻撃を自在に行うことができる。スライムのような見た目のこの水銀の魔法は、まるで意志があるかのように私のそばに寄り添い、私が歩けば静かに後ろをついてくる。そして、敵が襲いかかってきた瞬間、瞬時に私の前に飛び出し、鋼の壁のように私を守るのだ。


 防御だけではない。攻撃時には、この水銀を弾丸のように発射して敵を撃ち抜くことも、柔らかい鞭の形にして相手を切り裂くこともできる。全ては私の思念ひとつで、流動的に形を変えてくれるのだ。


初めての実戦


 完成した魔法を試す相手に選んだのは、剣術の師匠であるガイナス様だった。彼は厳格で、剣を握るとまるで獣のような鋭い眼差しをする方だ。私が幼い頃から剣術の基礎を叩き込んでくださり、今でも成長を見守ってくださる大切な師匠でもある。


 ある日の午後、意を決してガイナス様に話を切り出した。


「ガイナス先生、お願いします。この新しい魔法を試してみたいのですが、稽古にお付き合いいただけませんでしょうか?」


「ほう、坊ちゃんが作られた魔法とおっしゃいますか? それほどのものであるならば、ぜひ試させていただきたいものです」


 彼は微かに口元を上げ、挑戦を受けて立つ構えを見せた。鋭い眼光が私に向けられ、全身に緊張が走る。普段の訓練と違い、今日の稽古は一歩間違えれば危険だ。しかし、私の心には自信があった。


「では、参ります!」


 私は手を上げ、水銀を魔力で呼び出した。薄い青みを帯びた液体が空中に浮かび、スライムのような形をとって私のそばに寄り添う。ガイナス様の目が鋭く光った。


「なるほど……面白い魔法ですね。しかし、それで私に勝てるとお思いですか?」


 そう言いながら彼は剣を抜き、間合いを詰めてきた。瞬時に私は防御の指示を出し、水銀が鋼の壁のように変形してガイナス様の剣撃を防ぐ。金属がぶつかる音が響き、私はその重みに耐える。だが、ガイナス様は一瞬の隙を逃さず、鋭い突きを繰り出してきた。


「まだまだ甘いですね!」


 私は内心で焦りながらも、水銀を素早く移動させ、攻撃を受け流す。そして、反撃に出るべく水銀を弾丸のように射出した。ガイナス様はその動きに気付き、剣で弾き返したが、私はすかさず水銀を鞭のように伸ばし、横から攻撃を加える。


「ほう、なかなかやりますね!」


 彼は笑みを浮かべながらも、鋭い剣さばきで水銀の攻撃を受け流す。その反応速度と鋭さに圧倒されるが、私はさらに攻撃を重ね、集中力を切らさないように必死に応戦した。


 何度かの攻防が続き、ついに私はガイナス様の隙を突いて攻撃を決めることができた。水銀が鞭のように彼の脇腹を掠め、軽く当たったところで彼が手を上げた。


「……ここまでですね。坊ちゃんの魔法、実に見事です」


 ガイナス様は笑みを浮かべ、満足そうに私を見つめていた。息が上がり、体が震えていたが、その表情に私もほっと息をついた。


「ありがとうございます、ガイナス様。やはり、ガイナス様相手だと魔法の試しがいがありました」


「坊ちゃんの魔法はまだ荒削りですが、確かな可能性を感じます。この調子で磨きをかけてください」


 師匠の言葉に、私は喜びと自信を胸に新たな挑戦への意欲を燃やしたのだった。

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