第3話



 剣術を習い始めてから、一年が経った。私は師匠であるハインズさんと闘気だけを使って戦えるまでに成長していた。しかし、幼い身体にはまだ魔纏と闘気を同時に使うのは負荷が大きすぎる。今は、闘気のみで限界まで戦うのが精一杯だった。


 ある日、夕食の席で、父上が私に話しかけてきた。


「最近、剣術の調子はどうだ? ハインズから、お前には才能があると聞いたが」


「まあまあですよ、父上」


「そういえば、お前は魔纏ができるのだろう。どうせなら、魔法の訓練を始めるか」


「魔法を使っても良いのですか?」


 父上からの提案に、驚きを隠せなかった。魔法は貴重な力で、簡単に学べるものではないと思っていたからだ。


「お前は賢いし、魔纏ができるなら、魔法を暴走させる心配もないだろう」


「魔法は誰が教えてくれるんですか」


「魔法は私が教える。食事が終わったら庭に来なさい」


 食事を終えて庭に向かうと、父上が既に待っていた。月明かりが静かに庭を照らす中、父上の厳格な姿が一層際立って見える。


「では、最初はファイヤーボールだ。私が見せるから、真似してみなさい」


 父上がそう言うと、手のひらの前に炎の玉がふわりと浮かび上がった。私の目の前で揺れる小さな火の玉は、まるで生きているかのようだった。


「普段から魔纏をしているお前なら、できるはずだ」


「どうしてですか? 魔纏も魔法の一種なのですか?」


「そうだ。魔纏のように魔力を安定して使えるなら、初級や中級の魔法は扱える。魔纏はお前が無意識に魔法の基礎を使っていた証拠だ」


 私はその言葉に驚きつつも、自分が魔法を既に扱っていたことに気付き、少し自信が湧いてきた。


「やってみます」


 私は深呼吸をし、集中して魔力を手に集める。父上の姿を思い浮かべながら、手のひらに小さな火の玉が生まれるのを感じ取った。少しだけ揺れる火の玉を見つめ、内心歓喜した。


(やった…! 本当にできたんだ)


 私が喜びに震えていると、父上が微笑みながら言った。


「いいぞ。その感覚を覚えておけ。魔法の基礎は制御だ。これを身につければ、お前はもっと強くなる」


  魔法と剣術の訓練が日課となっている中で、最近はさらに新しい学びが増え始めた。ダンスに馬術、歴史、そして数学。驚くべきことに、どれもやってみると楽しく、学ぶことが面白く感じられる。


 馬術の練習が始まってからは、私専用の相馬も与えられた。まだ小さな体ではあるが、馬の上で風を切る感覚は爽快そのものだ。さらに、この世界独自の歴史もまた興味深く、学びの一つひとつが新鮮で心を躍らせる。


 とはいえ、少し疑問もある。正直、これが四歳児に求められる内容なのだろうか? 普通は、遊びや昼寝に時間を費やす年齢のはずだ。


 以前、父上が「帝王学を始めるか」と言っていたことを思い出す。帝王学とは、国を導く者としての学問だと聞いている。もしこれが本当に帝王学の一環なら、さらに多くの時間と体力を使うことになるのだろうか。そんなことを考えると、少しばかり気が重くなり、休みの時間がなくなるのではないかと不安が募る。


(まあ、父上の期待に応えられるのなら……今は、頑張るしかないのだろう)


 自分を励ますようにそう考え、次の学びに向かって気を引き締めるのだった。



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