第23話 嫌味な男と軽薄な男
神殿の仕事で冒険者ギルドに来ていたウルティアと再会を果たしたシキは、その足で孤児院にも足を運んだ。
他の幼馴染や高齢の院長先生も変わらず元気で、こちらも元気を分け与えてもらった気になったまではよかったのだが……。
「こんな子供がエンフィールド男爵家? の跡取りですか。本当にその樹海などと呼ばれている森で王女様を救ったのですか? 偶然居合わせただけでは?」
露骨に顔を顰めるのはレドーク王国の宰相マティアスだ。
白髪頭の老人で、金縁の
孤児院を尋ねてから五日後、登城が許可されたシキとエリンは王城へとやってきている。
王女イルミナージェと護衛のテレーズと合流し、エンフィールド家取り潰しの阻止、及びロナンドからシキへの領主継承を認めてもらうべく、宰相との面会に挑んだのであった。
「いいえ、間違いありません。既に書面で伝えた通り、シキ様の使役する精霊様が恐ろしい一本角の魔獣を一撃で倒したのです」
「護衛騎士のテレーズや暗殺者たちが手も足も出なかった魔獣を、このシキという子供がですか……」
「マティアス、私が嘘を言っているというのですか?」
「滅相もありません。ですが確認は必要です。シキが本当に魔獣を倒せるほど精霊使いとして優れているのか。エンフィールド男爵領に隣接する森は魔獣からの防衛が必要なのか。どちらか片方にでも嘘があれば処罰が必要です。国を謀った罪は重いですからな。悲しいことに辺境の僻地の木っ端貴族には多いのですよ、国に嘘をついて税収を少なく報告したり、隣国からの輸入品を関税を課さずに横流しして私腹を肥やすような輩が」
『ねちねちと嫌味ったらしい人ね~』
「エンフィールド家との盟約というのも、建国当時から変わっていないということに驚きました。他所では迷宮からの魔獣の氾濫等で被害が出ることもあるというのに、魔獣がエンフィールド領に侵入したという事例が一度もないというのが不自然だ。先代のロナンドとやらが爵位継承の手続きをする際に現地を視察しているようですが、しっかり調査したか怪しいものです。数十年前の当時の宰相を買収でもしたのか? エンフィールド領は僻地で税収も望めない場所ですから、王国として損はさほどありません。かといって放置するわけにはいかない。これは王国の沽券に関わりますので」
「それでは確認して、事実であればエンフィールド家の存続は認めて頂けるのですね」
「勿論です。シキの精霊使いとしての実力は魔術師同士の手合わせで確認しましょう。序列が二十位程度の中位宮廷魔術師を手配しますので、手合わせの日時は追ってお知らせします。現地の視察は手合わせが終わった後に改めて。もし実力が嘘なら視察するまでもないですからな」
『ああもう、このお爺さんむかつくわ~』
話が終わりイルミナージェたちが退室する。
すると入れ替わるように奥の扉から一人の人物が現れた。
金髪をオールバックにした軽薄そうな男で、着崩したシャツとズボンの上に豪華な刺繍付きのローブを羽織っている。
「話は聞いていたな。お前から見てあの小僧はどうだ?」
「隠し部屋から魔眼で確認しましたが、微々たる魔力しか感じませんでしたね。あれはただのガキですよ。精霊を使役できたとしても、そよ風を起こすのが精々だ。中位宮廷魔術師どころか新人でも余裕じゃないですかね」
「ふむ、はやり魔獣を倒したというのは騙りか」
「当事者なのに一言も発言を許されず、宰相殿に睨まれ、そのまま退室させられたにしては堂々としたガキでしたがね」
「態度だけ取り繕っている奴こそ展開的な詐欺師だ。世間知らずの姫はともかく儂は騙されん」
「それで誰を手配します?」
「ランディ、お前が相手をしろ。陛下の前で御前試合をする。適当に痛めつけた後に殺せ。他の木っ端貴族への見せしめと、嘘つきを擁立しようとした王女の責任問題にして追い込む」
「うわー宰相殿もえげつない。序列三位の俺様が相手ですか。子供をいたぶるのは趣味じゃないが、仕事なら仕方ないなあ。きっちり殺しますか」
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