第12話 フラグ建築
「というわけでスプリガン……精霊たちの要望は出来るだけ答えるようにしたから」
「う、うむ……」
翌朝、シキが死んだ目をして食堂にやってきた。
出迎えたロナンドの視線はシキの背後に釘付けになっている。
そこには背の高い美女がいて、シキを後ろから抱きしめていた。
服装はオルティエ同様に軍服だが、スカートの代わりにパンツとロングブーツを履いている。
翡翠色の髪をサイドアップにしていて、髪と同じ色の切れ長の瞳は瞳孔が縦に長い。
大人びた妖艶な雰囲気も相まって蛇を連想させた。
「ええと、この人は」
「〈SG-066 セラ・トゥー・クロス〉です。私のことはセラとお呼びください。オールドボス」
厳選なる抽選の結果、見事に昨晩の同衾を勝ち取った美女は、愛おしそうにシキの頭を撫でまわしながらそう名乗った。
「おお、貴女様も儂らの言葉をお使いになるのか。オールドボス?」
「使っていいよと許可したからね。俺がボスで、じいちゃんはその前だからオールドボスだってさ」
「んもう、セラ様、シキにくっ付きすぎです」
セラの過度なスキンシップにエリンは頬を膨らまし、オルティエも笑みを浮かべてはいるがどこかぎこちない。
『セラ、そろそろ防衛に戻りなさい』
『えーまだいいじゃない』
『フェリデアに持ち場を任せすぎると後が怖いわよ?』
『はあ、仕方ないわね。ボス、また今度ね』
セラは前かがみになると、シキの頬に蠱惑的な唇を寄せた。
「あっ、こらっ」
唇が触れる直前にシキが〈搭乗〉指示を出したため、セラの体は掻き消える。
今頃樹海に配置されているスプリガンのコックピットへ転送されていることだろう。
「……さて、今後のことについてじいちゃんと相談したいんだけど」
「う、うむ。改めてシキが正式な精霊使いになって出来る事が大幅に増えたからのう。エンフィールド男爵家の将来のためにも、決めごとは必要じゃの」
まず大前提として国防は継続。
そして国防に必要なスプリガンの強化、及び新規スプリガンの召喚はシキの判断で行なうこととした。
「シキの能力のことを王家に報告するの? お父様」
「うーむ、そこが悩みどころじゃ。レボーク王家との古くからの盟約により、エンフィールド男爵家は国防に専念する条件でその地位が約束されておる。そして三百年以上国防を任されているが、一度たりとも大型魔獣の被害を出したことはない。被害が無いのは良いのだが、ちと困ることもあってのう」
「困ること?」
「ちゃんと国防しているという証明が大変なんじゃよ」
「あー、なるほど?」
これまでのスプリガンたちはマスター権限を持つ者にしか見えなかった。
いくら盟約があるとはいえ、被害実績のない辺境の国防のために男爵位を与え続けることに王家が難色を示すのも頷ける。
「儂が先代から男爵家を引き継いだ時も王家と揉めたんじゃ。まあ精霊が見えないだけで国防自体はしっかりしていたからのう。樹海まで王家のお偉方に御足労頂いて、実際に魔獣が倒される所を見てもらい納得してもらったんじゃ。シキに正式に男爵家を譲るのは成人する三年後だから、その時までは報告せんでも良いじゃろう。エンフィールド領には王族どころか近隣貴族も寄り付かないから、それまではバレはしないわい」
そう言ってほっほっほとロナンドが笑った。
「今の発言が前フリにならなければいいけどね。それで今度はスプリガン側の意志だけど―――」
「私たちの意志はマスターのお役に立つこと、ただその一点だけです。これはスプリガンの総意となります。忠義を尽くすことを許して頂けるだけでなく、マスター自ら私共を慰めて頂けるなんて感無量で有難き幸せで勿体ないことですが是非お願いしたく―――」
「あっ、はい」
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