第9話 世界との整合性

『ようこそいらっしゃいました! ご主人様!』


『う、うん』


 溌溂とした少女の声で出迎えられたが、そこにあるのは巨大な金属の塊である。

 肉眼で見る〈SG-068 シアニス・エルプス〉はとても大きかった。

 シキは十メートル近いロボットを見上げる経験など生まれて初めてだったし、それは日本人の頃の記憶を含めても変わらない。


 空気中の分子で構成しているオルティエ以上に、確かな質量がそこには存在していた。

 鈍色に輝く装甲を纏い、直線的な造形が質実剛健を演出している。


 そして以前に画面越しで見た時と変わらず、右腕に突撃銃アサルトライフルを持ち、左腕には小型の追加装甲バックラーが取り付けてあった。

 ちょっとした手足の動作に巻き込まれるだけで、人などあっさり弾き飛ばされたり、摺り物されたり、押し潰されたりしそうだ。


 実際そうならないよう気を付けているのだろう。

 シキたちが近くにいる間シアニスは微動だにしていない。


「これが実際に魔獣と戦う精霊様なのね……」


 シキの隣ではエリンも呆然とシアニスを見上げている。

 オルティエ相手にはお転婆を発揮していたが、さすがに巨大ロボットと張り合うつもりはないようだ。


『普段はシアニスも非表示設定なんだよね?』


『はい! 332年ぶりに表示されています!』


『魔獣からも見えないのか?』


『少なくとも可視光線での認識は不可能です!』


『ということは赤外線や音波での探知は可能なのか』


 試しに再び非表示設定にすると、巨体消失に「わわっ」とエリンが驚いた。

 シアニスとは日本語で会話していたし、エリンからしたら急に消えたように見えただろう。


「見えないけどそこにいる、のね。魔術で姿を隠した時に漂う魔素マナも感じないわ……あら、ひんやりしてて気持ちいい」


 エリンは消えたシアニスを探すように手を突き出し、脚部装甲を手の平でぺたぺたと触る。

 ちなみにシキはスプリガンへのマスター権限を持つため、表示設定の影響を受けず常に見えていた。


「非表示設定がマスターに効かないってなんか変じゃない? 音量とかはちゃんと反映されるのに」


「常に私たちを見ていてくださって嬉しいです」


「……まあいいけど。非表示中は銃弾とかも見えないんだよね?」


「はい。銃弾や薬莢といった消費するオブジェクトは、使用後から一定時間で消失します。またスプリガンが止めを刺した魔獣も同様に一定時間で消失し、クレジットへと自動換金されます」


「母様、シアニスからも魔素は感じないよね?」


「ええ、まったくね。人種はもちろん、この世界に生きるすべてのものに魔素は宿るわ。特に実体を持たない精霊様なら、その力が強ければ強いほど多くの魔力を纏わせているはずなのに」


 やはりスプリガンという存在は、この世界の外のものなのだなとシキは再認識する。

 薬莢や魔獣が消えるところを実際に見て見たいなあ、と思ったところで丁度レーダーに反応があった。


『ご主人様。魔獣が出現したようです。対処しますので少し離れていてください!』

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