第7話 スキンと課金と年齢制限

「ねえシキ。いくら貴方と契約した精霊様だからといっても、同衾はよくないと思うの」


「うん、まあ、そうだね……」


 森へと向かう道すがら、エリンから説教をシキは受けている。

 オルティエは表示設定とは別に姿を消すのも現れるのも自由自在とのことなので、昨晩の就寝時は姿を消してもらった。

 ところが今朝シキが目覚めると何故かオルティエが隣で寝ていて、起こしに来たエリンに見つかってしまったのだ。


「なんで一緒に寝てたの?」


「すみません。マスターの寝顔を見ていたら、つい」


 シキの背後で浮かんでいるオルティエが、頬に両手を添えて赤くなっている。


「うー、私も貴方が十歳になってからは一緒に寝るのをやめたのにずるい……じゃなくて外聞が悪いわ」


「もう本音を隠す気ないよね。母様は」


 外聞もなにも、エンフィールド家の屋敷には住み込みの使用人は一人もいない。

 午後になると村からお手伝いさんが来るだけで、朝の醜態? は家族以外に見られることはないのだが。


 本当に形式だけの男爵家なのである。

 シキの義母であるエリンは二十歳とまだ若い。


 十二歳になる子の母としては若く、義母でなければありえない年齢なのだが、未婚の貴族の娘として見るならば残念ながら行き遅れている。

 未婚だというのに領主となるシキを養子に迎えたため、他の領地へ嫁ぐことは出来なくなってしまった。


 残された道は婿養子を取ることだが、エンフィールド男爵領は国内でも僻地中の僻地にあり、領地の規模も小さく税収もあってないようなもの。

 更には次期領主もシキと決まっているため、他の領地から来てわざわざ婿になる利点が全くない。


 つまりエリンの結婚は絶望的だった。

 何故ロナンドではなく自分の養子にしたのかとシキが聞くと、


「子供である貴方に母親がいなくては可哀想でしょ?」


 などとエリンからは殊勝な回答があったが、別の理由もあるとシキは睨んでいる。

 黙っていれば深窓の令嬢と言えるくらいの美人なのだが、義理の母は残念ながらお転婆だった。


 お転婆故に、かしこまった他領の貴族の妻なんかにはなりたくなかったのだ。

 だからわざとシキの養母になったのだろう。


 確かにロランドの妻エリザはエリンが子供の頃に病死しているので、シキがロランドの養子になれば母は不在になる。

 しかしエリンの息子になったらなったで今度は父親が不在になるし、結局似たようなものだ。


「それにシキが大きくなったら養子を解消して、二番目でいいからお嫁さんにしてもらうんだ。うふふ……」


 義母のインモラルな独り言が耳に入ってきたが、シキは聞こえなかったことにした。

 今朝の出来事で気になることがあったので、オルティエに話を振る。


「そういえばオルティエはパジャマ姿にもなれるんだね」


「はい。〈スキン変更〉によるものです。他には夏服仕様の軍服があります。課金して頂けば水着姿にもなれますよ」


「課金……」


「更に! マスターにはもう六年待って頂くことになりますが、十八歳以上という承認が取れればより親密にもなれますよ!」


「あ、はい。全年齢版でいいです」

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