鈍色の奥底で……


歪な形で色すらない大群の中、いつしか光が差した。



火で炙られ。――幾度も叩かれ。

水に浸され。――またも叩かれる。



その繰り返しのさなか感じたのは道具としての価値感だった。



歪で無色だった私に形と色が与えられた。

その形は自分の本当の姿だと直感した。

その色は自分を輝かせる物だと知っていた。


何度目かの覚醒の後、自分は選ばれた。


手から手へ明け渡され、そして出会った。



――オルネア。年端も行かぬ男の子。



あの戦場に於いて唯一の子供。

しかし求められたのは戦いのみだった。


私を握りこむ手は震えていて、まともな戦いなどひとつも熟せない。

それでいて怒鳴られるわけでも無く、毎度の死闘を生き延びていたことに周囲の者は感嘆の声を上げていた。



だが、振るわれる私にとっては不満しかない日々だった。



使い手を選べない不満。

それは道具として当たり前のこと。

ただ振われる事を良しとした。



――もっと出来る。



歪んだ切り口をいくつも残した折、そう思い始めた。


そんな私の想いに応えるように、担い手にも上達の予兆が現れる。

私に振われていた筈が担い手が振るう様になった。


覚束ない足取りは、先の死地を見越した様に軽く力強く跳ね、

両手で剣を引きずり必死に捌く様はいつしか、

片手で両手以上の速さと重さを顕すように成って……。



――嬉しかった。



道具として初めて抱いた感情だった。



そして今。



私は失意の底を破って尚も落ち続けている。

かつて大群の中に在り、光などひとつも無かったあの時の様に。



何故。


何故……。



――つるぎの果てに気圧されても、貴方はまだ戦えたのに。



私を手に取り、貴方はまだ戦えた。


どうして戦わなかった。


なぜ差し伸べられた手を払わずに受け取った。


私がどれだけ叫ぼうと。


私を構えようともしなかった。


これまでの全てが否定されてしまった。


私が抱いた感情も。


私の想いも。


全てが消え去ってしまった。



私は……。――またも大群の中に溶けている。


私を呼ぶ声が聴こえない。――それ程の奥底で。

私の声すら届かない。――それ程の失意で。



つるぎの形を残したまま、私が消えていく。



私は……私は役に立てたのだろうか。


どうか教えて欲しい。


貴方に振るわれていた私は輝いていただろうか。


刃の閃きに貴方の想いを乗せてあげられたのだろうか。


教えてくれ、オルネア。



暁に挑む悲痛な想いを――、私と貴方で分かち合えていたのだろうか。



聴きたい。

消えてしまう前にどうしても聴きたい。


貴方の声を。


初めて私を呼んでくれたあの日の様に……。



私を求めて叫んでくれた、貴方の声が聴きたい。

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