降臨
――轟音。
地の轟きと大気の震えが最高潮に達する。
魔方陣の放つ青い波光が、
招いた存在に呼応するように
光の影の中。
アルアだけが招かれた人物を見据え、その姿形を捉える。
――白金の長髪靡かせる男性。
白肌に纏う白の戦装束は、どの地でも見たことが無い意匠を施され……。
だが、激しい戦闘を経たと思われる程に裂け、砕かれ、
その有様は帰還したばかりの兵士の様相を呈していた。
縦に割れた金の瞳孔を依代である刀へと向け、
あろう事か刀身を直に握り込む。
しかし、滴るはずの鮮血は無く。
代わりと言わんばかりに剣気を迸らせる。
光を強めた魔方陣が役目を終えて霧散する。
明かりを無くし、視界を奪われた皆が動揺する中。
漆黒の闇に包まれ、静寂が支配する世界に。
声が響く。
「夜、か……」
静かで小さい呟きだったにも関わらず、
上空から響く声をこの場に居る全員が聞き取り……。
奥底に秘めたる激情の規模を感じて。
この場で一人だけ、オルネアだけが戦慄していた。
――――キンッ。
かつて――。
灰島でアルアの髪が切られたときのような。
軽く、軽く。
澄み渡るような音がして……。
――夜が断たれる。
割れゆくサンクレーネの月。
頭上で行われる世界の書き換えに。
灯るはずの無い月光に照らされながら、誰も彼もが呆然とするのみ。
月光が照らすアーヴァンの上空。
皆が見上げる其処に。
触れる事さえ叶わない刀を携えて。
――
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