断章:乾いた笑み
身の入らない仕事、味気のない生活、情緒の欠片もない街。
退屈さを隠そうともしない自分と、
それら全部を煮込んだ上澄みかのようなリトヴァーク王。
元傭兵で自分の上長だったこともあって、だらしない事は重々承知している。
それでも今は立派な王だ。
そんな王の命令だから、夜も明けきらない未明に寒空の下で整列なんかしてる。
鎧の隙間から差し込む寒さに頬を引きつらせ、
装備品を打ち鳴らして件の城塞都市へと出立する。
騎獣として調教された獣、パルダ。
乗り心地の良い背に揺られながら、緊張感だけが高まっていく。
偵察、哨戒、場合によっては討伐などという、現場へ丸投げな指揮系統。
行進中文句のひとつも漏らさなかったのは、
高まり続ける緊張感と、隊へと向けられた王の言葉にあった。
『先遣隊の役割は、後に続く者の礎を築くことにある。
現場に気圧されて自暴自棄になるなよ?
——ま、多分そうなるだろうけどな』
王としての威厳を保ったまま見せた懐かしい表情。
——果てのない戦場を前に、喜び勇んだ時の顔そのままだった。
七日後——。
城塞都市ランヴェルを襲った悲劇を前に、誰も彼もが口を噤んでいた。
生存者、などという言葉はどこにも無く。
魔物どころか獣一匹寄りつかない有様に言葉を失う。
何重にも魔法を掛けられ、堅牢な守りを誇った防壁——。
そこに刻まれた爪痕、焦げ付き、燃え尽きながら這ったであろう人の
亡骸無くとも認めざるを得ない、大きすぎる生物の痕跡——。
人など全く意に介さず、人界全てを燃やし尽くせるであろう炎の規模……。
……そして。
人の身で立ち向かうには余りにも大いなる存在に、たったの一人で勝利を収めた剣士の存在。
『——現場に気圧されて自暴自棄になるなよ?』
「隊長……。
あんたはどっちの意味で……それを俺たちに言ったんだよ」
きっと二つともだな……、と納得して。
やっとのことで乾き切った笑みを浮かべるのだった。
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