前戦都市ダンビート
――東の最前戦、前戦都市ダンビート。
これより先は魔の領域。
此処を最後に人域は途絶える。
極東の灰島へ向かう前の最後の補給場所だったのだが……。
「負傷者多数!次の襲撃までに回復させろ!!」
「医療品回して!」
「魔法使いは高台に急げ!!」
「矢がたりねーぞ!!」
「石でも投げてろ~」
「なんだぁ!?テメエ!!」
「やんのかオラッ!!」
補給のためとは云え気が進まなかった理由がコレだ。
人類の繁栄などと大層な使命を掲げているが、
従事する者達は例外なく金回りが良いから参加しているだけ。
使命感に駆られた者から現実と実力の乖離に心を病み脱落していく、過酷で屈強な場である。
「オイ!そこの!!子連れで来るたぁどういう了見だ!!」
十中八九、オルネアとアルアの事を指している。
「子供じゃないですぅ!ここにいる誰よりも年上なんですからね!」
長耳を見せつけるアルア。
「ほう、エルフの増援か!頼もしいな!
高台に上がって魔法使い連中に合流してくれ!
剣士のあんたは正門前で待機!
魔物共の襲撃は日が昇りきった頃だ!気ぃ引き締めてかかれよ!!」
「いや、オレ達は増援じゃ無い。ここには補給に来ただけだ」
「あぁん??ここに補給だと?
……おめぇまさか、
当然の反応である。
生活限域――、とはよくいったもので。
人が生きていられる境目という意味だ。
これより先は死地。
理と法則を超えて、理不尽な死が毎秒襲いかかる未開の地。
「はっはっはっは!!わざわざ死にに行くってか!?
んな奴に渡すもんはここにはねぇよ。
回れ右してさっさと……。
いや、待て……」
剣士とエルフの風体を見て逡巡する。
ここに至る実力――。
先へと渡る意思――。
ここはひとつ……役立ってもらおうかね。
「補給の件、俺の一存で渡してやってもいい」
「条件付き、か」
「そういうこった。
オレの名はケール。ダンビートで作戦指揮を執ってる元冒険者だ。
オレが言やぁ食料、消耗品になんでも用意できる」
「名はオルネア。こっちの小さいのがアルアだ」
「小さいは余計ですぅ~!」
ツルッと光り輝く頭が特徴的なケール。
そのケールが出した条件とは、ダンビートでの遊撃任務であった。
補給物資融通の為とは云え、戦闘に備える為の戦闘を熟すことにどこか納得できていない。
「まぁいいじゃないですか~。
ここに居る間は寝床も食堂も自由に使って良いそうですし」
「そりゃ実際に戦うのはオレだからお前はいいだろうが。
うまいこと乗せられたみたいでな……」
「乗り気じゃ無い
私たちに出来ることを精一杯やりましょ?」
「……」
前戦都市、強さのみが求められる場所。
オルネアにとっては馴染みの深い場でもあった。
炎の痕跡を追って。
道なき道を駆け、崖は飛び、谷は越えて。
境界線を時に浅く、時には深く突き進む。
その折に巡ったいくつかの前戦都市。
強さというのは楽に隠せる物では無い。
行き着く先々で協力を依頼されその都度応じてきた。
強さの責任を、自分なりに取ってきたつもりだった。
そうして垣間見た世界の循環に、芯の芯まで震えることになる。
残酷なまでに研ぎ澄まされた自然の摂理に、
振るう力の矛先を見失いかけた。
『思い上がるな。
貴様一人の力で全てのヒトを助けることなど出来ぬ。
お前に出来ることは。
目の前に居る手が届く範囲の者たちを救うことだけだ。
今この瞬間にも世界のどこかでヒトは死んでいる。
お前は、自らの預かり知らぬところで死んだヒトに対しても。
――救えなかったと、後悔してやるのか?』
未だに自分を導く古き声に、何度助けられたことか。
以前もそうだった。そして今回も……。
「栄養価の高い物を軽く食べておけ。
これから死ぬほど動くからな」
「わっかりました!!ズボボボボボボ!!」
「軽くだといっただろうが!!」
「んごっふ!!」
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