寝物語


――悔しい。だが聞いてしまう。


普段から垂れ流される世界の情報に耳と脳が疲労しているにも関わらず、

時偶話す内容が耳に心地よく、興味を惹かれる事があるのだ。



「オルネアさんは禁足地って知ってます?」



野営の焚き火も落ち着く深夜。

短い睡眠の前にが始まる。



「ああ、辺境村でやたら耳にする。

その地に入り込んだらあ~だのこ~だのってやつだろ?」



「ま、そんな感じです。……で?信じてます?」



「ただの言い伝えだろうよ。

昔その地で何かがあった、とか」



「じゃぁ信じてないんですね?」



そう言ってニヤリと笑うエルフ。


出た、この得意顔。

これが出るってことはまーた何かを披露したくてたまらないのだろう。


焚き火を挟んで向かい合う怪訝な顔の剣士と得意顔のエルフ。


無視を決め込んで寝ないのは、やはり興味を惹かれているからだろう。


知識は力――。

日々を生き抜くには必要不可欠で――。


それは、素直になれない剣士の少しばかりの言い訳だった。



「で?今夜の話の核はなんなんだ?」



「お~っとぉ?虜になっちゃいましたかぁ~?」



短剣を手に取って話を促す。



「今夜話すのはについてです」



「つまらなかったら即寝るからな」



それを聞いて慌てたアルアは、焚き火の横に魔力で円を描いた。



「これはです。

オルネアさん、そこの小石をこの円に投げ入れてみてください」



オルネアの目から見てもそれはただの線だ。

地面に棒切れで線を描いたのと何も変わらない。


言われたとおりその辺にあった小石を投げ入れる。



「……なんも起きないな」



「はい、ただの線ですから」



「え、怖っ」



「そんな引かないでくださいよ!本質はここからなんですぅ!


ゴホン!……ではオルネアさん、よく聞いてくださいね。


実は、んです。


さっ!もう一回小石を投げ入れてみてください」



半信半疑、むしろ疑いのほうが強いが小石を投げ入れる。

放物線を描いた小石が魔力線の内に入った瞬間。


魔法の気配も、魔力の流れも、何の前触れもなく。


――小石に火が付いた。



「これは……」



「これが認識と概念です。極小の現実改変って奴ですね」



「もっと分かりやすく」



「ん~っと……。

簡単に言ってしまえば強烈な思い込みですね。


気づきませんでしたか?

この魔力線には何の効力も有りませんけど、私が発した言葉には魔力が込められていました。


私みたいに力あるものが行使すると言霊にも影響を与えることが出来るんです。

むしろこの小石を燃やしたのはオルネアさんなんですよ。


でも、これが出来るのはこの円範囲に超絶的に限定したからでありまして……。

辺境村とかその辺のただの人が、

「あそこに立ち入ったら不吉な事がぁあ~~」なんて嘯いても意味はありませんけど、今みたいに――」



尚も語るアルアを見て、湧き上がる不思議な感情に納得していた。


に気づかなかったということは、

このエルフに対して無防備を晒しているということ。


旅を共にするにあたって、既にこのエルフは心強い味方となっていたのだ。


それを認めたくなかった。

いや……、認めていることを意識していなかった。

だから悔しいなどと素直になれなかったのだ。



「――って感じです。


この言霊でなら!勿論オルネアさんの可否にもよりますけど……。

魔法の耐性を無視して、擬似的な魔法を掛けることが出来るんです。

そう仕向けた、と云った方がより正確ですけどね。


どうですか?為になったでしょう?」



「……ああ」



認めたことを知られたら更に厄介になりそうだったので……。


外套を目深に、満足げなエルフの顔を見ないようにして眠りにつくのだった。

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