第30話 邪竜VS魔力少女〜弐〜天才

「起きてくださいクソ兄貴。ふふふ……やっぱり、魂を繋ぎ続けている間は、まだ私の魔力なんですねヴァイルさん」


 シーラは魔力を失ったヴァイルを見て一安心し、柔らかい笑みを見せた。

 ヴァイルは信じられないものを見る目でシーラを見つめる。


(やられた……まるで小さい糸のようだが、俺様とシーラの魂が繋げられている……何故気づけなかった……魂の影響を押し付けているが、完全に押し付けられるわけではない……いや、押し付けられなくなったというのが正解か……? どちらにしろ、運悪く【口封じ】も【亡失】も反動が来たのはきっとその影響だ……)


「人間の魂は強固な竜の魂と違い脆弱だ……俺様の魂にまで影響をもたらす状態なら人間の魂なんて一瞬で破壊されてしまうだろう……どんな手品を使ったシーラ……?」


「ヴァイルさんが言ってたじゃないですか……魔力は万能だって……魂が壊れるたびに魔法で直していただけですよ」


「死と再生を繰り返すなんて人間の脆弱な魂でよくそんなことが出来たものだな……━━でも、まあ出来なくはないか……俺様も出来るしなそれぐらい……」


(こいつ本当に人間か……? 単純な魔法の才だけなら竜にすら届きうる……だが、高速で無数の残骸から完璧に魂を直し続けられたとしても、心身への影響は計り知れないはずだ……仮に魔法で同じことを出来る才能の人間がいてたとしても、すぐに廃人になるだろう……魔法の才能もそうだが、それ以上にどういう精神してやがる……)


「おぼぼ……溺れるぜ……ぐは……うぐっ……」


 意識を戻しかけたマキシム苦しそうに声を出し再度意識を失った。

 シーラが慌ててマキシムを呼び掛ける。


「え? ちょっと……どうしたんですかクソ兄貴?」


「普通そういうのは匂いを嗅がせるものじゃないのか? マキシムを殺すつもりかシーラ……?」


「えぇ……そうなんですか……?」


「フハハハ。しくじったなシーラ。確かに俺様にはもう魔力はない。だが、マキシムならともかくお前なら殺せるぞ。もしかしてナイフがあれば俺様に勝てると思っていたか? 」


 ヴァイルはシーラを押し倒し、ナイフを持っていたシーラ右手を押さえ付けた。

 押し倒されたシーラはハート目になり身体を疼かせる。


「くっ……やっぱりキツいですねこれ……だからヴァイルさん……このナイフは……こう使うんです……」


 シーラはナイフの刃を強く握り締めた。

 鮮血が飛び散り、痛みでシーラは理性を少し取り戻す。


(何故、ナイフを握ったんだ? 血を使った目眩ましか……?)


「クソ兄貴が使えないことは予想外でしたが、この状態は予想していましたよヴァイルさん。これ魅力するスキルですよね!?」


「魅力するスキル? 何を言って……」


「え? 違うんですか……?」


「まあ良い……まさかここまで追い詰められるとはな……だが俺様の勝ちだシーラ」


 ヴァイルはシーラの息を止めようとシーラの首元へと左手を持っていった。

 気絶した状態で酒に溺れそうになっていたマキシムがついに目を覚ます。


(起きやがったのかマキシム……)


「ぐはっ……うお……死ぬかと思ったぜ……ところでこれはいったいどういう状況なんだシーラ?」


「あ、クソ兄貴……ヴァイルさんがあの人たちからラアナを守ってくれました。ただ、魔法をかけられてしまったみたいで、敵と味方の区別がついてないみたいなんです……だからヴァイルさんを倒してください」


「お、おう……」


「早くしてくださいクソ兄貴! あとヴァイルさん、魔力切れてるみたいなんで、殺さないように気を付けてくださいね」


「分かったぜ。おらあ」


「何とかシーラだけでも……━━うわっ」


 シーラを殺そうとしたヴァイルの足をマキシムが引っ張り上げた。

 その結果、バランスを崩したヴァイルはシーラの唇を奪う。


「残念でしたねヴァイルさん。私の勝ちです━━(ひゃっ……唇が触れて……)」


「離せマキシム!」


「やっぱり正気じゃないみたいだな……おい、ヴァイル暴れるんじゃないぜ」


(クソ……抜けられない……魔力も呪力も切れた……魂は疲弊してスキルもろくに使えない……駄目だ……もう終しまいだ……)


 暴れるもマキシムから逃れられず諦めたヴァイルは力を緩めた。

 ヴァイルの目に唇を奪われたシーラが映る。


「あっ……ヴァイルさん……唇は駄目です……痛みより気持ち良さが勝っちゃいますよ……私、そんなのじゃもう満足出来ないです……頭が真っ白になっちゃう蕩けるようなディープキスをしてくれませんか? ……もっと……もっと私のこと愛して……」


(何を言ってるんだこいつは……戦闘中にも関わらずキスがしたいだと……俺様はこんな頭のおかしい奴に負けたのか……━━いや、まだだ……)


「痛……足が……」


「ヤベえ……強く握り過ぎたか?」


 マキシムの力が弱まった。

 その隙を見て抜け出したヴァイルはシーラに近づきナイフで怪我したシーラの右手を握り締める。


「俺様に勝ったと思ったのがそんなに嬉しかったか? この上なく幸せそうだなシーラ」 


「痛っ……━━はっ……ヴァイルさん……別にキスされて幸せとか、そんなんじゃないですから……というか、ちゃんとヴァイルさん捕まえててくださいよクソ兄貴!」


「悪い……力加減が難しいんだぜ……」


「知ってるかシーラ? スキルには大きく分けて三種類あるんだ。魂に魔法陣が刻まれた先天的スキル。世界から与えられる【勇者】や【魔王】といった付与スキル。そして肉体に刻まれる後天的スキルだ。これは長い鍛錬や強い感情の起伏等で発現率が上がる。追い詰められた今ならそれが発現すると思わないか!?」


 赤と白と黒の光が発せられヴァイルは身体に魔法陣が浮かび上がった。

 ヴァイルはシーラに頭に頭突きして歯を見せる。


「きゃあ……」


「成功だ……最初、他者へのみの付与スキルなんて刻まれた時には終わったと思ったが、複数刻まれて助かったな……組み合わせれば悪くない……」


「うぅ……まだ何かするつもりですかヴァイルさん?」


「そうだな……簡単に言えば俺様とお前に同じランダムなスキルが一つ付与され使えるようになる。俺様に転生者のラックスキルを再現した状態でな。この意味が分かるか? 【追憶再現=理外の幸運】【無作為付与】【付与共有】さあ、二回戦だ! どんなスキルが出るかは知らないが、せいぜいマキシムに当たらないように気を付けろよシーラ!」


「あ、ヴァイル。シーラから離れるぜ」


 ヴァイルはマキシムに捕らえれた。

 緊張するシーラの目に全裸のヴァイルが映り込む。


「(ヴァイルさんが裸に……これはいったい……━━しかし、カッコいい体してますね……それにあそこも……とっても大きくて……あんなのがもし入ったら私……)」


(あの転生者のラック(因果干渉)スキルも付与したんだし、それなりのスキルが付与されるはずだ。殺傷能力が少しでもあれば雑魚二人程度なんとでも……━━ん? シーラの服が消えた?)


「あれ? クソ兄貴も裸に……ヴァイルさんの見せてからクソ兄貴の見せてくるなんて、あまりにも酷い嫌がらせですね……うぷっ……私を吐かせるスキルですか?━━あっ、違う……もしかしてこれ……だとしたら……きゃー」


 シーラは股を押さえて内股になり、悲鳴を上げた。

 驚いて力加減を間違えたマキシムはヴァイルは空へと投げ飛ばす。


「どうしたんだシーラ!? ━━あ、投げちゃったぜ……」


「空はやはり良いな……しかし、この状況どこで……━━シーラにぶつかる……終わった……死ぬ……うわあああ」


 落下地点にシーラが見えたヴァイルは情けない叫び声を出した。

 ヴァイルの唇は吸い込まれるようにシーラの唇の元へと落ちていく。


「これで二度目ですよ……何やってるんですかクソ兄貴!? ━━え?」


 ━━空の邪竜は地へ落ちた。


 唇が触れ合うやいなや、おでこをぶつけ合った二人は、倒れ込んでピクピクと痙攣する。

 

「ヤベえ……やっちまったぜ……」


「ヴァイルさん……もっとキスしてください……私の初めても貰ってください……」


「えへへ……私とヴァイルの赤ちゃん産まれたよ……これで二十人目だね」


 マキシムは顔を真っ青にして頭を抱えた。

 スキルで回復し、元気いっぱいになったマキシムの周りには、血みどろで意識が朦朧とした三人が無惨にも転がっていた。


「クソが……何が【透視】だ……ふざけるな転生者ああああ!」


 ヴァイルは意識はついに失われた。

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