第29話 邪竜VS魔力少女〜壱〜魔力は回帰する

「えっと……よく分かりませんが、ラアナのことを守ってくれるなら、いくらでも媚びへつらってあげますよ。何だったら私の全てを捧げても構いません。ラアナやリューゲさんと比べると貧相かもしれませんが、どうぞ私の身体を好きなように使ってください。口でも胸でも……ここ……でも……私は何でもしてあげますよ」


 正体を明かしたヴァイルに、シーラは股を指差して、睨みつけながらそう呟いた。

 ヴァイルは邪悪な笑みで言葉を返す。


「え……? ああ、そういうことかシーラ。だが、お前では残念ながらラアナの代わりにはなれないぞ。確かにお前は莫大な魔力を持っているが、そんなものは適当に頭数揃えてラアナと共に自害させれば事足りるからな」


「そんな……ラアナを守ってくれるって……あの時、そう言ってくれたじゃないですか!」


「ふっ……守ってやっただろう? あいつらから」


「な? 屁理屈を……」


「そもそも、お前は何故、俺様と交渉出来る立場だと思っているんだ? ラアナもお前も全ては俺様のものだ。お前はラアナとは違い替えがきくが、それでも幾千人分の魔力を一人で補えるのは便利だしな」


「くっ……」


 シーラは表情を歪ませるとヴァイルに背を向けて走り出した。

 ヴァイルはゆっくりと歩きシーラを追う。


「どこへ行こうというんだ?」


「付いて来ないでください。(良かった……二人が見えてきました。もう少しで……)━━え? きゃあ……」


 ラアナとマキシムがいる近くまできたシーラは、ヴァイルの手加減した火球を足に喰らい、倒れ込んだ。

 竜に戻れる喜びに満ち溢れていたヴァイルは、ゆっくりと追い付くと、優しくシーラに語り掛ける。


「もう諦めろシーラ。俺様が見逃してやってもラアナの運命は変わらないぞ。ラアナは魔法でマーキングされてしまった。今度はあいつらが全力でラアナを狙いに来るだろうな。それにラアナの呪力がバレたら帝国やその他の国も黙っていない。どうやってラアナを守るつもりだ?」


「それは……そうかもしれませんが……それでもラアナは私の大切な家族なんです……家族を失うのはもう嫌なんです……お願いしますヴァイルさん……ラアナを守ってください……」


「ふっ……情で訴えるなら相手は選ぶことだな。そんなのに引っかるのは馬鹿だけだ。どうせ時間稼ぎをしてマキシムが呼んだ仲間を待つつもりだったんだろ?」


「応援が来る前に私を殺すつもりですか……?」


「そんな勿体無いことするわけないだろ。こうするんだ。【口封じ】」


 ヴァイルはスキルを発動し、シーラの身体に透明な鎖が巻き付いていった。

 胸、股、首と大事な場所を強く縛られたシーラは、虚ろな目で身をもがく。

 

「あっ……おっ……んぐ……」


「どうだ? これは俺様の悪評を流せなくさせるスキルだ。その鎖自体の力は弱いが、それが完全に巻き付けば、脳に魔法陣が付与され、もうお前は俺様の本性を知っていても何も出来なくな……」


 シーラを縛っていた鎖が弾き飛んだ。

 ヴァイルの体に激痛が走る。


(何だ? 失敗したのか……? それにこの痛みは……こうなったら……)


「クソ……ゴミスキルが……じゃあ記憶を消すしかないか……全部忘れさせてやるシーラ」


「待ってください……記憶を消すつもりですか……? ラアナたちとの記憶を消すなんてやめてください……それだけは……」


「フハハハハ。安心しろ。実際には多分そこまでは消えん。まあ消えたら消えたでそれでいいがな。【亡失】」


「きゃあ……━━え? あれ? いったい……私の何を忘れさせたんですか……?」


「鼻血? 失敗したのか……? 馬鹿な……呪術を使ったとはいえ、万全な転移者にも効いたスキルだぞ……くっ……体が……何だ……? この芯から来るような痛みは……」


 ヴァイルは目眩がして膝をついた。

 その隙にシーラは足を引き摺るようにして進んでいく。


「そういえばお前からは、帝都でラアナやリューゲのように、俺様を見てから記憶を取り戻しているところを見ていなかったな。莫大な魔力が無意識的に脳を守っていたということか。魂を繋げた時に俺様の魂の疲弊を見抜き、あえてスキルを使わせることで反動を狙っていたんだろ?」


「いえ、そんなの知らなかったです。魔法でいたぶってくるのは予想出来ましたが、スキルを使ってくるのは予想外でした。ただ、賭けはひとまず成功しそうです……戦いを観察していましたが、ヴァイルさんって負けそうな時は手段を選ばないくせに、勝てそうになると途端に遊び始めますよね?」


「ふっ……ふふ……だったらどうした? まだ諦めてないみたいだが、お前に何が出来る? 」


「はあ……はぁ……さあ、何だと思いますか……? スキルを使われそうになった時は焦りましたが、勝てそうだと思わせておけば、ヴァイルさんならきっとここまで来させてくれると思いましたよ」


 マキシムの元までたどり着いたシーラは息を切らしながらそう呟いた。

 マキシムが見えたヴァイルは思い付いたように口を開く。


「ああ、そうか。《ブラッディキッス》だろ? マキシムにキスして魔力を送るつもりだな。確かにお前の魔力を送れたら、マキシムでも今の俺様になら勝てるだろう。だが、あの魔法はもう俺様とお前の魂を繋げるだけの魔法だ。俺様以外とキスしても魔力を送ることは出来ない。残念だったなシーラ。お前にもう少し魔法の才能があれば、こんなことには……」


「気持ち悪いこと言わないでください! 精神攻撃のつもりなんですか!? 少し黙っててくれませんか!? 」


「……」


「クソ兄貴に戦って貰うのは当たりです。クソ兄貴のスキルは【肉体超回復】起こしたらすぐ戦えるはずです。ヴァイルさんはクソ兄貴に魔力を送られたら勝てないって言ってましたけど、それなら逆にヴァイルさんが魔力を失ったらどうなんですか? 魔力が切れた状態でクソ兄貴に勝てますか?」


「いくらマキシム相手でもその条件では勝てないだろうな。で、それがどうした? お前がくれた魔力はまだ切れそうにないぞ。というかさっきのは精神攻撃をしたつもりなんてなかったんだがな。少しは精神を鍛えたらどうだシーラ?」


「その話はもういいです。そうですか……それを聞いて安心しました。私の魔力、返してもらいますよヴァイルさん」


 シーラはそう言うとカスパーのスキットルを開け、思いっきりマキシムの口に突っ込んだ。

 ヴァイルは魔力を高め、魔法陣を見せびらかしながら嘲笑う。


「馬鹿め。一度渡した魔力を取り返せるわけないだろ。魂と魂の繋がりを切った時点でお前の魔力はもう俺様のものだ。まだそれなりに魔力は残っている。魔力が切れるかどうか確かめてみるか? ━━な? 魔力が……?」


 魔法を放とうとしたヴァイルの魔法陣が崩壊した。

 ヴァイルの魔力は一瞬にして消え去った。

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